東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

大木昌,『病と癒しの文化史』,山川出版社,2002

2007-10-08 10:29:48 | 自然・生態・風土
題名からでは内容がわからないが、インドネシアを中心に、土着の医療と外来の医療の変遷をざっとのべたもの。
著者(おおき・まさる)は、スマトラを中心にインドネシア経済を研究してきたかた。
経済研究者として、富と権力の側面からとらえがちだった歴史を、人の生き死にを中心にみなおそうとしたもので、著者の経験をまじえて書かれている。

外来の文化、とくに宗教と医療(癒し)の関係に注目し、ヒンドゥー化、イスラーム、西欧医学、19世紀から20世紀にかけての環境と病気と医療の変化を論述。

それで、本書のなかで一番注目したのは、以上のインド・イスラーム・オランダの影響ではなく、「華人の影響、いわゆる漢方医学の影響がないのは、なぜか?」という問題だ。
これは、著者自身もわからない、と答えているのだが、この疑問をとく、ヒントはしめされている。

まず、ほんとうに、影響がないのか、という前提への疑問。ひょっとして、「漢方」とか「華人の医学」と認識されていないだけで、おおきな影響があったのかもしれない。
つぎに、華人は、華人だけのコミュニティーでまとまっていたので、地元のひとびとへの影響がすくなかった。イスラームやオランダのように、政治や宗教に介入しなかった、という著者の推測。これは、ある程度は正しいだろう。
しかし、シロウトの無責任な推測をのべれば、イスラームの影響のあとの西欧医学の影響に、華人がかかわっていなかったのだろうか?ここいらへん、もっとしりたいところ。

以上の宗教(あるいは、高文化とよぶべきか?)と医療のかかわりとともに、外来の文明、近代文明の影響で出現した病気と、それへの対応が述べられている。
天然痘、梅毒、コレラ、マラリア、赤痢などなどである。
それとともに、「病気」「けが」になかに、治療あるいは治癒を必要とする病として、精神疾患、殺人などが含まれていることだ。
ああ、そうだ。ついつい、感染症や寄生生物による疾患ばかり考えてしまうけれど、人が苦しむ、あるいは死ぬ理由として、これが重要ですからね。


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