東京上野にある講談専門の定席、「講釈場本牧亭」が今日で閉店と相成った。
またひとつ、江戸時代をしのばせる庶民文化の灯が消えた感がある。
そもそも本牧亭とは、定期的な講談の興行と季節の日本料理を楽しむお店であった。
その歴史は150年に及ぶという。その頃のお江戸は、14代将軍家茂の許へ皇女和宮が御降嫁される異例の事態に湧いていた。
加えて、日本中が開国か攘夷か、勤皇か佐幕か・・・と民心を二つに裂いた維新前夜の沸騰する時代背景がある。そんな中でも庶民は講談を愛していたのだろう
講談といえば、あの七・五調にまとめ上げられた流暢な語り口には、何ともいえぬ愛着をおぼえ、リズム感のある説話に大いに魅力を感じたものだ。
しゃべりにも文章にも出来る限りあのリズムを忘れないよう心がけたい・・・と思ってはいるのだが。
父が聞かせてくれた昔話の多くは、今思えば講談の受け売りが多かったように思う。
赤穂浪士の中でも大石内蔵助は言うに及ばず「赤垣源蔵名残の徳利」とか、田端義男歌う「大利根月夜」の「平手造酒」(ひらてみき)などは何度聞かされたことか。それほどに、講談から多くの歴史や知識までも習得していたということか。
人間国宝「一龍斎貞水」師の怪談物や、赤穂義士伝などは、講談ファンにとってはしびれるような魅力がある。
但し、あまりにも調子よくしゃべり過ぎると「講釈師、見てきたようなウソを言い」と、冷やかされることもあるのでご用心。