漫画家アシスタント物語

漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。

漫画家アシスタント 諦めま章 その5

2012年07月27日 14時18分42秒 | 漫画家アシスタント

 ( この写真は、Jプロの入っているマンションの前にある喫茶店「P」です。午後の日差しがよく当たるお店で、
   明るい店内はいつもお客さんで賑わっています・・・・・・《 2012年7月、撮影 》 )


  【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】

 

                   その5  


    《 漫画家アシスタントが・・・最後のコーヒーを飲む・・・!? 》


 「 また電話してきやがった! 」

吐き捨てる様に無言電話について話す吉さん・・・・・

2008年の秋。

日本シリーズで巨人が西武に負けた第7戦・・・・・・

長さんが大好きな西武が優勝を決めたその瞬間に無言電話がかかってきたそうです・・・・・・

 「 このタイミングでかけてくるのはあいつ以外にはいない! 」

いつもの様に長さんを犯人と断定する吉さんでした。

前回は、吉さんが車を駐車するスペースに誰かが排便したという話を書きましたが、実は・・・
・・・・・・

その排便が2日続いたのです。 そのため、偶然通りかかった人が用を足したのではなく、意図
的にわざと同じ場所に排便した事になり・・・・吉さんが抱く疑惑が深まったというわけです。

もっとも、こんな話をJプロ( ※参照 )のスタッフ( 私を含む )がまともに聞いてはいませんで
したが・・・・・しかし、ただの冗談ではないか・・・・・などと、バカにしていたのは、良く
ありませんでした。

問題の深刻さを理解せず、吉さんの話を薄笑いで黙殺していた結果、スタッフ同士の人間関係に
少なからずダメージを与えていたのです。


それにしても、長さんがJプロに勤務していた2005年以前には、こんなトラブルなどまったくあ
りませんでした。

吉さんは、真面目な職人タイプで、妥協のないその背景画の実力は、他の有名漫画家( テレビ
番組にもよく出演していた女性漫画家 )からヘッドハンティングされるほどでした。( 丁重に
断ったそうです )

ちなみに熱烈な巨人ファンであると同時に、Jプロとアシスタントの仕事を心から愛していまし
た。( 私の様にJプロの仕事を嫌々やっているグ~タラ人間とは真逆な存在です )

漫画家アシスタントの仕事にとことん集中する吉さんは・・・

 「 この仕事場へ来ると生きがいを感じるよなぁ・・・・・ 」

・・・・・・ふと、そんな事をもらしていた事があります。

私は、その時に何と返答して良いか分からず黙っていましたが・・・・・・

 『 どうして、他人(ひと)の背景を描いてるだけなのに、生きがいなんか感じるんだろう? 』

正直、私はそんな風に感じたものです・・・・・・( 私は漫画家アシスタントの仕事を楽しいと
か、やり甲斐があるなどと感じたことはただの一度もありません )

J先生( ※参照 )にとって吉さんは、( 私の様なポンスケとは違い )最も信頼でき、大切にしてい
た中心的なスタッフであったわけです。


そうした吉さんとは少しタイプが違いますが・・・・・・

長さんは人の悪口などは決して言わない包容力のある温和なタイプ・・・・・雰囲気はどことな
く山田洋次監督の「 男はつらいよ 」に出てくる寅さん風なところがあります。

友人も多く豊かな人間関係を作れる大人・・・・・ちなみに野球は大の西武( 西鉄 )ファン!
( 幼少期を福岡で育ったためだと思いますが )

映画は吉永小百合の「 キューポラのある街 」が好きで、実際に舞台となったその川口市の街や、
陸橋を探して歩き回ったりした事もあったそうです。

ある時、そんな川口辺の思い出話を聞いている時でした・・・・・・

西武のスタジャンを着た長さんは薄くなった頭に手をやりながら・・・・・・

 「 Yちゃん(私)、ホントは俺、オートレーサーに成りたかったんだよなァ・・・・・ 」

漫画家を目指していなかったら、きっとオートレーサーを志望していただろう・・・・・と。


私にとっては二人とも信頼に足る人物なのですが・・・・・・どこをど~間違えて、関係がこじ
れたのやら・・・・・・・・

人間関係の難しいところではないでしょうか・・・・・・・・・


2009年6月、吉さんは、重篤な病気を患います・・・・・( 数ヵ月後に亡くなってしまいます )

 「 この事( 病気 )は絶対にブログに書くなよ 」

そう言われたので、病気に関しては一切書く事が出来ませんが・・・・・・

初めて病気を知らされた日の事は、生涯忘れることは出来ません・・・・・・その時の事だけは
・・・・ほんの少しだけですが・・・・・・書かせてもらいたと思います・・・・・・・・


仕事場のある目白通りに面した小さな喫茶店「 P 」で、私ともう一人のスタッフが吉さんから病
気の話を聞かされました。

 「 来週は休みをもらって、検査に行かなきゃならないんだ・・・ 」

申し訳なさそうに・・・・・・という雰囲気はまったくなく、ただ不機嫌な・・・・・・イライ
ラした感じで自分の病気の話をされたのです・・・・・・

スパスパとタバコを吸い、ガブガブとコーヒーを飲みながら・・・・・・・・・

今から思えば・・・・・・

 『 何ンで、俺がこんな病気に・・・・・・! 』

そんな苛立ちがあったのだと思います・・・・・・


喫茶店の窓からは、6月の春の日差しがいっぱい差し込んで・・・・・・

近くにある大きな銀杏の緑がキラキラと輝き・・・・・・

とても明るかったのです・・・・・・


それが・・・・・・

吉さんと飲んだ最後のコーヒーになりました・・・・・・・・



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    以下の「お知らせ」をお読み下さい! 
 

 
        「 漫画家アシスタント 諦めま章 夏休み 」( 8月1日頃公開 ) へつづく・・・・


             ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント諦めま章 その4」へ戻る 】


 


 
  【 ※参照 】
 ・Jプロ・・・・・・・・漫画家J先生の仕事場。東京目白にあり、バブル期には6~7人のス
  タッフが在籍。しかし今年2012年にはスタッフ2名。連載は1誌。ちょっと淋しい今日こ
  の頃です。
 ・J先生・・・・・・・・有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には週刊連載6
  誌という逸話もある。現在は1誌に連載中。09年当時、66歳。



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 ★ 単行本「漫画家アシスタント物語」にも登場したガンさん(本中では『ハアさん』)
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