雪の高校時代からの親友、萌菜が雪を訪ねてやって来た。
二人は電話ではよく話すものの、顔を合わせるのは久しぶりだ。
ベンチに座りながら、まずは萌菜の近況について聞いた。
萌菜は大学を休学し、上京して来たという。知り合いの服飾関係の仕事を手伝うことになったと言う萌菜は、
色々社会の経験を積んで、またその先の進路は考えるつもりと言った。
萌菜は雪に、両親とは上手くいっているか、お父さんとの関係はどうかと、雪の家族について尋ねた。
雪は父親とは相変わらずで、最近は仕事が上手くいってないから大変みたいと頭を掻いた。
自炊だから節約もしなきゃならないし、勉強も死ぬ気でやらないと‥と言う雪に、萌菜はいい子いい子する。
二人にはそれぞれ弟や妹がいて、彼女らは姉としてそれぞれの弟や妹についての近況を語り合った。
雪の弟、蓮はアメリカにて留学生活満喫中で連絡の一つもナシ、と雪は嘆いたが、
萌菜の妹は去年バイク事故を起こしたに関わらず、またバイクを乗り回して遊んでいると萌菜は青筋を立てた。
そういえば去年の夏休み、横山とのことを相談しようと萌菜に電話した時、丁度妹がバイク事故を起こしたところで、
相談出来なかったのだ‥。
その後、雪と萌菜は共通の知り合いの話や担任の先生に子供が生まれた話など、
久々のガールズトークで盛り上がった。
すると萌菜が、「あっそうだ!」と突然声を上げた。
「私、例の青田先輩って人が超気になってたんだけど!
電話でよくその人のこと喋ってたでしょ?」
雪はタイムリーな話題にドキリとした。
ひと目見ておきたいと言う萌菜に対して、雪は「実は‥」と切り出す。
かくかくしかじかで、青田先輩はけっこう傷ついたみたいと雪は事情を説明した。
すると萌菜は、雪の予想だにしなかった答えを口にする。
「なーんだ。それってただ拗ねてるだけじゃん」「えっ?」
雪はまさか、と返したが萌菜は「話を聞く限り100パー拗ねてるだけ」と言った。
恵のことがないとも言い切れないけど、と付け加えもしたが。
続けて萌菜は言った。
今まで尽くしてあげていたのに、
自分の知らない隙に合コンになんか行かれたもんだから裏切られた気分なんでしょう、と。
「つ、尽くすって?」
雪は理解が追いついていかず質問したのだが、またしても萌菜は雪の考える斜め上の回答をした。
「あんたに気があるってことじゃない?」「はぁ?!」
その間の抜けた返答に、萌菜は雪の耳を引っ張った。
(はぁ?という間の抜けた返事は高校時代からの雪の口癖だ)
萌菜の自信たっぷりな意見に対して、雪は依然として半信半疑だ。
萌菜は雪の鈍感っぷりにやれやれと溜息を吐いたが、
「とにかくいち早く解決すべきだ」と結論を述べる。
雪は、このままだと気持ちも晴れないし‥と返答したが、萌菜は冷静にかぶりを振った。
「それより、夏休みの英語の塾代安くしてもらうことになったんでしょ?
