『下山の思想』は幻冬舎文庫から2011年に発行された五木寛之氏の本である。以前、久慈市内の大型書店で見つけ、ぱらぱらめくってみて、読んでみようかという気が少しはしたが、図書購入費を減らしている昨今、簡単には手が出ない。読み終えた本を町立大野図書館に返却に行って、新書の棚を物色していると、『下山の思想』があったのでさっそく借りてきて一晩で読んでしまった。
「下山」と題がついているが、山登りに関する本ではない。五木氏は、現代日本を下山の時代に入ったととらえ、下山に向けて準備をする必要があると説く。すなわち、第2次世界大戦の敗北で廃墟と化したわが国が、外国の模倣をしながら奇跡的な復興をはたし、「高度経済成長」で頂点に達した後、バブルの崩壊、長引く不況など経済成長に陰りが出、自殺者が連続して3万人をこすなど、「右肩上がり」の成長時代の考えでは乗り切っていけないのではなんかいう思いがあふれている。そして、この本が書かれた時期が、東日本大震災と福島第一原発の事故で、未曽有の被害が広がるもとだったことも、『下山に思想』の必要性を説く要因になっているのではないかと思った。行き詰まった現代の日本の現状(政治、経済などなど)を見るとき、この本の提起はわれわれに大きな示唆を与えてくれている気がする。