東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

村瀬 敬子, 『冷たいおいしさの誕生―日本冷蔵庫100年』,論創社,2005.

2006-03-25 22:43:03 | 基礎知識とバックグラウンド
本書は奇跡的に高水準。
東南アジアへの興味から、農林水産業、衣食住の本をチェックするようになった。

ところが、これらの分野、わたしはもともと暗いし、頭が痛くなりそうな低水準の本があふれている。
1.まず、著者の文章がめちゃくちゃ。学者流のかたくるしい文体もとっつきにくいが、オヤジギャグをまぶせば親しみやすいとかんちがいしている著者もいて困る。
2.著者がまったく書物と無縁の人もこまる。誰でも知っているようなことを、さも自分がはじめて書くような本があるんですね。
3.気をつけないと、ひも付きの出版である場合がある。著者が所属する組織にしばられるのはある程度しょうがないとしても、本全体がある種の法人の宣伝である場合がある。

こういうワイルドな連中が棲息する分野として、家政学はトップクラスである。
原則として、けちをつけるだけの本は、わたしのブログでは扱わないが、以上のような理由で、なかなか水準以上の本には当たりません。

本書は簡潔ながら、あらゆる方位に留意した、冷蔵庫からみた近代史のようなかんじである。

江戸時代の将軍家への氷献上、明治の文明開化、カキゴオリ・ブッカキの登場、西洋風の食物として導入された精肉・牛乳の保存、ビール・サイダーなどのつめたい飲み物、上流家庭の高級財としての氷冷蔵庫、魚・果物の輸送と保存、衛生思想、輸入学問としての家政学のなかでの食品衛生、軍隊・紡績工場の食料確保のための冷凍、電気冷蔵庫、ガス冷蔵庫(というものがあったのだ)、電気の普及による地方都市への製氷・冷蔵庫の普及、戦時統制による冷蔵庫の製造中止、戦後の占領軍のための製氷・冷蔵庫・冷房、経済成長による一般家庭への普及、戦後の家族イデオロギー、輸入食品のための冷凍技術とコールド・チェーン、家庭向け冷凍食品、学校・工場などの給食、調理済み冷凍食品、ファミレスとコンビニ、家庭団欒イデオロギーの崩壊、海外からの半調理食品……。

参考文献も適切で、冷蔵庫にかんする歴史が概観できる。
上のまとめたことからわかるように、東南アジアと共通する点(文明開化、アメリカ軍の影響)、東南アジアからの食品輸入の前提としての冷凍技術など、留意すべきトピックがたくさん。

ウェブ上をみると、明治期キリスト教にかんするページで本書の紹介あり。
そうか、冷蔵庫・製氷の開発者はキリスト教徒であった。