このままじゃ後々通えなくなるんじゃないの?」
萌菜は続けた。
雪の父親の事業が上手く行っていない今、このチャンスを逃すなんてもったいないと。
雪は考えもしなかった意見を耳にして、二の句を継げなかった。
「正直、去年あんたの話を聞いてからというもの、書類蹴ったのもそうだし、
マジでちょっと変わった人だなって思ってたんだよ」
萌菜は”青田先輩”がマジで気に食わないとハッキリ言った。
出来ればこの機会に関係を切れ、と言いたい所だと。
けれど、萌菜は雪の大学生活の方が心配だった。
”青田先輩”と険悪になれば、その後の雪の学生生活に支障が出るからだ。
「とにかく今は良くしてくれてるってんだから良かったよ。
あんまり深く考え過ぎないで、さっさと解決しちゃうべきだね」
適当にあしらって適当に繕って、あまり深入りし過ぎるなと萌菜は雪に忠告した。
雪はそんな親友の姿を、何も言えず見つめていた。
心の表面に、沢山の忠告が被せられて心が覆われて行く。
萌菜は、そろそろ行かなくちゃと立ち上がった。
雪も携帯を取りに行かなくてはならないので、後に続いた。
萌菜は新しい環境や仕事で当分忙しく、雪も期末テストが控えているので多忙だ。
また時間出来たらゆっくり話そうねと、二人は言葉を交わした。
「うん、久々に会えてよかった」
雪がそう言って浮かべた笑顔は、高校時代から何も変わっていない。
萌菜はフッと微笑って言った。
「雪、高校の時にも言ったよね?世渡り上手になれって。分かった?」
スルスルと細い道を行く狐のようにしなやかに、そして時に小狡く。
バカ正直もほどほどに、と萌菜は言った。雪の肩を優しく叩きながら。
二人はそうして別れた。手を振り合って。
小さくなる萌菜の後ろ姿を見ながら、
雪は彼女からのアドバイスをずっと反芻していた‥。
ここはA大学近くの、とあるカフェ。
河村亮は、先ほどからある人物を待っていた。
その人物が落とした携帯電話を片手に、その中身をチェックしながら。
青田淳からの何件もの不在着信、意味深なメール、並んで写した二人の写メ。
いつか大学で見かけた無邪気な淳の笑顔、「何の関係でもない」と言うあの女、自分の働くレストランでの合コン‥。
亮は携帯の履歴といくつかの事実とを重ね合わせて、一つの真実に辿り着いていた。
「そーゆーことねーん」
待ち合わせ時間はもう目前。
亮は口元に笑みを湛えて、携帯の落とし主が現れるのを待っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<旧友からのアドバイス>でした。
萌菜さん男前ですね!雪が高校時代一番仲の良かった友達であります。
萌菜さんのアドバイスは確かに世渡り上手な意見です。けれどそういう心で近付いたならきっと青田先輩は見抜くだろうし、
そういう雪だったとしたらきっとここまで先輩は接近しなかったでしょう。
雪の生真面目さ、バカ正直さがよく出てる回だったと思います。
次回<俺様からのアドバイス>です。
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二人は電話ではよく話すものの、顔を合わせるのは久しぶりだ。
ベンチに座りながら、まずは萌菜の近況について聞いた。
萌菜は大学を休学し、上京して来たという。知り合いの服飾関係の仕事を手伝うことになったと言う萌菜は、
色々社会の経験を積んで、またその先の進路は考えるつもりと言った。
萌菜は雪に、両親とは上手くいっているか、お父さんとの関係はどうかと、雪の家族について尋ねた。
雪は父親とは相変わらずで、最近は仕事が上手くいってないから大変みたいと頭を掻いた。
自炊だから節約もしなきゃならないし、勉強も死ぬ気でやらないと‥と言う雪に、萌菜はいい子いい子する。
二人にはそれぞれ弟や妹がいて、彼女らは姉としてそれぞれの弟や妹についての近況を語り合った。
雪の弟、蓮はアメリカにて留学生活満喫中で連絡の一つもナシ、と雪は嘆いたが、
萌菜の妹は去年バイク事故を起こしたに関わらず、またバイクを乗り回して遊んでいると萌菜は青筋を立てた。
そういえば去年の夏休み、横山とのことを相談しようと萌菜に電話した時、丁度妹がバイク事故を起こしたところで、
相談出来なかったのだ‥。
その後、雪と萌菜は共通の知り合いの話や担任の先生に子供が生まれた話など、
久々のガールズトークで盛り上がった。
すると萌菜が、「あっそうだ!」と突然声を上げた。
「私、例の青田先輩って人が超気になってたんだけど!
