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涙香迷宮 竹本健治

2016年末の様々なミステリーランキングで上位を獲得した話題の一冊。著者の作品を読むのは多分初めてだが、ネットで調べると本書の主人公である探偵の作品は既に10作ほども刊行されていることが判って、少しびっくりした。本書が面白ければ、また色々過去の作品にさかのぼって楽しめるぞと、期待が膨らんだ。読み始めてまず強く感じたのは、ミステリーとしての話の内容の前に「黒岩涙香」という人物の凄まじさだ。「萬朝報」という新聞の創刊者だということは、大昔に学校の教科書で習ったような気もするが、それ以外の連珠、百人一首など様々な遊戯をゲームとして完成させることに貢献したりといった様々な功績については全く知らなかった。本書の面白さの一つの要素は「黒岩涙香」という人の面白さに目を付けた作者の晴眼だろう。また本書では涙香にまつわる話だけでなく、いろは歌の歴史など様々な知識が披露されているが、なぜか衒学的な文章にありがちな暗さとか重苦しさが少しも感じられない。これも本書の面白さを支える大切な要素になっている気がする。更にミステリ-としても、主人公の一つの謎解きに感心しているとすぐにまた別の謎解きが始まる畳み掛けるような展開が凄い。着眼点・文章・謎解きの三拍子が揃ったミステリーだが、それにしても、50を超える「いろは歌」や85文字の「口語版いろは歌」は全て作者のオリジナルなんだろうか。もしそうならそれが本書一番の驚きだ。(「涙香迷宮」 竹本健治、講談社)

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