ほぼ週二 横浜の山の中通信

人と異なる視点から見る

能登元日地震と建物の震動実験

2024年01月19日 | 科学・技術

旧来の木造家屋の多くが倒壊

 

今回の能登元日地震では、旧来の木造家屋の多くが倒壊している。TVで見た限り、一階がつぶれて二階が一階の位置に来ている。理由として、耐震構造でないとか、屋根が瓦で重たいとか、地震のゆれの周期が1~2秒で木造家屋が壊れやすかったなどと言われている。

 

耐震構造の家屋も倒壊

 

また報道によると、旧来の木造家屋だけでなく、震度6強以上でも倒壊しないとする耐震基準を満たしたとみられる家屋の全壊も多数確認されているそうです。今までの地震によって住宅へのダメージが蓄積していたとの見方があるが、耐震基準に合致していても倒壊する場合があるのは当たり前。それは、耐震基準が過去の地震の震動を基準にしているから。

 

耐震基準と言っても、従来の地震を参考にして、揺れの周期とか、揺れの大きさ、揺れの持続時間を決めて、シミュレーションなり、実験を行っている。しかし、地震は場所によって周期も違うし、揺れの大きさも違うし、揺れの持続時間も違うし、その土地の地盤の構造も違う。したがって、ある地震に対する耐震基準を満たしていても、別の揺れが来れば倒壊することも当然ある。

 

昔の実験で予想外の結果が出た実験を思い出した

 

そういえば、過去のブログで思惑通りの結果が出なかった実験を思い出した。それは、鉄筋コンクリートの建物を揺らす実験で建物に損傷が起きたし、木造三階建を揺らす実験では見事に倒壊した。

 

コンクリート7階建ての建物が損傷

 

2015年2月2日のブログ「鉄筋コンクリートの建物を揺らした実験が新聞によって結論が違う」では、

・鉄筋コンクリート7階建ての建物の模型を揺らして耐震性を見る実験

・実際の木造三階建を揺らして耐震性を見る実験

の二つの実験を紹介しています。

 

このブログで紹介した震動実験はこちら。

http://www.bosai.go.jp/hyogo/research/movie/movie-detail.html#25

 

鉄筋コンクリート7階建ての建物は、壁に穴が空いたり、一階の柱が折れ曲がったりしていたが、建物が崩壊することは無かった。ただし、この実験では、ビルの下部が揺らす台にどのように固定されていたか、説明を読んでも分からない。もしかしたら、地盤上に建物を作るような模型での実験であれば、このビルは倒壊していたかもしれない。

 

木造三階建も危ない

 

木造三階建の実験では、「長期優良住宅」1棟と柱の接合部を弱くして「長期優良住宅」を満たさなくした住宅が1棟の計2棟を、震度6強相当で20秒揺らした。そうすると、「長期優良住宅」は見事にひっくり返りましたが、「長期優良住宅」を満たさなくした住宅は倒壊を免れたという想定外の皮肉な結果になってしまった。

 

この実験では、建物は揺らす台にしっかりと固定されているように見えるが、説明に記載されていないので分からない。もしかしたら、建物の強度の実験なので、固定してあったかもしれない。

 

今後の大地震では被害は想定より酷くなる

 

今までも、過去の地震で新しい知見を得て、新しい地震対策を行ってきた歴史がある。将来の地震で、ビルの倒壊が起きなければ幸運ですが、ビルの倒壊が起きる可能性は大きいと見るべきです。また、最近建てられた木造住宅は安心かというとそうでもないと思う。

 

と言いながら、建てられて30年以上経過している私の家も耐震補強するべきですが、なかなかやろうという気が起きない。耐震補強しても限度はあるし、倒れても仕方ないと思っているところがある。

 

2024年1月19日

 


能登元日地震で7階建てビルが倒壊するのなら東京・大阪ではもっと倒壊するはず

2024年01月16日 | 科学・技術

7階建てビルが横倒し

 

輪島市の朝市の近くにある7階建て(地下一階)ビルが右側に横倒しになった。隣の家を押し潰し、挟まれた人は救出されたが死亡が確認された。ビルが倒壊した写真は各メディアに掲載されていたが、下記のサイトを紹介しておきます。ビル倒壊後の写真と倒壊後のビルの底の写真が載っています。

 

輪島 地震で倒壊したビル “地下やくいに何らかの損傷か” | NHK | 令和6年能登半島地震

 

倒壊前の写真(下図)を見ると立派で丈夫そうなビルに見える。このビルが右側に倒れて、白黒の3階建て木造家屋を押し潰した。

 

