2017年8月21日のブログ「中国で流行りのシェア自転車の疑問」の続きです。このブログでは、シェアした自転車を返却する時の「乗り捨て自由」とは、まさか街中どこでも自転車を乗り捨てられることでは無いだろうと書きましたが、中国のシェア自転車はその「まさか」のようです。街中どこにでも「乗り捨て自由」なんて、中国以外では許されないビジネスモデルです。
最近は、中国のシェア自転車が日本にも進出してきたので、メディアでも取り上げられることが多くなり、徐々に実態がわかってきました。フジテレビでは、中国の都市の道の端に大量の自転車がずらっと並んでいて、一部は投棄されている様子を紹介していた。そして兄ちゃんがトラック(トラックというよりは耕運機に荷台を付けたような車)の荷台いっぱいに自転車を乗せて、自転車を移動させていた。
それで改めてインターネットで捜した多くの記事の中から妥当そうな事柄を抽出し、中国のシェア自転車の実態をより明らかにしようと思います。下記点線内は、そのまとめです。
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(中国におけるシェア自転車の状況)
・中国全土で1600万台の自転車を1億6000万人が利用している。
これだと、10人で1台の自転車をシェアしている勘定になるけど、シェアする人が10人は多いと思う。適正は4~5人では? もしかしたら、シェア自転車を実際に利用している人はもっと少ない?
(中国でシェア自転車が伸びた理由)
・目的地が駅から1~3㌔と遠い場合が多いが、他に交通手段が無い
・自転車の盗難が多いので、自分で自転車を保有するのは神経を使う
・自転車天国だった頃のインフラ(自転車専用レーン、歩道に白線で区切られた駐輪スペースが多数あるなど)が残っている
・シェア自転車の使い勝手が良い(乗り捨ててある自転車が近くにある、あるいはGPSで自転車を直ぐに捜せる、乗り捨て自由、使用料の決済が簡単、使用料金が安い)
・平地が多いので自転車が使い易い(これは私の推測)
・交通政策として、政府が支援
・民間が多くの投資をしている。例えば
Ofo・・・アリババ主導で7億ドル調達
Mobike・・・テンセントから今年だけで8億ドル以上。鴻海精密工業も出資
(シェア自転車の事前準備)
①スマホで登録する
携帯電話番号、全国統一の身分証、実名登録、銀行口座に結び付いた(アリペイなどの)決済口座が必要。
「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」は仮名登録が可能らしいので、シェア自転車の会社によって上記の条件通り登録しているのか不明。上記の条件通り登録すると、仮名が実名と結びつくことになる。上記登録が実際にどのようにされているのかは詳細不明。わかったら、別の機会に紹介します。
中国政府は実名登録を推し進めていて、シェア自転車を正しく利用しているかなどの信用情報を他の信用情報と統一して管理することを目指しているが、現在はそこまで至っていない。
②数千円の保証金を預ける
(借りる一般的手順)
①利用者が自転車を見つける、またはスマホで近くの自転車を捜して予約(15分とかの予約の有効時間あり)
②自転車に付いているQRコードをスマホで読み取って、シェア自転車の会社に送信すると電子キーを解除してくれる
③乗る
④自転車を止めて、手動でキーを掛けると使用終了になる。
⑤解錠していた時間だけ課金され、使用料はスマホで決済
(業者)
オレンジ色の「Mobikeモバイク(摩拝単車)」と黄色の「Ofoオッフォ(共享単車)」が大手で、他に中小業者が多数。
(シェア自転車の仕様)
*使用料が30分0.5元(約8円)というシェア自転車もある
(シェア自転車の問題点)
・シェア自転車が道に溢れて通行の邪魔になる。捨てられた自転車の山が出来ている
・シェア自転車の盗難、破壊、放置、個人使用などルールから外れた使用が多い
・シェア自転車を経営している会社が倒産した時、保証金が返済されない事例がある
・政府は、信用情報の一元管理を目指していて、政府に信用情報が筒抜けになる(現在は過渡期で、一元管理までには至っていない)
(倒産する会社も)
・重慶の悟空単車Wukong Bike
投入した1200台のうち、9割が回収できず。多くで電子キーが破壊された。GPSは非搭載で、行方不明の自転車を追跡できないことも一因か?
