4月から6月にかけてのクールのテレビドラマがほぼ出揃いました。先週まだ始まっていなかった作品の1回目を見た感想を書きます。ただ、あいかわらずの校務多忙で、今週は土曜日も日曜日も出勤です。本来なら2~3回ずつ放送されたところで感想を書くべきですが、ともかく初回を見た感想だけでも書いておきましょう。数字は初回視聴率(ビデオリサーチ社、関東地区)です。今回は最初にテーマを設けてみました。それは「期待の反復」です。
花のち晴れ (TBS系、火曜22時) 7.4%
「期待の反復」というのはあまりよいイメージの言葉ではないかもしれませんが、視聴者は「新しい」作品を求めるのと同時に「見慣れた」作品を求めるという相反する作用もあります。小説にたとえてみましょう。ある小説を読んで面白いと同じ作家の別の作品を読もうとします。違う作品を読みたいのと同時に、同じ作家なら同じような面白さがあると期待します。「期待の反復」はある程度必要なのです。
この『花のち晴れ』のサブタイトルは「もうひとつの花男」。見事に「期待の反復」を利用しています。「『花より男子』を見て楽しかった皆さん、こちらも見てください。」というメッセージ。ただし、新しい方の魅力はどうか。杉咲花は今この年代で実績も実力も十分の女優ですが、私にとっては男優陣が物足りません。私の年齢の男性は視聴者として最初から期待されていないでしょうけど、幅広い視聴者を取り入れないといけないテレビドラマにとっては、期待される視聴者がやや狭いかもしれません。
モンテ・クリスト伯 (フジテレビ系、木曜22時) 5.1%
「期待の反復」ということで言うなら、一番はっきりしているのがこの作品。作品タイトルは有名小説そのものですから。あの作品をディーン様(ディーン・フジオカ)がどう演じるのか。そういう「視聴者の期待」がおおいにあるだろうと制作側から期待されているわけです。
ただ、心配もあります。そもそも『モンテ・クリスト伯』を読んでいる視聴者がどれくらいいるか。加えて、(かねてからこのblogに書いているように)日本人と復讐ものの相性はあまりよくありません。日本人はどちらかといえばものごとを忘れやすい民族。『忠臣蔵』のような忠義孝心の物語はともかく、個人の怨念の物語は受入れられにくい土壌があります。それを上回るディーン様の魅力に期待しましょう。
崖っぷちホテル! (日本テレビ系、日曜22時30分) 10.6%
この作品は「期待の反復」を謳ってはいませんが、明らかに三谷幸喜作品をイメージさせます。ホテルものということでいえば、映画『THE有頂天ホテル』(2006年)がすぐ思い浮かびますし、一人の男の出現によってすっかり傾いた店(ホテルorレストラン)を立て直すという意味では、松本幸四郎(当時は市川染五郎)主演の1995年の名作『王様のレストラン』とそのまま重なり合います。その意味では過去の作品との重なりが大きくてかなりの既視感もありますが、有名ホテルの副支配人から転身する男が何をやってくれるのか、期待感はおおいにあります。
ヘッドハンター (テレビ東京系、月曜22時) 4.5%
今クールの中で、「期待の反復」という意味からもっとも遠いのはこの『ヘッドハンター』という作品でしょう。「ヘッドハント」という言葉はよく知られていますが、なかなか表面に出ることのない「ヘッドハントする側」に焦点をあてた作品がこの『ヘッドハンター』です。これは「期待の反復」をほとんど使わない新しい作品でした。その意味で初回視聴率は今ひとつでしたが、見てみたらなかなか面白いじゃないですか。転職というのは働く人間にとってたいへん大きな決断。今回はそれに至る技術者たちの気持ちの動きと、それを硬軟織り交ぜて表に引き出そうとする「ヘッドハンター」たち。視聴前には特に期待していませんでしたが、これまでにないところに焦点をあてた作品として、来週からも楽しみにしたいと思います。
未解決の女(テレビ朝日系、木曜21時) 14.7%
近年、事件解決ものはテレビドラマの主力で、この作品もご覧のような高視聴率で発進しました。初回の高視聴率は、作品を見る前の評価ですから、テレビ朝日の事件解決もの(『相棒』などの実績)への期待と、配役への期待が考えられます。「期待の反復」からいえば、テレビ朝日の事件解決ものへの期待という前者の要素が強いことでしょう。配役への期待という後者でいえば、波瑠と鈴木京香のダブル主演(追記…ダブル主演は勘違いでした。ただ、それくらい鈴木京香が重要な役割を果たしています。)に、沢村一樹、遠藤憲一、高田純次らの脇役。さらには初回ゲストが中山美穂に風間俊介。たしかにこの豪華キャストには期待が高まります。ただ、初回を見た限り、トリックにはやや強引なところがありますし、波瑠が体育会系行動派の刑事、というのもまだ見慣れずしっくりはきません。初回の高視聴率=高い期待をこれから維持できるかは、行動派・波瑠と引きこもり推理系・鈴木京香のコンビが相乗効果を発揮するかにかかっているものと思います。
やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる (NHK、土曜20時15分)
いじめや体罰、モンスターペアレントなど、学校が多くの問題をかかえる中で、「スクールロイヤー」という学校所属の弁護士が活躍するドラマ。学校ドラマはいつの時代にもありますが、そこで扱われる課題が時代とともに変化している…というのは私の授業のテーマの一つでもあります。このドラマがまた現代の課題を描いていることは確かです。ただ、初回を見てそれだけではなかったのは、「無茶な要求をする親」対「法律を武器に対抗するスクールロイヤー」の構図だけではなく、「穏便にものごとを済まそうとする教師たち」対「毅然と物事に対処するスクールロイヤー」という、学校をめぐるもう一つの構図を示していること。私も学校関係者なので、スクールロイヤーに期待する気持ちはあります。しかし、その一方で、人間関係は法律よりも感情の問題が大きい、そう考えることもしばしばあります。この作品の登場人物たちを描く際に、単純な悪者対ヒーローにはなっていないところが、今後どのように展開していくのか。次回以降を期待したいと思います。
※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。