複数のメディアの報道によると、このビルは地中に杭を打ち込み、その上にビルは建っていた。倒壊後の報道写真を見ると、横倒しになったビルの底に杭が着いていた跡はあるが、杭は見当たらない。(下のイラスト参照)つまり杭は地中に残り、杭とビルの底が剝れたか、抜けてしまったので、ビルは倒壊したとTVは言っていた。

 

下の写真は輪島市の中心部です。中央の赤い逆雨だれマークの生命保険会社の隣が倒壊したビルです。このビルがある輪島市河井町(朝市が開催されていたのも河井町)の辺りは川原田川の右岸(流れに向かって右側)で、海に注ぐすぐ手前です。いかにも、大昔は海で川原田川が運んできた土砂で陸地になったような軟弱地盤の様に思える。だから、杭を打って地盤を強化していたのでしょう。

 

同じ理由で高層ビルや超高層ビルが倒壊しないか?

 

地震の揺れで、地中に杭は残り、杭とビルの底が剝れて、ビルが倒壊するのなら、今後起きる地震で倒壊するビルは多数あるのでは?という疑問が湧く。

 

軟弱地盤に杭を打って、大きいビルが建っているところは日本にはザラにある。東京だってそうだし、大阪もそう。それが地震の揺れで杭とビルの底が剝れてしまうのなら、大阪だって、東京だってビルの倒壊がジャカジャカ起きても不思議ではない。

 

特に超高層ビルの場合は倒れると被害が大きい。今回と同じように杭とビルが剝れてしまったら、倒壊する可能性がある。

 

ここで解説 「改良杭」と「杭基礎」

 

私の俄か勉強によると、建物の基礎は地表まで強固な地盤であれば、杭を打たずに直接建物を建てる。浅い地層が軟弱で、より深い所に固い地層があれば、そこまで届く杭を打ってその上に建物を建てる。その杭の種類について。

 

「改良杭」

地盤改良工法の一つ。建物の基礎と杭は接続しない。杭と建物の基礎の間には、捨てコンや砕石が挿入されている

 

「杭基礎」

建物の巨大な荷重を地下の固い地盤で支える基礎工法の一種。杭と建物が接続されている。建物が転倒するのを防ぐために採用される。下のイラストは「杭基礎」の例。

「改良杭」にするか、「杭基礎」にするかは、地盤の固さや建物の高さや大きさによる。

 

ビルが倒壊しないのは地中に埋まっているから

 

そうすると、杭を用いない直接基礎や「改良杭」の場合はビルの地下部分と地盤との摩擦(粘性というべき?)で倒れないようになっていることになる。電柱みたいなものかな。

 

「杭基礎」の場合は、ビルの地下部分と地盤の摩擦に加えて、杭がビルの倒壊を防いでいる。しかし上のイラストを見ると、杭と建物の地下部分との接着部分は、建物全体の荷重がかかると耐えられないような貧弱な構造に思える。特に長周期地震動で超高層ビルが揺さぶられると、接着部分は耐えられるのだろうか? とてもそのように見えないけど。

 

超高層ビルは倒壊しないのか?

 

ネットで東京の超高層ビルの構造を見ると、地盤の良い場所では杭を用いない直接基礎でビルが建っている。そうすると、倒壊を阻止しているのは、建物の地下部分と周囲の地盤の摩擦だけ。超高層ビルであっても、地下部分は深くて地下5・6階程度のはず。この程度の深さで、超高層ビルの倒壊を阻止できるのかな?

 

超高層ビルにはいろいろな免震装置が付いていて、その効果を証明するために、ビルを揺らす画像を見たことがある。あれはビルの下部を揺らす台にしっかりと固定されているのでは?と思っていろいろ資料を探しても書いていない。今まで書いてきたように、建物を揺らす台にしっかり固定するという実験では不十分です。あるいは、実際は地中の構造も含めてシミュレーションや実験をしているけど、TVの画像はそれを簡単に見せるためにしたのだろうか? そうであれば良いけど?

