数年前、その頃ちょうど日本で封切られて話題となっていたアメリカ映画に、「硫黄島からの手紙」があった。
監督がクリント・イーストウッド(大好きな映画監督の一人である)。
「嵐」のニノも日本軍兵士として出演していて、国内でも結構ヒットした映画だ。
映画「硫黄島からの手紙」は、太平洋戦争における日本軍とアメリカ軍との硫黄島での壮絶な激闘が描かれていて、この映画を観た人ならよく分かると思うけれど、かなり悲惨で残酷なシーンもあって、戦争で人間と人間が殺し合うことの虚しさと愚かさが圧倒的な映像を駆使して語られる。
名作映画の中の一本として挙げられるだろう。これからもずっと、映画史の中で語り継がれるべき作品だとも思う。
その「硫黄島からの手紙」が上映されていた当時、所属していた部署の仕事でちょっとした厄介事が発生していた。
スタッフの一人と一緒に、きついトラブル鎮圧に向けて必死で走り回っていたのだけれど、結構しんどい調整が続き、二人とも疲れ果て疲労困憊だった。
その時、そのスタッフがふっと洩らした一言が、今でも忘れられずに記憶の片隅に残ってる。
曰く、「○○さん(俺のことね)、辛いッスすんごく・・・でもあれッスよね、映画「硫黄島からの手紙」(映画の中で描かれている日本軍の悲惨極まりない状況)に比べたら、こんなトラブルなんて屁みたいなもんスよね!」
そういって、その男性のスタッフは朗らかに笑ったのだ。
このことは今でも時々ふと頭を過る。苦しい時や辛い時には、このスタッフが洩らしたフレーズを思い浮かべてみる。
すると、少しだけれど心が落ち着いてゆくのがわかる。
どんな辛い事があったとしても、あの「硫黄島からの手紙」で描かれた悲惨さよりはまだマシ・・・。
もちろん、映画は作り物でしかない。
殺される日本軍も、火炎放射機で焼かれる兵士も、地雷で腕や手足が吹っ飛ばされる将校も、映画の中の虚構の世界の出来事ではあるだろう。
でも、それらはすべて史実に基づいて作られている。
本当にそういう目にあった人間、のた打ち回り、苦悶と激痛に塗れ、飢えと恐怖の中で死んでいった戦争犠牲者は、現実に数限りなく存在したのである。
という意味においては、映画というフィクションの世界にだって、真実を語り、現実を投影し、そこに紛れもない生の世界を映し出すという力を持っているということだ。
そしてそれは、第86回アカデミー作品賞を受賞した、映画「それでも夜は明ける」にも言える。
映画「それでも夜は明ける」は、今回の第86回アカデミー賞で作品賞を受賞した。
自由人だった黒人ソロモン・ノーサップが約12年間にわたって体験した、壮絶極まりない奴隷生活をつづった伝記を、あの「SHAME シェイム」(セックス依存症に苦しむ白人の生活を綴った映画)を撮ったスティーブ・マックイーン監督が映画化した。
この映画、いい映画だと思う。
これまで、黒人の奴隷制度を扱った映画って数多く存在しているけれど、「それでも夜は明ける」もまた、傑作たりえる一本である。
物語は、奴隷制度が廃止される以前のアメリカが舞台だ。
黒人バイオリニストであるソロモンは、ニューヨークで愛する家族と一緒に幸せな生活を送っていた。彼は、自由証明書で認められた自由黒人だったのである。
ところがある日、演奏旅行に行こうと誘われた白人らの裏切りによって奴隷商人に拉致され、家族たちとも離れ離れになり、奴隷として名前まで変えられて、南部ニューオーリンズへと売り飛ばされてしまう・・・。
ここから映画は、壮絶な奴隷制度の実態をえぐり出す。
とにかく凄まじい。
観ていて、だんだんと主人公であるソロモンに感情移入してしまい、自分が拉致されて虐げられているような錯覚に陥ってしまうほどだ。
印象に残るシーンがある。
ソロモンが、白人に反抗した罪で、敷地内の樹木に吊るされて悶え苦しむというシーンだ。
カメラをほとんど動かさず、首から太いロープを巻かれて地面ぎりぎりに吊るされるソロモンを俯瞰するように、長回しで撮ってゆくシーンである。
白昼堂々、南部の澄み切った青空と広大な大地をバックに、木に吊るされてもがき苦しんでいる主人公が映し出される。
その後ろでは、黒人奴隷の子どもたちがまったく無関心に、奇声をあげながら鬼ごっこをして遊んでいる。そしてまた、奴隷たちの誰もが、リンチにあっている同士に見向きもせずに、淡々と農作業を行っている・・・。
これらをすべて一つのフレームに入れ込む、そのカメラワークが凄い。
黒人奴隷たちは、見て見ぬふりをしているわけではない。
黒人たちは、そのリンチに関心さえないのだ!
それはあまりにも日常茶飯事に起こる、単によく見掛けるだけの、そんないつもの光景でしかないからだ!
