フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



六本木ストライプ・シアターで演劇『恋むらさき』を見てきました。
          
この『恋むらさき』は、中央大学の同僚である黒田絵美子先生が構成された演劇です。演劇と書きましたが、従来的な演劇の概念にはあてはまらないかもしれません。能と現代劇のコラボレーションによって構成された、これまでにない舞台でした。
          
当日配布されたパンフレットによると、黒田先生が文学座公演に出演されていた神野崇さんの役がとても印象的で、神野さんに「恋」「白」「超越的存在」という3つの要素を含む芝居をしてもらいたいと考えたとのことです。一方でシテ方金春流能楽師の中村昌弘さんの舞台を見て、「先の3要素を実現するには中村さんの能とのコラボしかない!」とひらめいたとか。
          
創作する人間にはこうした「ひらめき」の瞬間というものがあります。私のような研究者でも研究や論文のヒントが浮かぶ瞬間というものはありますし、研究している作家や脚本家の証言を調べてみると、「まるで勝手にアイデアが湧いてくる」ような特異な時間があるといいます。
          
黒田先生のこのお芝居のヒントもまさにそのようなものだったのでしょう。元の能の部分にはほんのわずかしか手を入れていないそうですが、能と現代劇の部分がまったく違和感なくつながって、ひとつの舞台空間を形作っていると感じられました。
          
また、お芝居は地下のスペースでしたが、受付のある1階には生花(カキツバタやアジサイなど)が飾られたスペースが用意されていました。私にはその場所が、地下の「超越的」空間につながる「現実」と「異界」のはざまのように感じられました。
こうしたていねいな舞台設定による斬新な発想のお芝居を見て、一回だけの公演ではもったいなかったなと感じた一日でした。
          



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