ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

危険な本

2022-06-24 08:14:34 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「危険な本」6月18日
 書評欄に、JT生命誌研究館名誉館長中村桂子氏による『「戦争をやめた人たち 1914年のクリスマス休戦」鈴木まもる文・絵(あすなろ書房)』についての書評が掲載されました。内容は誰もが一度は耳にしたことがある有名なエピソードです。
 『第一次世界大戦で、フランス、ベルギーに攻めこむドイツ軍をイギリス軍が迎えうつ最前線でのことだ。12月24日の夜、鉄条網を挟む二つの塹壕からクリスマスの歌が響き、いつしか一緒に歌っていた(略)その後4年間も続いた戦争の中で、彼らは撃ち合いを避けたという』という話です。聞いたことがありますよね。
 中村氏は、『敵と思っていた相手が音楽やスポーツを愛する同じ仲間であることに気づいて戦争をやめた人たちがいるのに~』と書かれています。この物語は、そういう話なのでしょうか。私の受け取り方は違います。
 人種差別や宗教差別と言われそうですが、私の解釈は次の通りです。
 当時のドイツ軍とイギリス軍の構成員は、多くが白人のキリスト教徒という共通点をもっており、そもそも理解し合える土壌があったから、心が通い合い同じ仲間と気付くことが可能になった。その結果、「戦闘」(戦争ではない)を実質的に止めることが可能になった。しかし、部分的な局面での戦闘を止めることはできても、戦争を止めることはできなかった。一度始まってしまった戦争は、個人レベルの友愛感情では止めることができない。それは、動き出した戦争という大きな歯車の前では、挟まった小石ほどの存在感もなく、戦争という歯車は回り続ける。だから、戦争をなくすには、戦争が始まる前の段階で、予兆を敏感に察知し行動を起こすしかないのだ。
 私は、この絵本が家庭で、あるいは小学校で、子供たちに「人間は、相手が同じ仲間だということに気付けば、戦争を止めることができるんだよ」というようなあまりにもナイーブな考え方を植え付けることに使われるのではないか、という危惧を覚えます。それは、反戦や平和教育にはなりません。先述したように、戦争を止める力にならないからです。
 戦争は始めるのは簡単だが、終えるのは非常に難しいというのは歴史の常識です。始まってしまった戦争を友愛で終わらせるというような荒唐無稽な話を信じ込ませるのではなく、何があっても戦争を始めさせてはならないということを強調し、戦争への道を歩み始める兆候に対する嗅覚を磨く、異なる考え方の排除、情報操作、真実の隠蔽、フェイクニュースの横行、国家=政府という発想の横行などについて危険だと感じる能力を身に付けさせることこそ大切です。
 この本は、部分的な戦闘を緩和することはできても、始まった戦争は簡単には終わらせることができないという教訓話として活用されるべきだと思います。

 

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