東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

本川達雄,『サンゴとサンゴ礁のはなし』,中公新書,2008

2008-07-27 20:30:30 | 自然・生態・風土
『ゾウの時間ネズミの時間』の著者による、とってもわかりやすいサンゴとサンゴ礁の入門書。
実にわかりやすく書いてくれる人ですね。
メインとなるサンゴ(刺胞動物門・花虫綱・六放サンゴ亜綱・イシサンゴ目)と褐虫藻(渦鞭毛藻の仲間)の共生については本文をよくよんで勉強するように。

以下、蛇足。

世界の海域で、サンゴの種の多様性が最大なのは、北のフィリピンを頂点として、スマトラ南東端とソロモン諸島の南東端あたりを底辺とする三角形である。
つまり、ウォーレシアからニューギニアの海域。(p96)

熱帯林と同じく、サンゴ礁もこの地域が世界最高の種の多様性を誇る。
なぜかというと、地形の要因のほかに、氷河期で種の減少がおきず、多様性が保たれたとわけだそうだ。つまり、熱帯雨林の多様性と同じ要因である。

しかも、熱帯林の土壌が貧栄養であるのと同じく(原因は異なるよ!)、熱帯の海も貧栄養であって、あやういバランスの上に保たれている(いた)のがサンゴ礁という環境であった、というわけだ。
貧栄養の環境が過剰栄養になると、オニヒトデの発生など、バランスがくずれるというわけである。

まったく東南アジアというのは、なんでこう生物の多様性が大きいのか!
それは、(本書の内容とはちょっと離れるが)地殻プレートの動きが要因である。
つまりだ、南側からインド・オーストラリア・プレートが押し寄せているわけだが、
1.大陸プレートと大陸プレートの衝突。これがチベット。
2.海洋プレートが大陸プレートに潜りこむ。これがインド洋側のスマトラやジャワ、小スンダ列島である。東側から太平洋プレートが潜りこむフィリピンや日本列島も同じ。
3.海洋プレートを大陸プレートが掻き分けて押し寄せる。これがニューギニア。

以上三つのタイプのプレートの衝突により、多様な地形が生じる。しかも熱帯の地域であり、旧大陸とオーストラリアという動物相・植物相が異なるプレートが衝突しようとしている。
そのため、山地でも低地でも海域でも種の多様性が最大になった、というわけだ。

*****

それで、この地で進化学を考えたのがダーウィンである。
え?ウォーレスじゃないかって?いや、種の分化や自然淘汰を思いついたのはウォーレスだが、その基盤となる地質学的な長い時間と生物の関係を考えたのがダーウィンだ。

本書に紹介されているサンゴ礁の形成に関する推論は、ダーウィンの最初の業績であり、現在も通用する理論である。
ただし、ダーウィン自身の文章はひじょうにわかりにくいので、本書のような簡潔な解説で理解しましょう。(ダーウィンって人は、理論的な文章になると、頭が痛くなるほど難渋なんだよな。)

で、さらに蛇足だが、
ガラパゴス諸島の〈進化論の島〉というキャッチフレーズについては、わたしは常々苦々しく思っている。
本書で述べられているように、進化学の土台は、サンゴ礁の形成論なのである。そして、それはキーリング諸島(ココス島)のサンゴ礁観察から得られたものである。
さらにこのダーウィンの方法論から出発し、ウォーレスが進化理論を考えたのはサラワクやテルナテである。
〈進化論の島〉というなら、ココス島とテルナテ島がふさわしいではないか。

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都城秋穂の訃報あり。
ウェーゲナーの翻訳しか知らないが。散歩中に死亡(?)とは元気な人だったんですね。


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