読みやすく、たいへん参考になった。ただし、書名が意味不明で、ニワトリの進化の性選択の話かと思っていた。家禽としてのニワトリの話です。
興味をもったのは以下の三点。
1.ニワトリの先祖であるセキショクヤケイの分布
2.セキショクヤケイを家畜化(家禽化)するにあたって、人類の意志、興味をあつかったところ。「こころのエネルギー」と著者が名付けた家畜化への動機。
3.東南アジアから世界各地への伝播。さらにヨーロッパ品種のアジアへの伝播について。
1.について。セキショクヤケイは地質学的にみてスンダ陸棚海の周辺に分布する。(ただしボルネオにはいない。)家畜化の中心域もこのへんであると推定される。バナナやサトウキビとともに、大陸部東南アジアで栽培化された生物なのである。タイ・ラオス・ベトナムあたりが核心域とみられる。(遺伝学・考古学の詳しい解説あり。)
2.そして本書でセキショクヤケイがいかに家畜化に適さない鳥であるのかが論じられる。食用の家禽として数々の難点があるのに、なぜ、人間はこんなめんどくさい鳥を飼いだしたのか?
この論点について、著者は、食肉としての効率やタマゴの数ではなく、闘鶏用が起源だという推測を述べる。そして、さらに、家畜化の初期には、実用性や効率性よりも、おもしろさ、楽しさ、飼う苦労がモチベーションになるのではにかと推測している。(大雑把なまとめなので、直接本にあたってくれ。)
もちろん、占いや生贄としての起源もあったと推測される。家畜の起源はすべて宗教的な要素があって、宗教的な動機が起源である推定するのは、なにも説明したことにならない、という批判もあるそうだ。
東南アジアでは、よい声で鳴く鳥を飼う文化と姿かたちの珍しい鳥を飼う文化の両方があるが、闘鶏というのは気がつかなかった。ちなみに、闘鶏は世界中にあるらしいが、フィリピンの闘鶏はラテンアメリカ経由のヨーロッパ的な闘鶏であるそうだ。
それから東南アジアのいなかに行くと、いろんな種類のニワトリのほか、ウズラや七面鳥などが飼われている。あんなにいろんな種類のトリを飼うのは実用というより趣味ではないかと思ったことがある。タマゴなどもウコッケイのような青みを帯びた殻のタマゴなどいろんな色がある。(青みを帯びているから値段が高いわけではないようだ。)
やはり、実用性や効率性よりも、ネコやペットを飼うような趣味性があるのではないか、と思っていたのだ。本書によれば、ニワトリ愛好家には、声のよさを愛でるもの、姿かたちのヘンテコな品種を交配する楽しみもあるのだそうだ。
3.全世界への伝播について。
ニワトリ文化について多方面の民俗学的・食品化学的・解剖学的・考古学的なトピックが満載だが、航海用の食料として世界中の品種が伝播したのではないかという可能性は述べられていない。
p220に日本の長尾鶏が西洋でyokohama,と呼ばれるのは白人のきまぐれ、と述べられているが、本書に登場するニワトリの品種名はほとんど港の名前ではないのでしょうか?ロードアイランドやミノルカ、プリマスロックなど。コーチンもマレーも当然、地域の名というより港や海域の名前だろう。このへん、もっとつっこんでほしかった。
ともかく、バードウォッチングやバードイーティングの手引きとしてひじょうに参考になる本であった。
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