東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

海野弘,『陰謀と幻想の大アジア』,平凡社,2005.

2006-06-12 22:36:20 | フィクション・ファンタジー
内容
プロローグ 歴史的想像力としての陰謀

第1章 満州国 すべての出発点としての満洲国。軍部と学者と事業家と宗教家がつかのまの夢をみたところ。

第2章 ウラル・アルタイ民族 ハンガリーの「ツラニズム」、戦後言語学で否定された「ウラル・アルタイ語族」について。日本と北方ユーラシアをつらぬく幻の言語圏。

第3章 日本人・日本語の起源 大野晋,『日本語の起源』について。この言語学者から完全に無視されている珍説の起源。戦前の日鮮同祖論を否定するあまり、朝鮮語と日本語の起源を論じることが忌避され、トンデモ学説ばかり流布したこと。

第4章 騎馬民族説 ご存知江上波夫説。この学説がもつ差別性。

第5章 大アジア主義 黒流会(内田良平)、玄洋社(頭山満)、宮崎滔天、出口王仁三郎と世界紅卍字会、などなど

第6章 ユダヤと反ユダヤ 日猶同祖論、竹内文書、などなど

第7章 回教コネクション 大川周明、井筒俊彦、パン・イスラム主義、パン・トルコ主義との関係

第8章 モンゴル 西北研究所(梅棹忠夫、石田英一郎、今西錦司)と西北事情研究所(木村肥左生、西川一三)

第9章 シルクロード 大谷探検隊、チベット入境者

そして最後に
第10章 大東亜共栄圏

よく知っている名前がどんどん出てきてすらすら読めた。
おまえは、こんなトンデモ本ばかり読んでいたのか、といわれそうだが、実際そんなに読んでいない。ただ、過去30年ほどの間、読んできた宗教・探検・考古学・陰謀学説で名前を知っているだけ。
これら、戦前の学者・軍人・宗教者・探検家・右翼・左翼・政治家が、ユーラシアをめぐる「大アジア」史観として、まとめられて、わかりやすい。

最後にこれら「北進論」は、「南進論」に突然(のように)変わるわけだが、その道筋を整理してくれてたすかる。
そして、これらの「大アジア」史観が戦後も生き残ったことが、本書の主眼である。

といっても、著者は、(わたしも)これらの陰謀史観、トンデモ史観が、価値のない、否定すべきものだと、断罪しているわけではない。
そうではなく、こんなものが過去に存在しなかったように、忘却のかなたに葬ってしまうことに異議をとなえているのだ。

わたしも、これら「大アジア」史観の陥穽にはまらないように気をつけなくては。
これらの史観は、いかにも、アメリカ合衆国が存在しないかのように、そして、シナが国家でないかのような、無意識の願望をあらわしているように見える。

わたしのブログでも、たまに、アメリカやシナが存在しないような意見を出しかねないので、自重しています。

松山優治,「モンスーンの卓越するインド洋」,2000

2006-06-12 00:56:18 | 自然・生態・風土
家島彦一 ほか編,『モンスーン文化圏 海のアジア 2』,岩波書店,2000,所収。

(以下の文で、「夏」というのは北半球の夏、「冬」というのは北半球の冬のことです。)
モンスーンとは季節によって、つまり夏と冬で風の方向が変わること、その風のことである。
インド洋、東南アジアでは、このモンスーンが結果的に雨季と乾季をもたらす。そのため、モンスーン気候というのは、乾季と雨季が顕著な亜熱帯・熱帯気候をしめす。
とまあ、あたりまえのことを書きましたが、日本列島のことを考慮にいれると、これがあたりまえではない。
日本列島も、モンスーンが顕著な地域で、夏と冬の風向きは、夏が東から、冬が西からと、完全に逆になる。ところが、雨季・乾季の区別がないのだよ。というより、日本列島は、温帯ではめずらしく、一年中降水がある地域で、乾季がない。
このことを頭にたたきこんでおくように!