・河北省・福建省で事業をしていた3Vbike
投入した約1000台のほとんどが戻らず。キーが破壊されたか? 盗難にあう自転車を当初2割と予想していたが、実際は投入した自転車のほとんどが盗難にあった
・南京市の町町単車
保証金の返金が未だ行われていない
・広州市の小鳴単車
保証金を返せない
・北京市の酷騎単車
保証金を返さない。保証金は5000円で100万台の自転車なので、保証金の総額は数十億円以上。「保証金目当ての事業じゃないか?」と非難されている。
(当局の規制の動き)
Forbes誌によると
・自転車が多すぎるので、総量規制を試みる(既に実施している都市もある)
・保証金の禁止
シェア自転車の会社が倒産しても、保証金を返済しない(できない?)会社があるため。また、保証金が違法な目的で使用されるのを防止するため。
・乗り捨て場所を決められた場所のみに限定。指定エリア外に駐輪した場合は罰金
これは、今まで「乗り捨て自由」だったビジネスモデルの大転換になり、中国流シェア自転車のビジネスモデルが崩れてしまう。こんな時期に、こんな大転換有りか?
・利用可能年齢を12歳以上に限定する
・実名での利用登録
・保険への加入(事故対策)
・(上海市・天津市の規制)自転車の使用年数を3年以下に
・(上海市・天津市の規制)200台の自転車に最低1人のメンテナンス要員
(事業の採算を考える)
モバイクの例で採算を考える
・使用料は30分16円
・自転車にライトが付いて無いので、1日8時間有料で使用すると仮定する
・自転車の原価16000円(ノーパンクタイヤ・GPS付きにしては安いような?)
・1日の使用料合計は、16円×2×8時間=256円
・自転車の原価16000円を稼ぐには、16000円÷(16円×2×8時間)=62.5日
2カ月程度で元が取れるのは、魅力的。稼働時間8時間は長いような気がするので、有料時間を半分の4時間としても4か月程度で元は取れる。
(日本に進出した「モバイク」の自転車事業)
札幌市でスタート
・自転車は「モバイク」の中国仕様そのまま(外観を見る限り。ただし、前かごは追加されているが、ライトは無い)
・保証金3000円
・決められた駐輪場所から自転車を借り、決められた駐輪場所(借りた場所でなくて良い)に戻す。
・定期的に自転車を再配置する
・駐輪場所は、コンビニ・ドラッグストアなどに設定
・使用料30分50円(キャンペーン価格)、8月中は無料という記事もあった
・使用料の支払いはクレジットカード
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ここまでが中国のシェア自転車の状況です。シェア自転車の利便性が高く、利用者も多いようですが、問題点も多いようです。このビジネスが中国で成り立っても、他の国で成立するかどうか?
2017年8月21日のブログ「中国で流行りのシェア自転車の疑問」では、決められた場所にシェア自転車を返却するという前提で問題点を考えてみましたが、ここでは街中どこでも「乗り捨て自由」という前提で問題点を再度考えてみます。
①街中あちこちに乗り捨てられた自転車の回収、あるいは移動はできる?
