大きな声では言えないが、山のようにたまった洗濯物の洗い上がりを、「干しといてね」と頼まれたのは何年振りだろうか。
干してある洗濯物を「取り込んでね」という依頼は何度か受けてきたが、「干しといて」はあまり記憶にない。
言われた通り、朝早くにお日様を確認して、一枚一枚パッパッとふるってちゃんと干した。
飽くまでも、ハンガーや物干しざおにぶら下げて干しただけのことである。この手で洗濯機を回したわけでは決してない。
実は、そうせざるを得ない緊急事態に、止むを得ず対応したというのが実情である。
早春の遅い朝まだ明けやらぬ午前5時半。近くに住む娘から電話が入った。
「深夜から急な体調変化で、私と次男坊とが厳しい腹痛で、嘔吐が止まらない」というではないか。
スワッ!インフルエンザか。出勤に備えて準備を整えていたカミサンは急ぎ陣中見舞いに馳せ参じる。
二人の世話をしていると今度は三男坊が起きてきて、同じような症状を訴えたという。お父さんと兄ちゃんには全く異常なし。
症状を観察するに、インフルエンザというより食中りということかも。
兎に角応急処置と安心を与えるために、カミサンは突発休暇をとって午前中は看病に専念と相成った。
というような報告を後で受けるだけのジジ。頼まれた洗濯物を干すくらいしかできないとは、ちょっと情けないねー。
でもまあこういった緊急事態は、取り敢えず母親という女手が重宝するものだ。もっともっと大きな対応が必要となった時がこのジジの出番なのである。泰然自若と構えて、的確な判断を下す司令塔は必要なのだ。ということにしておいて・・・。
医師の診察では「食中毒」とのことで、インフルエンザではないことに不幸中の幸いと少し安心。
なんかしら一日中バタバタと落ち着かない気分で過ごしたが、大ごとにならずに先ずはよかった。
「スープの冷めない距離」というのが、ひところ流行った嫁と姑の程よい距離感を言い当てたらしいが、我が家の場合実の親子である。
それでも同居ではなく離れすぎてもいない、ちょうどいい距離ではある。
娘夫婦が家を立てる土地を探していたとき、絶対ここがいいよ、と今のところを推奨したのはこのジジである。
緊急事態に直接的な役割は果たせないが、「スープの冷めない距離」に住むお蔭で、こういった緊急時に寄り添ってやれる。
そんな所に家を建てさせた先見の明で、せめてものジジの名誉回復を。