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本庶佑京大教授と小野薬品のオプジーボ裁判

2021年12月28日 | 健康・薬・食飲料

和解の概要

 

既に報道されている様に、ガンの薬、免疫阻害剤オプジーボに関する裁判が2021年11月12日に和解で決着した。その和解の内容は、小野薬品が本庶佑氏に50億円、京大に230億円を寄付するというもの。この金額の総額は、不思議なことに本庶氏側が要求した金額250億円より多い。裁判では双方の言い分が大きく異なるので、裁判所は和解を2回勧告し、ようやく決着したと新聞は書いている。

 

(本庶佑氏は、正式には京大「特別教授」ですがここでは京大教授と書きます)

 

ただし、この和解に至った裁判は、本庶氏側の本来の目的である特許対価料率のアップで争われたのではなく、米メルクとの和解金の分配比率で争われた。

(米メルクは、オプジーボ類似の「キイトルーダ」の製薬大手の会社)

 

2006年に本庶氏と小野薬品が交わした契約

 

両者は2006年に「小野薬品が販売するオプジーボの売上高の0.5%、他社から受け取るオプジーボ関連のロイヤリティ収入の1%を支払う」と言う契約を書面で交わした。ところが2011年頃(小野薬品は2013年頃と主張)から、「業界標準と比べて少なすぎる」と増額要求が本庶氏側から出されて交渉を行っていたが、双方が合意することは無かった。

 

米メルクに対する特許侵害訴訟で得た和解金の分配比率で争う裁判だった

 

小野薬品はオプジーボを開発するにあたって、米製薬大手・ブリストルマイヤーズ・スクイブ(BMS)を開発パートナーとしていた。

 

一方で、米メルクはオプジーボと同じ働きをするがん免疫阻害剤「キイトルーダ」の製薬大手です。小野薬品は、「キイトルーダ」が小野薬品の持つ特許を侵害していると米・メルクを訴えて、2017年に特許ライセンス料を小野薬品と開発パートナーの米BMSが受け取っている。この裁判で、本庶氏は小野薬品と協力していた。

 

今回の本庶氏と小野薬品の裁判は、小野薬品が米メルクとの特許侵害訴訟で得た和解金の分配比率について。本庶氏は小野薬品と一緒に米メルクを特許侵害訴訟の資料作りに貢献したが、メルクからの対価の分配について双方の主張に大きな隔たりがあった。これは、対価の分配について書面ではなく口約束だけだったので、言った言わないの水掛け論になってしまった。

 

本庶氏側の狙いはこうだと思う。オプジーボ特許自体の対価料率は、書面で契約しているので、料率変更の訴訟で勝つのは難しい。それで、口約束だけの米メルクとの特許侵害訴訟の和解金の分配比率で裁判を起こしたと推察する。

 

米・ブリストルは京大に55億円を寄付

 

この小野薬品の開発パートナーである米BMSは、2021年2月に55億円を京大に寄付し、本庶氏がセンター長を務める「がん免疫総合研究センター」本部棟の建設費にあてると発表している。こういう寄付も和解に影響しているように思える。

 

和解の内容と推察

 

2021年11月22日付の日本経済新聞には解説記事と小野薬品の社長へのインタビューが載っています。この記事を元に和解の中身を考えてみます。

 

和解の内容

①本庶佑氏に50億円を出す

②京大に230億円を寄付

 

この内容に関して、社長は次のように言っている。

(行間を読んで、()内は私の印象を書いています)

 

・本庶氏への50億円は、今回の訴訟と本庶氏が新しく起こす予定だった特許料率変更の訴訟の二つの訴訟に対する解決金とする

・当初に結んだライセンス契約の料率を変えることは、同業他社に迷惑かけることになるので、料率は変えたくなかった

(社長は「(従来の)契約通りのライセンス契約の料率で計算した金額」と言っているが、京大に230億円を寄付しているので、料率は実質的に変更しているようなもの)

・京大への250億円の寄付は、あくまで京大への寄付で、本庶氏への寄付ではない

(社長は「ライセンス契約の料率を上げたわけではない」と繰り返し強調している)

・京大への250億円の寄付を使った京大との協業は必ずしも考えていない

・小野薬品は、オプジーボの更なる普及で本庶氏と協力する

・本庶氏との裁判の当初は、十分勝てると思っていた

・世論など周囲の声が厳しかった

(社員が外部からいろいろ言われるらしいと推察する)

 

強気だった小野薬品がなぜ和解したか?

 

米・メルクからの和解金の分配比率に関しての争いは勝てると思っていたのだろうと推察する。言った言わないの争いであったが、小野薬品側には状況証拠が沢山あったのかもしれない。

 

一方、2006年に結んだオプジーボの0.5%と1%の特許・ライセンス料率を変更する件は、文書で取り交わした契約があるので裁判は勝てると思っていた。ただし、世界の料率と比較すると低いので、まともに料率変更の訴訟を起こされたら長引くし、負ける可能性もあると微かに思っていたかもしれない。

 

そして、想像以上に周囲からの声が大きく、味方が少なかったので、仕方なく和解したと受け取れる。

 

本庶氏の要求より多くなった理由

 

小野薬品は、本庶氏が要求している250億円よりも30億円多い280億円を払うことにした理由は、本庶氏がライセンス料率変更の訴訟を新たに起こす予定をしていたので、それの解決金も含んでいるという説明をしている。

 

小野薬品と本庶氏の今後

 

社長は、「本庶氏とはオプジーボの更なる普及で協力する」と言っているが、やらないだろうな。社長が強気だったのは、実務を担う社員が強気だったのでは?と推察する。本庶氏はがん免疫阻害剤の発想を出したことは確かだけど、実用化は小野薬品が苦労したので出来たという自負が強かったのだと、外部からは推測します。そうでなきゃ、無駄な裁判をここまで長引かせることは無かったと思う。

 

2021年12月28日

 


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