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慈雨 柚月裕子

書評誌「本の雑誌」の年間ベスト10の第1位に選ばれた本書。「本の雑誌」の年間ランキングは、専門家が投票で選んだり、読者アンケートで選んだりという「多数決」ではなく、雑誌の編集者数名が雑談しながら選ぶという少し変わった形のランキングで、あまり知られていない良い本を探すのに毎年重宝している。多くの人による「多数決」の場合は、多くの人に読まれているという認知度が、選別の重要な要素になってしまう。一方、このランキングは、多数決ではなく、編集者個人の好みが強く反映されているので、当たり外れもあるのだが、あまり知られていない良い本との出会うことが多い気がする。さて今年の第1位の本書、どの程度売れているのかは判らないが、さすがに第一位というだけあって大変面白かった。定年退職した元刑事が、自分が昔扱った事件が冤罪だったのではないかという疑念を抱きながら、四国の八十八か所巡礼をするというストーリーで、札所の各所での出来事、新たに発生した類似事件の進捗、過去の事件に対する思いの3つが交錯しながら話は進む。刑事とその妻、養女の娘、その交際相手の若い刑事、それぞれの心情が細やかに描かれていて、読んでいて本当にジーンときてしまった。(「慈雨」 柚木裕子、集英社)

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