咲き乱れる芙蓉の向こう、稲の天日干しが秋の日に映える。
夏の盛りから咲き始める息の長い花「芙蓉」。秋半ばの今もきれいな色を見せてくれる。
一本の木に、白やピンク、紅など複数の色の花を咲かせる。一見不思議な花木ではある。
そんな芙蓉の向こうに、刈り取ったばかりの稲の天日干しが見える。
のどかな田舎の秋を絵に描いたような風景が広がっている。
この天日干しは正確には「 稲木(いなぎ)」「稲掛け」「稲架掛け(はさかけ)」「稲架(はさ はざ はぜ)」など呼び方は色々ある。子供の頃には「ハゼかけ」と呼んでいた。
カマを持った手で稲刈りをしたのは昔の話。今ではコンバインと呼ばれる稲刈機で刈取り、束になって機械から放り出される。それを半分に手で分けて広げ、竹の竿に掛天日に頼るのがハゼかけである。
もっと発展したコンバインは、刈ると同時にモミを稲穂から取って貯蔵タンクに入れる。ワラは10cmほどに断裁されて田んぼに撒かれ、肥しにされる仕組みとなっている。これだとワラが残らない。
お正月用のしめ飾りなどの縄用品は全く作れないことになる。
そこで、刈取りはコンバインでも、その後の処理は手を施すことでワラを確保できる、という利点があるのがハゼかけである。もっとも、しめ飾りなどは、もち米のワラしか使わないのだそうな。ワラの長さが違って縄を編みやすい。
また一つ見つけた小さな秋。このように順調な実りを目の当たりにすると、遠い昔が思い出される。
『 小学4年の夏休み、隣のお年寄りに頼まれるまま、田の草取りに初挑戦した。
回転式爪のついた昔ながらの除草機を押したり引いたりしながら、前に進む。
頭からは真夏の太陽が降る。足元では、まかれた石灰が水と反応して、素足の
すねやふくらはぎはやけどするほどに熱い。がまん、がまんの半日。駄賃として10円もらった。
米作りの大変さを身をもって思い知ると同時に、、駄賃のありがたさ、裕福さが身にしみたあの夏。
以来、黄金色に染まる稲穂の波打つ季節は、また一つ気合を入れ直し、がまんを呼び起こす節目としてきた
つもりだが・・・ ・・・ 』
2013.10.8 毎日新聞「はがき随筆」 掲載