映画「それでも夜は明ける」は、アカデミー賞で、作品、監督ほか計9部門にノミネートされ、最終的に、作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
同じ監督の「SHAME シェイム」で、ベネチア国際映画祭主演男優賞を獲ったマイケル・ファスベンダーが、ここでも狂信的な白人雇い主を好演している。
それから、主役のソロモンを演じたキウェテル・イジョフォーもいいし、アカデミー助演女優賞に輝いたルピタ・ニョンゴも、ベネディクト・カンバーバッチもブラッド・ピットもみんないい。
心が揺さぶられる。
監督がクリント・イーストウッド(大好きな映画監督の一人である)。
「嵐」のニノも日本軍兵士として出演していて、国内でも結構ヒットした映画だ。
映画「硫黄島からの手紙」は、太平洋戦争における日本軍とアメリカ軍との硫黄島での壮絶な激闘が描かれていて、この映画を観た人ならよく分かると思うけれど、かなり悲惨で残酷なシーンもあって、戦争で人間と人間が殺し合うことの虚しさと愚かさが圧倒的な映像を駆使して語られる。
名作映画の中の一本として挙げられるだろう。これからもずっと、映画史の中で語り継がれるべき作品だとも思う。
その「硫黄島からの手紙」が上映されていた当時、所属していた部署の仕事でちょっとした厄介事が発生していた。
スタッフの一人と一緒に、きついトラブル鎮圧に向けて必死で走り回っていたのだけれど、結構しんどい調整が続き、二人とも疲れ果て疲労困憊だった。
その時、そのスタッフがふっと洩らした一言が、今でも忘れられずに記憶の片隅に残ってる。
曰く、「○○さん(俺のことね)、辛いッスすんごく・・・でもあれッスよね、映画「硫黄島からの手紙」(映画の中で描かれている日本軍の悲惨極まりない状況)に比べたら、こんなトラブルなんて屁みたいなもんスよね!」
そういって、その男性のスタッフは朗らかに笑ったのだ。
このことは今でも時々ふと頭を過る。苦しい時や辛い時には、このスタッフが洩らしたフレーズを思い浮かべてみる。
すると、少しだけれど心が落ち着いてゆくのがわかる。
どんな辛い事があったとしても、あの「硫黄島からの手紙」で描かれた悲惨さよりはまだマシ・・・。
もちろん、映画は作り物でしかない。
殺される日本軍も、火炎放射機で焼かれる兵士も、地雷で腕や手足が吹っ飛ばされる将校も、映画の中の虚構の世界の出来事ではあるだろう。
でも、それらはすべて史実に基づいて作られている。
本当にそういう目にあった人間、のた打ち回り、苦悶と激痛に塗れ、飢えと恐怖の中で死んでいった戦争犠牲者は、現実に数限りなく存在したのである。
という意味においては、映画というフィクションの世界にだって、真実を語り、現実を投影し、そこに紛れもない生の世界を映し出すという力を持っているということだ。
そしてそれは、第86回アカデミー作品賞を受賞した、映画「それでも夜は明ける」にも言える。
映画「それでも夜は明ける」は、今回の第86回アカデミー賞で作品賞を受賞した。
自由人だった黒人ソロモン・ノーサップが約12年間にわたって体験した、壮絶極まりない奴隷生活をつづった伝記を、あの「SHAME シェイム」(セックス依存症に苦しむ白人の生活を綴った映画)を撮ったスティーブ・マックイーン監督が映画化した。
この映画、いい映画だと思う。
これまで、黒人の奴隷制度を扱った映画って数多く存在しているけれど、「それでも夜は明ける」もまた、傑作たりえる一本である。
物語は、奴隷制度が廃止される以前のアメリカが舞台だ。
黒人バイオリニストであるソロモンは、ニューヨークで愛する家族と一緒に幸せな生活を送っていた。彼は、自由証明書で認められた自由黒人だったのである。
ところがある日、演奏旅行に行こうと誘われた白人らの裏切りによって奴隷商人に拉致され、家族たちとも離れ離れになり、奴隷として名前まで変えられて、南部ニューオーリンズへと売り飛ばされてしまう・・・。
ここから映画は、壮絶な奴隷制度の実態をえぐり出す。
とにかく凄まじい。
観ていて、だんだんと主人公であるソロモンに感情移入してしまい、自分が拉致されて虐げられているような錯覚に陥ってしまうほどだ。
印象に残るシーンがある。
ソロモンが、白人に反抗した罪で、敷地内の樹木に吊るされて悶え苦しむというシーンだ。
カメラをほとんど動かさず、首から太いロープを巻かれて地面ぎりぎりに吊るされるソロモンを俯瞰するように、長回しで撮ってゆくシーンである。
白昼堂々、南部の澄み切った青空と広大な大地をバックに、木に吊るされてもがき苦しんでいる主人公が映し出される。
その後ろでは、黒人奴隷の子どもたちがまったく無関心に、奇声をあげながら鬼ごっこをして遊んでいる。そしてまた、奴隷たちの誰もが、リンチにあっている同士に見向きもせずに、淡々と農作業を行っている・・・。
これらをすべて一つのフレームに入れ込む、そのカメラワークが凄い。
黒人奴隷たちは、見て見ぬふりをしているわけではない。
黒人たちは、そのリンチに関心さえないのだ!
それはあまりにも日常茶飯事に起こる、単によく見掛けるだけの、そんないつもの光景でしかないからだ!
映画「それでも夜は明ける」は、アカデミー賞で、作品、監督ほか計9部門にノミネートされ、最終的に、作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
同じ監督の「SHAME シェイム」で、ベネチア国際映画祭主演男優賞を獲ったマイケル・ファスベンダーが、ここでも狂信的な白人雇い主を好演している。
それから、主役のソロモンを演じたキウェテル・イジョフォーもいいし、アカデミー助演女優賞に輝いたルピタ・ニョンゴも、ベネディクト・カンバーバッチもブラッド・ピットもみんないい。
心が揺さぶられる。