あの散々だった合コンから一夜明けて、雪は一人大学の構内で突っ立っていた。

目の前には、青田先輩の背中がある。

雪はその背中に話しかけた。
昨日は‥と続けようとしたが、先輩はそっけない挨拶だけ残して、そのまま行ってしまった。

やはり怒っている‥。
雪はそのあからさまなまでの態度に、何も出来ずその背中を見送った。

授業開始前、聡美は雪の機嫌を取ろうとヘコヘコと雪の世話を焼いていた。

足は大丈夫?他にケガは無い?今日はとっても可愛いね、と媚びる聡美に、スネる雪。
後ろに居た太一が、
「仲の良い知り合いの友達だってのに、どうしてそんな致命的なヤツ紹介したんスか」
と苦笑しながら言うと、聡美はブチ切れた。

聡美は又斗内を紹介した男と、先ほど一波乱起こしたところらしい。
あんなヤツと二度と連絡取るかと声を荒げた。
太一が「ちょっと前までデレデレしてたくせに」とからかうと、より一層聡美の怒りボルテージは上がった‥。
「あ、私授業だ」

雪が立ち上がると、聡美は抱きついて彼女への愛を語った‥。
雪は食券10枚で許してあげると言って、そのまま授業へ向かう。

聡美はまだ謝り足りず雪に泣きついたが、太一に引きずられて違う授業に向かって行った‥。
雪はこれからの予定について、頭の中で反芻していた。

先ほど聡美から聞いたのは、”携帯を拾ってくれた人”と授業が終わってから30分後に落ち合うこと、
そしてその前に恵が会いたいと言っていたということ。
これから向かう授業は、青田先輩も取っている授業だ。

雪は先程の彼の態度を思い出した。思ったよりも怒っているみたいだった‥。
とにかく一度、しっかり謝らないといけない‥。
教室で目にした青田先輩の周りには、やはりいつも通り人が集っていた。

この授業が終わるまでに言うチャンスが無かったら、後を追いかけるしかなくて、
そうなったら色々と面倒なことになる‥。
雪はそんなことを考えたが、こんな状況に置かれてもああだこうだと迷っている自分自身を多少恥じ入った。

するとタイミング良く、周りの人達がバラバラと居なくなったので、
雪は彼に話しかけた。
「あの‥先輩」

雪は昨日はすみませんでしたと、頭を掻きながら彼に謝った。
あんなつもりじゃ‥と続けようとしたが、
先輩は「うん、分かった」と言ったきり雪から目を逸らした。

続けて恵のことを弁解しようとするも、
先輩は「俺プリント見ておきたいんだけど」と言って、視線を合わせない。

雪はそれ以上話を続けられなかった。
トボトボと自分の席に戻る途中、その様子を見ていた直美さんが話しかけてきた。
「ねぇどうしたの?二人何かあったわけ?」

「先輩怒ってるみたいだったけど‥雪ちゃん、あんた一体何やらかしちゃったのよ?」
その言葉に、雪は何と答えて良いか分からなかった。
「‥私も良くわかりません」とだけ言うと、サッと踵を返した。

授業開始時間より少し遅れて、教授が教室に入って来た。
彼はしょっぱなから、期末の課題の話を始めた。
「期末課題はグループワークだ。チームはランダムに4人1組でこちらが組んだ」

教授は続いて、特に4年生は先輩だからと手を抜かず真面目に取り組むように、
とギクリとしている柳先輩達の方を見て釘を刺した。
「当然クオリティーが高いことに越したことはないが、
私は共同体を最重視するということを忘れないように」

教授はそう言った後、チームメンバーを発表した。
学生たちは三々五々立ち上がり、チームごとにまとまって座った。
健太先輩が、わはははと豪快に笑う。

その隣に居る青ざめた雪は、健太先輩から背中を叩かれながら、
「お前と一緒なんて頼もしいな!」と言われていた。

チームメンバーはこの四人。
雪は早くも前途多難を感じていた‥。

すると隣りに座った女の子が、雪に声をかけてきた。
同じチームになれて嬉しいと言っている。

雪は口では「私も」などと言ったが、彼女の名前はおろか存在さえも思い出せないでいた。
そんな雪を見て、彼女は自己紹介を始めた。
「‥あたし清水香織。今まであんまり喋ったことはないけど‥先週挨拶したよね」

