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偽書「東日流外三郡誌」事件 斉藤光政
津軽地方の民家から発見されたとされる「東日流外三郡誌」という古文書の真贋論争を10年以上に亘って追いかけた新聞記者がこの事件の顛末を綴ったドキュメンタリー作品だ。古代の津軽地方に「大和朝廷」に匹敵する王朝文化存在することを記した文書ということだが、現在では完全に偽書と判じられている文書が、長きに渡って信じられたり引用されたりフィクションの材料に使われたりしていたということに驚かされる。神の手による旧石器捏造事件ほどは有名ではないが、私自身も、どこかで「青森県に独自の国があった」という説を聞いた気がする。「縄文時代に日本で最も先進的だったのは東北地方だった」ということを歴史で教わっていたので、その延長で「独自の国があった」ということなのかなと思ったものである。本書を読むと、随分いい加減な偽書で、三流ともいえない五流程度のお粗末なものなのだそうだが、それを擁護する一派が今も存在し続けているという。本書では、そうした偽書を生み出し、擁護する人がいるという事実の背景には、青森県や東北の人々の独特の心情というものがあるのだそうだ。読んでいて、この事件を真剣に追い続けた著者の執念も、そうした「心情」を悪用することに対する憤りという点では、同じその心情が関わっているようにも思われる。本書で語られる、偽書によって形成されたイメージがフィクションに使われることの危険性、偽書を面白おかしく報道するマスコミへの警鐘には、考えさせられる点が多い。(「偽書『東日流外三郡誌』事件」 斉藤光政、新人物文庫)
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