さて、風向きのことにだけ注目すると、地球上には、一年中一定方向からの風が吹く地域がある。
いや、海洋をみると、モンスーンのない地域のほうが多いのだ。

まず、大西洋。ここは一年中同じ。
だから、ヨーロッパからカリブ海に行くのは追い風、北アメリカからヨーロッパに行くのも追い風で、一年中かわらない。
アフリカ西岸は、常にに南から北に風が吹く。だから、ヨーロッパからアフリカ沿岸を南下する帆船は、ぐるっと南アメリカのほうに迂回し、斜め前方から風を受けて進まなければならない。これが、喜望峰までの航海を困難にした。

太平洋はどうか?
ここは赤道から北回帰線あたりまでの緯度で、北東から風が吹いている。
これは、メキシコから東南アジアまで航海するのにつごうがよい。
しかし、帰りは向かい風になる。
そのため、東南アジアからメキシコに行くには、いったん、北緯40度あたりまで北上し、そのあと東のほう、アメリカ大陸へむかう航路に乗る。この北回りが発見されるまで、東南アジアから東へむかう航海はとても困難だったわけだ。
その後も東南アジアからアメリカへむかう帆船は、日本列島沖まで北上して、東へむかうことになる。

それではインド洋はどうか。
ここは夏と冬で、風向きがかわる大洋である。
モンスーンを知っていれば、航海は順調、その反対に、モンスーンに逆らうと、ほとんど航海は不可能になる。
インド洋では紀元前からモンスーンの知識がひろまり、東西の交通・交易・移民を可能にした。

表面海流
インド洋が大西洋・太平洋とちがうのは、表面海流も季節により変動することである。これは、風による海面の摩擦流、モンスーン海流とよばれる動きである。
南西モンスーン海流(夏)がソマリア沖からアラビア沖に湧昇流をひきおこし、プランクトンの増殖をうながす。
一方、オーストラリア西岸には、湧昇域はない。

波浪(実測された波の高さのうち、上位三分の一の平均を有義波高という。たとえば1000の波のうち、高いものから順に333を選び、その平均をもとめたものである。知ってた?)
インド洋だろうが、太平洋だろうが、外洋の波浪を経験するなんてことは、今じゃ漁船員以外ないんじゃにだろうか。
日本近海では、台風の時と、冬のモンスーン期の波浪が大きいが、インド洋、アラビア海では夏の波浪が大きい。アラビア海でも3mになるが、南緯50度付近が猛烈で、5mにもなる(北半球の夏、つまり、南極の冬、上位三分の一の平均であるから、この1.9倍の波も常時起こりうる)。

塩分
塩分は紅海やペルシア湾が高い。40パーミル以上にもなる。
一方、ベンガル湾(30パーミルくらいまで下がる)、ジャワ海のほうにいくと低い。
これは、当然河川からの真水の供給の差による。

海水温
インドネシア海域は世界中でもっとも海水温が高い海域である。夏冬つうじて29度くらい。

潮汐と潮流

大潮のときの干満差を比べてみる。
実は、日本海は世界的にみて、干満差が小さいところである。
ここで育った人は、どうも、干満差というのが、実感できない。

インド洋では、
アフリカ東海岸1.5mから2.0m。
モザンビーク海峡は3~4m。
アラビア沿岸からインド西岸では、紅海の入り口で2.5m、マスカット3m、カラチ3.4m、ボンベイ4.7mとしだいに大きくなる。
ベンガル湾は一般に小さいが、湾の奥では局地的に大きく、ラングーン7m。
マレー半島からスラバヤあたりまで3m、オーストラリア北西岸で6mを越え、周辺の湾では10~12mとなる。

潮流は、
バーバル・マンデブ海峡で3ノット。
ホルムズ海峡で3~4ノット。
マラッカ海峡で2~2.5ノット。
シンガポール海峡で5~5.5ノット。

海の内部で振幅がひじょうに大きい波が発生することが最近わかってきた。
アンダマン海、オーストラリア北西域など。(内部ソリトンという)

以上、航海記を読むとき、漁業や交易について、港市の発展・衰退を考えるときの基礎知識として、おぼえておこう。