ヤバい、全然覚えてない‥。

しかし続けて彼女は言った。「去年は二人だけの秘密もあったし」と。
雪は急激に記憶が蘇ってくるのを感じた。

彼女は去年、平井和美が雪のコップに下剤を入れたのを、教えてくれた女の子だった。
その記憶の映像から、雪は彼女に「ヘアスタイル変えたよね」と声を掛けた。

会話はそのまま雪の持ってるカバンが可愛いという話になり、香織は似たようなものを持っていて、今度持ってくると言った。
すると今度は直美さんが雪に話しかけてきた。
「青田先輩とさっき何があったの?雰囲気が尋常じゃなかったよ」

雪はつい苛ついて、「本当に何でもありませんってば!」と少し強目に言ってしまった。

健太先輩と直美さんが、その微妙な空気に顔を見合わせる。
続けて健太先輩が、「そういや青田はどこのチームだ?」と言い出し、青田淳のチームを探して指差した。

青田淳のチームは、4年男子3人に、後輩女子が1人。
4年男子の中には優秀な佐藤広隆もいて、「完全に大当たりじゃねーか」と健太先輩は笑った。
「俺らも負けてらんねーぜ!頼むぜ赤山!」

いちいちリアクションの大きい健太先輩に、背後から先生が「静かにしなさい」と注意する。
雪は冷や汗ダラダラ‥。
雪は、青田先輩の横顔を見ながら思い悩んでいた。

謝ったところですぐに許してくれそうにもない‥。
だからと言って、このまま知らん顔するわけにもいかない‥。
そのままじっと彼を見ていた雪の方を、青田先輩は一瞬振り返った。

しかし雪と目が合うと、すぐに視線を逸らしてしまった。

雪はその姿に、その態度に、去年のデジャブを感じてしまう。

面倒くさそうな受け答え

興味無さそうな態度

それは最近まで雪が彼に対して抱いていた、その印象に他ならなかった。
去年の雪はその背中を見る度に、疎ましさや悪感情を感じていた。

けれど‥。

今、その背中を見つめる雪の心は、去年とはまた違う感情で満たされていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<弁解>でした!
清水香織、出てきましたね‥。彼女が波乱を起こすのはまだまだ先の事ですが‥。
先輩絶賛スネちゃま中ですね!頑張れ雪!
次回は<推測>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

目の前には、青田先輩の背中がある。

雪はその背中に話しかけた。
昨日は‥と続けようとしたが、先輩はそっけない挨拶だけ残して、そのまま行ってしまった。

やはり怒っている‥。
雪はそのあからさまなまでの態度に、何も出来ずその背中を見送った。

授業開始前、聡美は雪の機嫌を取ろうとヘコヘコと雪の世話を焼いていた。

足は大丈夫?他にケガは無い?今日はとっても可愛いね、と媚びる聡美に、スネる雪。
後ろに居た太一が、
「仲の良い知り合いの友達だってのに、どうしてそんな致命的なヤツ紹介したんスか」
と苦笑しながら言うと、聡美はブチ切れた。

聡美は又斗内を紹介した男と、先ほど一波乱起こしたところらしい。
あんなヤツと二度と連絡取るかと声を荒げた。
太一が「ちょっと前までデレデレしてたくせに」とからかうと、より一層聡美の怒りボルテージは上がった‥。
「あ、私授業だ」

雪が立ち上がると、聡美は抱きついて彼女への愛を語った‥。
雪は食券10枚で許してあげると言って、そのまま授業へ向かう。

聡美はまだ謝り足りず雪に泣きついたが、太一に引きずられて違う授業に向かって行った‥。
雪はこれからの予定について、頭の中で反芻していた。

先ほど聡美から聞いたのは、”携帯を拾ってくれた人”と授業が終わってから30分後に落ち合うこと、
そしてその前に恵が会いたいと言っていたということ。
これから向かう授業は、青田先輩も取っている授業だ。

雪は先程の彼の態度を思い出した。思ったよりも怒っているみたいだった‥。
とにかく一度、しっかり謝らないといけない‥。
教室で目にした青田先輩の周りには、やはりいつも通り人が集っていた。

この授業が終わるまでに言うチャンスが無かったら、後を追いかけるしかなくて、
そうなったら色々と面倒なことになる‥。
雪はそんなことを考えたが、こんな状況に置かれてもああだこうだと迷っている自分自身を多少恥じ入った。