(長周期地震動に免振構造は効果が小さいという意見もあるが)

 

超高層ビルは、胡散臭い感じがする。だいたい超高層ビルは大地震を経験していない。東北大震災の時、東京や大阪の超高層ビルは揺れたが、遠く離れた東北地方での地震であって、もっと近くの地震の直撃を受けていない。もっと近くで起きる大地震の直撃を受けて、大きい揺れが来たらどうなるんだろう? 地震の周期にもよるだろうけど。

 

2024年1月16日

 


体外受精の不都合な論文

2024年01月09日 | 科学・技術

今回は雑誌記事の受け売りです。

 

週刊ダイヤモンドに、

「大人のための最先端理科」生命科学  大隅典子 

と言う記事が時々掲載されています。大隅典子さんは東北大学教授です。

 

2023年12月23日/30日合併号のテーマは「体外受精の『リスク』は子や孫世代に伝わるのか」です。これは、論文誌に最近掲載された京大の篠原隆司教授の論文の紹介です。ただし、この論文で行われた実験は人ではなく、マウスを用いています。人による実験をする(出来たらの話ですが)と、少なくとも半世紀の時間がかかるので、実質不可能です。

 

実験の結論は「顕微授精だけでなく、体外受精(IVF)のみでも、子ども世代(F1)以降の健康に関してリスクがあることをマウスで示しています。一見、正常に見えるF1世代を交配して得た孫世代(F2)やひ孫(F3)世代に携帯的な先天異常が出現する他、見た目は正常なF1世代でも行動異常は認められ、F2でも同様との結果でした」というものです。

(「携帯的な」という言葉がありますが、もしかしたら漢字変換の間違いで「形態的な」でしょうか?)

 

つまり「体外受精で生まれた子は、見た目は正常でも、行動異常は認められた」そうで、「正常そうに見える子を交配してできた孫やひ孫に先天異常が出現するリスク」があるそうです。繰り返しますが、これはマウスを用いた実験です。

 

卵子や精子を体外に取り出して操作する時に、何らかの影響を与えるのでしょうか? そうであっても、別に不思議とは思わない。

 

人間の体外受精は広く行われているので、他人事では無い。体外受精を職業にしている人もいるので、この論文が本当なら影響は大きい。しかし、人間で確認するには数十年かかるので、数十年先に結論が出たとしても手遅れです。これは重い問題です。

 

出来るなら、体外受精のリスクは避けるべきでしょう。しかし現実問題として、マウスを用いた実験を信じて、体外受精のリスクを避ける人がいるかどうか? 法律で禁止するにはマウスの実験だけでは無理。マウスよりも人に近い、より良い実験方法があると良いのですが。

 

2024年1月9日

 


刺身の放射線測定は難しい 日常の放射線について

2023年09月15日 | 科学・技術

予定を変更して、あまり知られていない日常の放射線について書きます。なお、私は放射線測定の専門家ではありません。環境省の資料を使います。図は環境省の資料から、図の説明は環境省の資料を基に私が書きました。

 

身の回りの放射線(環境省)から。

201510mat1s-01-6.pdf (env.go.jp)

 

身の回りの被ばく量

(説明)

自然放射線(左上)

・宇宙から0.3mSv  

宇宙から放射線が来る。空気があると減衰するので、地上より上空の方が強い

・大地から0.33mSv  

土壌に含まれる鉱物による。例えば花崗岩は放射線量が多い。

・空気中のラドンから0.48mSv 

ラドンは気体です。土壌・建材から空気中に飛散します。

・食物から0.99mSv  

放射線を出す「カリウム40」は、カリウムに0.01%含まれている。カリウムは多くの食物の成分である。

・航空機0.11~0.16mSv 

上空にいくほど宇宙から来る放射線が強くなる。当然長時間の飛行ほど被ばく量が多い。それで、航空機乗員は決められた被ばく量を越えないように乗務する。

 

人工放射線(右)

・CTやX線撮影はX線を照射するので被ばくする。CTは照射時間が長く、強いので被ばく量も多くなる。

 

世界各地の放射線量

(説明)

放射線の多い地域(中国の陽江、インドのケララなど)は、土壌中の放射性物質が多いことに起因します。

 

日本でも地域差があります。花崗岩は放射線を出す鉱物が多いことが知られており、日本では表層に花崗岩が多い西日本で放射線量が高く、厚い関東ローム層で遮られる関東は低いことが知られています。

 

(まとめ)

 

人間は自然界からの放射線や医療用の放射線で被ばくしています。したがって、場所・食物・医療により、その人が被ばくする放射線量は変わります。

 

ということは、寿司ネタを1個測定して0.13マイクロシーベルトの数値が出たからといって、バックグラウンドの放射線値も考慮しないと、寿司ネタの測定値は当てにならない。まして、簡易測定器の値は信用できない。

 

環境省のデータから2枚の画像を参考にしましたが、他にも画像があるのでご参考に。

 

2023年9月15日

 


日本に巨大な線形加速器は必要か?

