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シートン探偵記 柳広司

著者の作品は、戦前日本の秘密諜報機関の話とか、色々な文学作品を題材にした軽いミステリーなど守備範囲が広い。その中で最も好きなのは何といっても「D機関シリーズ」だが、こちらは少しマンネリ化してきたような気がする。そんな中で、本書のような歴史上実在の人物や文学作品を題材にした作品群は気軽に読めるし、趣向がその都度色々変わるので飽きずに読むことができる。本書は、「シートン」「シートン動物記」という歴史上の人物・作品を土台にした連作ミステリーで、当初の期待通り、大いに楽しむことができた。「シートン動物記」は子供のころに読んだきりだが、「狼王ロボ」は当時最も好きな本だった記憶がある。そのシートンが探偵役となって活躍するのが本書だが、「動物記」においても、対象物である動物に対するシートンの緻密な観察と推理がその根底にあるという点で、本書がミステリーとの相性が良いというのは、とても納得できる話だ。こうした作品の場合、史実にどこまで忠実になるかのさじ加減が難しい。あまり史実とかけ離れていては、そうした設定をした意味が薄れてしまうし、史実に忠実過ぎてもおもしろいミステリーになりにくくなってしまう。そのあたり、本書は、やや史実に忠実な方に重きが置かれているようで、もう少し自由な内容にしてくれた方がもっと楽しめた気がした。(「シートン探偵記」 柳広司、文春文庫)

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