するとタイミング良く、周りの人達がバラバラと居なくなったので、
雪は彼に話しかけた。
「あの‥先輩」

雪は昨日はすみませんでしたと、頭を掻きながら彼に謝った。
あんなつもりじゃ‥と続けようとしたが、
先輩は「うん、分かった」と言ったきり雪から目を逸らした。

続けて恵のことを弁解しようとするも、
先輩は「俺プリント見ておきたいんだけど」と言って、視線を合わせない。

雪はそれ以上話を続けられなかった。
トボトボと自分の席に戻る途中、その様子を見ていた直美さんが話しかけてきた。
「ねぇどうしたの?二人何かあったわけ?」

「先輩怒ってるみたいだったけど‥雪ちゃん、あんた一体何やらかしちゃったのよ?」
その言葉に、雪は何と答えて良いか分からなかった。
「‥私も良くわかりません」とだけ言うと、サッと踵を返した。

授業開始時間より少し遅れて、教授が教室に入って来た。
彼はしょっぱなから、期末の課題の話を始めた。
「期末課題はグループワークだ。チームはランダムに4人1組でこちらが組んだ」

教授は続いて、特に4年生は先輩だからと手を抜かず真面目に取り組むように、
とギクリとしている柳先輩達の方を見て釘を刺した。
「当然クオリティーが高いことに越したことはないが、
私は共同体を最重視するということを忘れないように」

教授はそう言った後、チームメンバーを発表した。
学生たちは三々五々立ち上がり、チームごとにまとまって座った。
健太先輩が、わはははと豪快に笑う。

その隣に居る青ざめた雪は、健太先輩から背中を叩かれながら、
「お前と一緒なんて頼もしいな!」と言われていた。

チームメンバーはこの四人。
雪は早くも前途多難を感じていた‥。

すると隣りに座った女の子が、雪に声をかけてきた。
同じチームになれて嬉しいと言っている。

雪は口では「私も」などと言ったが、彼女の名前はおろか存在さえも思い出せないでいた。
そんな雪を見て、彼女は自己紹介を始めた。
「‥あたし清水香織。今まであんまり喋ったことはないけど‥先週挨拶したよね」

ヤバい、全然覚えてない‥。

しかし続けて彼女は言った。「去年は二人だけの秘密もあったし」と。
雪は急激に記憶が蘇ってくるのを感じた。

彼女は去年、平井和美が雪のコップに下剤を入れたのを、教えてくれた女の子だった。
その記憶の映像から、雪は彼女に「ヘアスタイル変えたよね」と声を掛けた。

会話はそのまま雪の持ってるカバンが可愛いという話になり、香織は似たようなものを持っていて、今度持ってくると言った。
すると今度は直美さんが雪に話しかけてきた。
「青田先輩とさっき何があったの?雰囲気が尋常じゃなかったよ」

雪はつい苛ついて、「本当に何でもありませんってば!」と少し強目に言ってしまった。

健太先輩と直美さんが、その微妙な空気に顔を見合わせる。

続けて健太先輩が、「そういや青田はどこのチームだ?」と言い出し、青田淳のチームを探して指差した。

青田淳のチームは、4年男子3人に、後輩女子が1人。
4年男子の中には優秀な佐藤広隆もいて、「完全に大当たりじゃねーか」と健太先輩は笑った。
「俺らも負けてらんねーぜ!頼むぜ赤山!」

いちいちリアクションの大きい健太先輩に、背後から先生が「静かにしなさい」と注意する。
雪は冷や汗ダラダラ‥。
雪は、青田先輩の横顔を見ながら思い悩んでいた。

謝ったところですぐに許してくれそうにもない‥。
だからと言って、このまま知らん顔するわけにもいかない‥。
そのままじっと彼を見ていた雪の方を、青田先輩は一瞬振り返った。

しかし雪と目が合うと、すぐに視線を逸らしてしまった。

雪はその姿に、その態度に、去年のデジャブを感じてしまう。

面倒くさそうな受け答え

興味無さそうな態度

それは最近まで雪が彼に対して抱いていた、その印象に他ならなかった。
去年の雪はその背中を見る度に、疎ましさや悪感情を感じていた。

けれど‥。

今、その背中を見つめる雪の心は、去年とはまた違う感情で満たされていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<弁解>でした!
清水香織、出てきましたね‥。彼女が波乱を起こすのはまだまだ先の事ですが‥。
先輩絶賛スネちゃま中ですね!頑張れ雪!
次回は<推測>です。
人気ブログランキングに参加しました
