東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

高谷好一,『東南アジアの自然と土地利用』,勁草書房,1985.

2006-03-13 00:03:31 | 自然・生態・風土
東南アジアを知るための基本中の基本にして、戦後日本人の研究の最高峰、だと、思います。

といっても、わざわざこの本をさがして読むべきかというと、めんどくさい人はその必要はないだろう。

基本中の基本であるから、ほとんどすべての研究者、歴史家、東南アジアに興味を持つ一般人に、すでに共有された成果である。
たとえば、中央公論社の『世界の歴史 東南アジア世界の形成』の一番最初にかいてあることは、本書の内容を下敷きにしている。山川出版社の東南アジア史も同様である。
てっとりばやく内容を知りたければ、『事典東南アジア』(弘文堂)とか『東南アジアを知る事典』(平凡社)を見ればよい。

であるけれど、やっぱり、本書はおもしろい。
ものすごく退屈そうな書名で、とっつきにくいが、東南アジアの生態を核心にせまることばでずばっと言い切ったおもいきりのよさが気持ちいい。

外国語の翻訳調やもってまわった表現など使わず、面白い旅行話を語るように、著者の経験をどんどん書いていく。
学者にあるまじき独断(?)や感想(?)をまじえて、その地域の特徴を読者に伝える技はみごとである。

第1章にある、東南アジアの民族(というより、小さいまとまり)を、農耕生産のタイプで分類した表がある。
この表は結論部分だけ紹介した記事で引用されることはないのだが、みごとに生態と生業が分類されていて、すぱーとわかる。
わたしは、カレン族とかアチェーとかニュースでみるたびに、この表に照らし合わせているのだ(今はもうやってないが)。
現在の生業とは食い違う部分もあると思われるが、稜線・山腹・盆地/モンスーン林・熱帯林/乾季が長いか短いか/火山帯か褶曲山脈か/という要素の組み合わせですぱっと分類できる。

分類できるだけでなく、そこに明確に風景や暮らし、心意気、信仰、の違いがあることが著者の見聞から伝わってくる。


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