電話でよくその人のこと喋ってたでしょ?」
雪はタイムリーな話題にドキリとした。
ひと目見ておきたいと言う萌菜に対して、雪は「実は‥」と切り出す。
かくかくしかじかで、青田先輩はけっこう傷ついたみたいと雪は事情を説明した。
すると萌菜は、雪の予想だにしなかった答えを口にする。
「なーんだ。それってただ拗ねてるだけじゃん」「えっ?」
雪はまさか、と返したが萌菜は「話を聞く限り100パー拗ねてるだけ」と言った。
恵のことがないとも言い切れないけど、と付け加えもしたが。
続けて萌菜は言った。
今まで尽くしてあげていたのに、
自分の知らない隙に合コンになんか行かれたもんだから裏切られた気分なんでしょう、と。
「つ、尽くすって?」
雪は理解が追いついていかず質問したのだが、またしても萌菜は雪の考える斜め上の回答をした。
「あんたに気があるってことじゃない?」「はぁ?!」
その間の抜けた返答に、萌菜は雪の耳を引っ張った。
(はぁ?という間の抜けた返事は高校時代からの雪の口癖だ)
萌菜の自信たっぷりな意見に対して、雪は依然として半信半疑だ。
萌菜は雪の鈍感っぷりにやれやれと溜息を吐いたが、
「とにかくいち早く解決すべきだ」と結論を述べる。
雪は、このままだと気持ちも晴れないし‥と返答したが、萌菜は冷静にかぶりを振った。
「それより、夏休みの英語の塾代安くしてもらうことになったんでしょ?
このままじゃ後々通えなくなるんじゃないの?」
萌菜は続けた。
雪の父親の事業が上手く行っていない今、このチャンスを逃すなんてもったいないと。
雪は考えもしなかった意見を耳にして、二の句を継げなかった。
「正直、去年あんたの話を聞いてからというもの、書類蹴ったのもそうだし、
マジでちょっと変わった人だなって思ってたんだよ」
萌菜は”青田先輩”がマジで気に食わないとハッキリ言った。
出来ればこの機会に関係を切れ、と言いたい所だと。
けれど、萌菜は雪の大学生活の方が心配だった。
”青田先輩”と険悪になれば、その後の雪の学生生活に支障が出るからだ。
「とにかく今は良くしてくれてるってんだから良かったよ。
あんまり深く考え過ぎないで、さっさと解決しちゃうべきだね」
適当にあしらって適当に繕って、あまり深入りし過ぎるなと萌菜は雪に忠告した。
雪はそんな親友の姿を、何も言えず見つめていた。
心の表面に、沢山の忠告が被せられて心が覆われて行く。
萌菜は、そろそろ行かなくちゃと立ち上がった。
雪も携帯を取りに行かなくてはならないので、後に続いた。
萌菜は新しい環境や仕事で当分忙しく、雪も期末テストが控えているので多忙だ。
また時間出来たらゆっくり話そうねと、二人は言葉を交わした。
「うん、久々に会えてよかった」
雪がそう言って浮かべた笑顔は、高校時代から何も変わっていない。
萌菜はフッと微笑って言った。
「雪、高校の時にも言ったよね?世渡り上手になれって。分かった?」
スルスルと細い道を行く狐のようにしなやかに、そして時に小狡く。
バカ正直もほどほどに、と萌菜は言った。雪の肩を優しく叩きながら。
二人はそうして別れた。手を振り合って。
小さくなる萌菜の後ろ姿を見ながら、
雪は彼女からのアドバイスをずっと反芻していた‥。
ここはA大学近くの、とあるカフェ。
河村亮は、先ほどからある人物を待っていた。
その人物が落とした携帯電話を片手に、その中身をチェックしながら。
青田淳からの何件もの不在着信、意味深なメール、並んで写した二人の写メ。
いつか大学で見かけた無邪気な淳の笑顔、「何の関係でもない」と言うあの女、自分の働くレストランでの合コン‥。
亮は携帯の履歴といくつかの事実とを重ね合わせて、一つの真実に辿り着いていた。
「そーゆーことねーん」
待ち合わせ時間はもう目前。
亮は口元に笑みを湛えて、携帯の落とし主が現れるのを待っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<旧友からのアドバイス>でした。
萌菜さん男前ですね!雪が高校時代一番仲の良かった友達であります。
萌菜さんのアドバイスは確かに世渡り上手な意見です。けれどそういう心で近付いたならきっと青田先輩は見抜くだろうし、
そういう雪だったとしたらきっとここまで先輩は接近しなかったでしょう。
雪の生真面目さ、バカ正直さがよく出てる回だったと思います。
次回<俺様からのアドバイス>です。
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