2023年07月20日 | 科学・技術

線形加速器の経緯

 

線形加速器を日本に誘致する問題は以前にも書いている。

 

2019年03月16日のブログ「ILCは不要

2013年4月21日のブログ「国際線形加速器ILCの日本誘致より、原発対策を!

 

ILCはInternational Linear Collider 国際・線型加速器です。collider なら「衝突器」で、「加速器」はacceleratorですが、上の様にしておきます。

 

現在の世界最大の加速器は、スイスのジュネーブ近郊の地下100mにある周長27Kmの円形加速器です。この加速器を用いてヒッグス粒子を見つけたので、ヒッグス粒子の理論を予測した人がノーベル賞を受賞しました。

 

しかし、粒子を円形に回すとエネルギーのロスが発生するので、加速に限界がある。そこで直線状の線形加速器でより速く加速させようというのが線形加速器を必要とする理由。

 

線形加速器を日本に誘致するという話になり、日本のあちこちが立候補したが、結局岩手県の北上山地が残った。しかし、こんな巨大な施設は地震大国の日本に不向きです。北上山地に活断層は無くても、近くで大地震が起きれば線形加速器も一緒に揺れるので、線形加速器にダメージを与えるはず。

 

線形加速器の建設費用は1兆円を越える

 

地下100mに直線で約30Kmの加速器を建設すると、建設費用は巨額になる。10年以上前の見積もりでは、建設期間10年で8000億円と見込まれるが、再見積もりをすると軽く1兆円を越えるはず。この費用の約半分を誘致した日本が拠出する。

 

費用はこれだけでなく、毎年の維持費が約400億円かかるが、この維持費の半分も日本が負担する。(この維持費も、再見積もりするとさらに増えるはず)

 

線形加速器以外の研究開発予算は減らされる

 

この線形加速器について、日本政府は従来の科学技術予算とは別枠の予算を組むつもりは無いとしている。しかし、日本の負担費用1兆円の半分として5000億円を従来の予算をやりくりするのは無理なので、また国債かな? 維持費も従来予算の枠内から流用すると政府は言っているが、そんなことできるのかな? いずれにしても、線形加速器以外の科学技術予算は減額されるのは必至で、線形加速器以外の科学者や技術者は反対している。

 

日本経済新聞は経済性を考えろ!

 

日本経済新聞は6月8日の記事「迫る中国 巻き返しへ 瀬戸際の次世代加速器」で「国会議員同盟」の活動再開を書いている。

 

この記事では、中国で新しい線形加速器の建設計画が進んでいるので、日本に新しい線形加速器を作らないと、線形加速器は世界で中国だけにしか存在しない状態になると煽っている。

 

アメリカも欧州も線形加速器の建設を辞退した 中国にやらせておけば

 

アメリカも欧州も一度は手を挙げたが、辞退した。結局、残ったのが日本と中国。だいたい、こういう計画にアメリカや欧州が乗ってこないのは、スイスの円形加速器から建設費用に見合う技術的な成果や経済効果が出なかったから。ノーベル賞は取ったといっても理論だけ。これでは、巨額の費用に対する見返りが小さい。

 

世界のもう一つの共同開発事業である核融合炉は、原発に代わる将来のエネルギー源と期待されているので、巨額な費用に対する見返りは大きい。したがって、フランスはちゃんと自国に誘致している。

 

私の意見は、線形加速器を中国にやらせればよい。中国は、自国だけで宇宙ステーションを作っているし、月面調査もしている。それに、この線形加速器でノーベル賞を取れるかもしれないので、中国としてもメリットがある。

 

日本はいつまでナンバー1を目指すのか?

 

北上山地に誘致する人たちは科学的成果が目的ではなく、金が地元に落ちることが目的だろうけど、こんな巨大な施設を作って、ノーベル賞を取りに行くそんな余裕は現在の日本には無い。あけすけに言うと、日本は加速器に携わる科学者や技術者の再就職対策に大金をつぎ込むことは無い。それにノーベル賞といっても、どうせ理論で取るので、実験で取るわけではない。

 

二番目では悪いんですか?

 

ところで、昔「二番目では悪いんですか?」と発言した議員に「1番目でなければだめなんだよ」と批判が相次いだ。これら批判した人たちは、次世代の線形加速器を日本に作ることに賛成なんでしょうね。それらの人に増税の負担お願いしますと言うと、「増税反対!」「国債を発行しろ!」というのかな。

 

2023年7月20日