中国では、兄ちゃんが小さいトラックに自転車を積んで移動していたが、街中の狭い路地や見つかり難い場所に乗り捨てた場合は、GPSでも見つけ難いし、回収に手間がかかる。こういう自転車は使用頻度が少なくなるので、採算が合わない。
②タイヤの空気は抜けるし、パンクする。部品は破損するし、電池の寿命が来る
「モバイク」はノーパンクタイヤなので、空気抜けやパンクの心配は無い。その分、自転車は高価になる。「オッフォ」の自転車は、写真で見ると空気を入れるバルブが出ているので、普通のタイヤと思われる。そうすると、1カ月に1回は空気を入れなきゃいけないのでメンテ要員が必要になる。
ライトが付いてないので部品の破損は少ないかもしれない。錠やGPS用に電池は必要ですが、寿命は十分長いはず。
③盗難や廃棄された場合は対応できない
いくらGPSが付いていても、鍵を壊せば盗めるし、電池を抜けばGPSも電子キーも機能しなくなる。
④中国人のモラル(自転車を返却スペースまで返しにいくかどうか?)
これは言わずもがな。街中どこでも「乗り捨て自由」の場合でもモラルが必要だし、決められた駐輪スペースに戻す場合はもっとモラルが必要。中国人に出来るのかな? あるいはモラルに頼らず、強制的(違反者は法律で、または信用情報を利用して罰を与えるなど)に自転車を決められた場所に返却させるとか。GPSが付いていれば、決められたエリアに返却したか、直ぐにわかる。ただし、中国のGPSの精度による。
中国でシェア自転車の利用が増えている大きな理由を考えると、
①借りる時に簡単に見つけられる(それだけシェア自転車が街にあふれている)
②決められた返却場所まで返す必要なし
だと思います。
しかし、Forbesの記事によると、当局は「乗り捨て場所を決められた場所のみに限定」することを打ち出している。「乗り捨て自由」は、中国でシェア自転車の利用が増えている理由の一つと思われるので、返却場所を駐輪スペースに限定するとジェア自転車のビジネスモデルに大きな影響を与える。
だいたい、中国人が決められた返却場所まで、自転車を返しに行くかどうか? 歩道上に白線で区切られた駐輪スペース(ここに戻すようになるようです)は多くあるが、それでも行って帰ってこなくてはならない。そんな面倒なことを中国人がやるかな? いずれにしても、こんな基本的な変更をビジネスが進んでいる最中にやるか?
今後、中国におけるシェア自転車のビジネスがどうなるのか、興味津々ですね。中国のシェア自転車に関する日本人の意見を見ると、「中国は進んでいる」という少数意見と、「続くわけねえだろう」と冷ややかに見ている多数意見がありました。
中国でシェア自転車をやっている会社が日本に進出したとTVで紹介していたが、さすがに日本では街中どこにでも「乗り捨て自由」とはいかず、コンビニなどに駐輪場所を確保するらしい。日本でも、既にシェア自転車が都心などで営業しているが、サービスが広がっているという話は聞かない。
ここで先に揚げた(中国でシェア自転車が伸びた理由)の各項目を日本に当てはめた場合について検証します。⇒の後が私の判断です。
・目的地が駅から1~3㌔と遠い場合が多いが、他に交通手段が無い
⇒都会はある
・自転車の盗難が多いので、自分で自転車を保有するのは神経を使う
⇒盗難は少ない
・自転車天国だった頃のインフラ(自転車専用レーン、歩道に白線で区切られた駐輪スペースが多数あるなど)が残っている
⇒もともと少ない
・シェア自転車の使い勝手が良い(近くに自転車がある、あるいはGPSで自転車を直ぐに捜せる、乗り捨て自由、決済が簡単、使用料金が安い)
⇒ほとんどがダメ
・平地が多いので自転車が使い易い(これは私の推測)
⇒平地は少ない
・交通政策として、政府が支援
⇒無い(今のところ)
・民間が多くの投資をしている
⇒無い(今のところ)
こうしてみると、中国で「シェア自転車が伸びた理由」として挙げた項目のほとんどが日本では当てはまらない。
ということで、結論。こういうシェア自転車が身近にあれば便利と思う反面、日本中のどこでも永続的なビジネスとして成り立つのか(採算が取れるのか)、大いに疑問です。
2017.09.23
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