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武士の家計簿 磯田道史

映画化された新書という珍しさもあって、読んでみた。金沢藩の財政担当の武家の家計簿その他が、奇跡のように発見され、それを読み解きながら、江戸時代の武家の暮らし、幕藩体制の政治状況等が語られているのだが、それが驚くほど面白い。読み解くのはある家族の家計簿にすぎないのだが、そこから見える風景の大きさには驚かされる。何故明治維新の時に「特権を失う」士族の抵抗がそれほど大きくなかったのかが、家計簿から浮かび上がる「特権」から浮かび上がる。また、何故江戸時代に民衆の蜂起、下からの革命のようなものがほとんどなかったのかも、同様の手法で語られる。これらの論証が実に見事で小気味良い。読む人が読むとこんなにすごいことまで判ってしまうのだという好例のような気がする。このあたりの面白さが映画ではどのように処理されるのかも楽しみだ。 なお、古文書が発見されたのは偶然のようにみえるが、やはりそこにはそうした文書があればと思い続けてきた著者の執念のなせる業というものがあるのだろう。分析の鋭さもさることながら、その執念にこそ脱帽だ。(「武士の家計簿」磯田道史、新潮新書)

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