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半導体製造装置、「ナノインプリント」とEUVの最近の情報

2020年03月10日 | 会社

2018年12月3日のブログ「半導体露光装置、それにナノインプリントの2018年」の続きです。

 

キヤノンの「ナノインプリント」の状況

 

2020年2月18日の日本経済新聞に、キヤノンの光機事業(半導体露光装置などを担当)を統括する常務執行役員のインタビューが掲載されていた。その中に「ナノインプリント」について答えている部分がある。( 「 」内は原文を引用 )

 

「かなり進歩している」

「ハンコのような原理で接触するのでゴミが出やすいのはその通りだが、本当に少なくなった」

「重ねて何度も露光する際の精度もKrFなどの露光装置に近づいてきた」

「性能を上げるためもう一段頑張らないといけない」

 

言葉通りに受け取ると、「ナノインプリント」はまだ開発中で、製品化には時間がかかるということ。

 

「ナノインプリント」は下記参照。

20160819日の「半導体露光装置のどんでん返し~番外編その2「ナノインプリント」~

20170316日の「最近の半導体露光装置とEUV・ナノインプリントの補足

 

韓国サムスンと台湾TSMCのEUV露光装置

 

EUVは露光にExtreme Ultra Violet(極端紫外線、紫外線と軟X線の間の光)を用いた半導体露光装置。世界で作れるのは、オランダのASML(元はフィリップス)だけ。

 

TMSCとサムスン、そしてインテルがEUV露光装置を導入したのはかなり以前から報道されていた。そして、TMSCやサムスンがEUV露光装置を使って線幅10nm以下の半導体を製造しているという報道は何回かあったが、騙されたことがしばしば。その後の記事で、従来の露光装置を使っているような書き方に変わっていたこともあった。TMSCとサムスンが記者に妄想を引き起こすような言い方をしたのか、記者が妄想を膨らませて書いたのか? 

 

こういう記事で注意しなくてはならないのは、生産していると言っても、量産並みの生産性になっているかどうか? 特にEUV露光装置は高価なので、生産量や歩留まりなどが十分改善されていないと、生産していてもコストが引き合わない。

 

2019年11月1日の日本経済新聞の「半導体受託 サムスン猛追」の記事から一部引用する。(下線は私が書きいれた)

 

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ソウル郊外の華城(ファソン)工場内の新棟ではEUV露光装置の稼働準備を進める。半導体の設備投資に2019年1年間で約2兆円を投じる計画で、2020年初めにも本格稼働する。業界関係者によると、米クアルコムの最先端のスマートフォン用CPU(中央演算処理装置)を量産する見通しだ。

 サムスンは自社製スマホ用のCPU向けにEUV技術を使っており、受託生産にも応用する。

(省略)

受託生産で世界半分のシェアを押さえるTSMCは、既にEUVを使った回路線幅7nmの半導体を量産する。17日に年内投資額を50億ドル(約5500億円)も積み増したのは自信の裏返しだ。米アップルの次世代iPhone向け先端半導体の受注も確定した。

(省略)

サムスンとTSMCはともに「EUV技術で7ナノの半導体を量産したのはうちだ」と主張し、自社の技術力への強烈な自負心をのぞかせる。

(省略)

EUV露光装置はオランダのASMLが独占して1台150億円とされ、生産ラインを組めば数千億円規模が必要で、資金力と技術力がないと投資に踏み切れない。

(以下省略)

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下線部をまとめると

TSMCは、「EUVを使った回路線幅7nmの半導体を量産」

サムスンは「社製スマホ用のCPU向けにEUV技術を使っており」

と書いていて、いずれもEUV露光装置を使って線幅7nmの半導体を量産していると読める。

 

この記事の省略した部分では、EUV露光装置を使って線幅7nmを達成しているのは、台湾TSMCと韓国サムスンだけで、米インテルは量産に手間取っているし、この三社以外の半導体メーカーはEUV露光装置の導入をあきらめたと書いている。

 

次に2019年11月7日の日経産業新聞の「TSMC、設備投資1.6兆円」の記事から一部引用する。(下線は私が書きいれた)

