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古書店アゼリアの死体 若竹七海

最近ようやく入手した著者の初期の作品。主人公はやや対照的な2人の女性。そのうちの一人は、色々な不運が続き、憂さを晴らすため、海に向かって「バカヤロー」と叫ぶために海岸に行き、身元不明の死体と出くわす。もう一人は色々苦労はしながらも地元の仲間と楽しく明るく暮らす女性。個人的には、本書の白眉は、後者の方の主人公が、たまたま来たところで事件に巻き込まれたもう一人の主人公に「海に向かってバカヤローと叫ぶと良い」と諭す場面だと思う。著者はこの場面が書きたくてこんな話を作ったのではないかと思うくらい絶妙な面白さだ。話は、時には静かに、時にはコミカルに、時には急激にと色々な様相を見せながら進み、最後の幾重にも重なった捻りにはお見事と言うしかないだろう。(「古書店アゼリアの死体」 若竹七海、光文社文庫)

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人形の部屋 門井慶喜

著者の本を読むのは本書が初めて。題名も最近のミステリーにしては地味でひねりがないし、文庫本のデザインも何となく地味で、少し前の大御所の作品のような趣だが、正真正銘の新進気鋭の作家だという。読み始めると、そうした先入観を持ってしまったからのだろうか、文書も落ち着いているしストーリーにも奇を衒ったところのないオーソドックスなコージーミステリーで、何となく大物作家の風格を感じさせる作品のような気がしてしまった。ある意味で、内容とデザインがマッチした1冊といえなくもない。ミステリーとしても大変面白く、続編が出ているのかどうかとても気になる一冊だ。(「人形の部屋」 門井慶喜、創元推理文庫)

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街場の天皇論 内田樹

著者の天皇に関する文章を集めた1冊。色々な媒体で発表した文章が集められているので、前書きにも書かれているように、読んでいると、同じ内容のものがいくつも並んでいて、もっと上手に編集してほしいと思うが、最初に著者に謝られてしまっているのでまあしょうがないかなとも思う。そうした欠点はあるものの、書かれている内容ははっとさせられる示唆に富んだものが多い。何故天皇陛下は「現場重視」なのかについての説明は実にシャープな論理展開でうならされた。天皇陛下が過去の戦争の犠牲者を悼む時、「敵味方分け隔てなく」でありながら「抽象的な犠牲者全部ではない」ということを明確にするためには「現場」に行かれるしかないのだという。また、武道に関する文章で、日本の武道が「潜在的なコミュニケーション能力を高めるための伝統的な呼吸法、瞑想法、練丹法」から「愛国イデオロギーと結びついた殺傷技術」「スポーツ」へと変貌していったと指摘している部分も目からウロコだった。とにかく幾つも知的好奇心を刺激してくれる発見のある一冊だと感じた。(「街場の天皇論」 内田樹、東洋経済新報社)

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モモンガの件はおまかせを 似鳥鶏

シリーズ4作目。最近第1作目を読み始めてから2か月、ようやく最新刊に追いついた。本書も前作同様、動物に関わる社会的な問題に関わる内容で、短編集ながらその問題を一貫して扱っていおり、シリーズ当初に舞台だっだ動物園という枠を超えた大きな問題提起の作品になっている。この問題には色々な業者や一般人が関わっていて、簡単には解決しないと思えるが、少なくとも世界の標準がどこにあるのかを知った上で今後の在り方を考えることが必要だということを気付かせてくれた。{「モモンガの件はおまかせを」 似鳥鶏、文春文庫)

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天久鷹央の推理カルテ2 知念実希人

最近読み始めたシリーズの第2作目。家の近所に待望の本屋さんがオープン。入ってみたが、狭いフロアの1階は雑誌がほとんどを占め、2階は全てコミック売り場、文庫本は1階の小さな棚一か所のみ、新書本はそれこそ数冊という品揃えに少しがっかりした。それでも文庫本の棚をよく見ると、本シリーズが全部揃っているので、その中から2冊だけ買うことにした。内容は、1作目同様、病院内で起こるかなりトリッキィな事件を主人公2名が鮮やかに解決していく医療ミステリー。主人公たちのキャラクターに関わる部分もかなり増えてきて、いよいよシリーズ本番という趣だ。新しい本屋さんで本シリーズを少しずつ買って読むことにしたい。(「天久鷹央の推理カルテ2」  知念実希人、新潮文庫)

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老人の壁 養老孟司

ネットで「超老人の壁」という面白そうな本を見つけたので購入しようと思ったら、「この本を購入した人はこういう本も購入しています」というところに「老人の壁」という本がでていた。要は買おうと思った本には「前作」があるということだ。本屋さんの棚ならば、一緒に並んでいるなどして前作があることが知りやすいだろうが、ネットの場合は「著者」で検索しなおさなければそうした前作の存在がわかりにくい。「この本を購入した人は…」は販売促進のためにあるのかと思っていたが、読者にとってそうした本屋さんの現場を補完する意味もあるのだと納得した。内容は、二人の老人の本当にたわいのないお喋りだが、時々メチャクチャ面白いところがある。個性を伸ばせという風潮への苦言とか、医師による余命宣告がどんどん短くなっている話とか、老老介護や終活への疑問など思わず苦笑してしまったし、抗生物質と自閉症の関係という話もへぇそうなのかと感心してしまった。(「老人の壁」 養老孟司、毎日新聞出版)

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浜村渚の計算ノート8冊目 青柳碧人

表紙がいつも一緒のように見えるし、裏表紙のあらすじを読んでも既読なのかどうかはっきりと判らないので、とにかく本屋さんで平積みになっているのを見つけたら奥付の刊行日付が数か月から半年以内だったら購入、それ以上経っていたら既読の可能性が高いので購入見送りという感じだ。今回は、刊行が2017年10月13日となっているので、ずいぶん早めに見つけることができたようだ。シリーズとしては9冊目ということになるが、やはり読んでいて、飽きたという程ではないもののマンネリ感が感じられてしまうのは否めないが、横浜を舞台にした中編は色々なご当地が登場して楽しめた。とにかくこれから読者を飽きさせない為には、観光地巡りとか海外旅行とかグルメとか、邪道でもいいので何か数学とは別の軸を設定することが必要な気がする。{「浜村渚の計算ノート8冊目」 青柳碧人、講談社文庫)

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ぼくのミステリな日常 若竹七海

ネットで検索して「絶版」「在庫なし」などとなっていた未読の著者の本が、突然3冊「在庫あり」に変わった。ここ1年くらいの静かなブームで、重版になったのだろうか。とにかくファンには有難いことだ。まだ「絶版」「在庫なし」で読めない作品が幾つかあるので、それらもそういう形で入手できるようになると嬉しいのだが。本書はそうして入手した3冊の中の1冊だが、どうやら著者のデビュー作らしい。どんな作品で著者が世に出てきたのか興味深々で読み始めた。かなり短めの短編が10以上収められた短編集だが、ちょっとした日常のミステリー、謎が最後まで解決しない怪談じみた話など色々なバリエーションの作品が並んでいて、主人公以外の人物が何回も登場したりする。そんな感じで、なんとなくまとまりのある連作短編集ということかと思っていたら、最後に全ての話がつながって驚いた。日常の謎や怪談話にも全体の中で大きな役割があったことが判明、さらに最後にもう一度どんでん返しがあり、その構成のすごさにも驚かされた。本作を読んで多くの人々がすごい新人が現れたと思ったことは間違いないだろう。(「ぼくのミステリな日常」 若竹七海、創元推理文庫)

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