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(省略)

 半導体は回路線幅の微細化が性能向上のカギを握り、現状では7nm品が世界最先端だ。9月に発売された米アップルのiPhoneのCPUも採用している。

 

 黄CFOによると、最大40億ドルの設備投資の引き上げ分のうち、15億ドルは7nm品の増産に振り向ける。残りの25億ドルは2020年春に量産を開始する次世代の5nm品に投じる。また、2020年末までには5nmより性能がやや劣る6nm品の量産も開始。

 

 TSMCは今年から7nm品の製造に「EUV露光装置」と呼ばれる特殊な装置を使う。蘭ASMLが微細化の限界を超えるため開発した次世代の装置で、1台1億ユーロ(約120億円)を超えるとされる。TSMCは7nm以下では原則としてこの装置を使って生産する方針。設備調整が難しく、導入しても使いこなせるか懸念も出ていたが、「問題は着実に改善した」(同社関係者)という。

(省略)

----------- ・  ----------- ・  ----------- ・  -----------

この記事はよくわからない書き方をしている。7nm品をEUV露光装置で量産していると思っていると、下の方では、今年からEUV露光装置を使うと書いてある。と言うことは、現在量産している7nm品はEUVではない従来の露光装置を使っていると読める。

 

昔10nmより線幅が細くなると、従来の露光装置では生産できないと言われていたので、TSMC が7nm品を従来の技術で生産しているのなら、それはそれでTSMCの技術はすごいことになる。

 

同じ会社の「日本経済新聞」と「日経産業新聞」では書き方が微妙に違うことが以前にも何回かあった。どっちが本当かと言われても、情報源が少ないので「実際のところはわからない」と言うしかない。

 

私は、EUV露光装置を用いて本当に半導体を「量産」しているのか懐疑的です。本当に量産しているのなら、こんな微妙な書き方をしない。既に書いている様に、EUV露光装置を用いた生産ラインは従来の線幅の生産ラインよりはるかに高価なので、「生産を開始している」かもしれないけど、生産量や歩留まりなどがまだ不十分で、コストに見合う「量産」は出来ていないと判断するしかない。

 

2020.03.10

(コメントへのコメント 2022.03.04)

現段階で納入企業が繰返し回路のメモリ作ってる東芝ってことではありますが、ナノインプリントでAMD 6nm Ryzen 6000 クラスのCPUもリーズナブルに量産できるんでしょーか?

というコメントが来ました。

日本経済新聞2021年10月19日に「半導体、ハンコ製法で逆襲」という記事が載っています。このなかで、キヤノンは「DRAMやCPUに展開したい」と言っているが、キオクシアは「フラッシュメモリーへの使用を目指す」とある。CPUを作る技術が出来るのは、まだまだ先なのでは。

 

 

 


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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2020-12-31 02:00:22
ナノインプリントで疑問なのは原版の作成方法です。
メモリのような繰り返しロジックは問題が少なそうな気がしますが、
CPUなどの機能性LSIやランダムロジック回路の原版を短波長光を使わずどうやって作るんでしょう?
ナノインプリントってのはメモリやディスプレイデバイスのような簡単な繰り返しロジックにおいてのみ利用可能な技術なんでしょうか?
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Unknown (Unknown)
2021-01-20 15:13:16
前のコメントの方へ。原版の作成はナノインプリントもEUVも従来方式(液浸多重露光)も電子ビームです。
メモリのような繰り返し部分なら早く安いがロジック部は遅くて高いのはどれも同じ。マスクの設計段階で電子ビームでの作りやすさを考慮して全体最適すべし、みたいな議論もあって最近はやってるはず。
等倍で精密に作る必要があるだけナノインプリントが高くつく。多重露光はマスク枚数が増えて高くつく。
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Unknown (Unknown)
2022-03-04 02:29:08
上の方に質問です。
現段階で納入企業が繰返し回路のメモリ作ってる東芝ってことではありますが、
ナノインプリントでAMD 6nm Ryzen 6000 クラスのCPUもリーズナブルに量産できるんでしょーか?
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