フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 連休中は仕事でパソコンに向かっていることが多かったのですが、その合間に観劇に行ってきました。
          
 
シアター・キューブリックという劇団の「ベイクド・マンション」という芝居を見るために、新宿のシアター・サンモールへ行ってきました。このシアター・キューブリックという劇団は2000年に結成されたそうで、今回は、再演を含めて17回目の公演になるようです。
 私はその第1回公演は見ていないのですが、2作目「フェイス・ザ・ラビリンス」、3作目「オシャマンベ」、4作目「おとうさんのいちばん長いクリスマス」と見に行きました。その後は予定が合わず、しばらく行っていませんでしたが、私はこの劇団の作者・緑川憲仁さんの書く脚本がわりと好きで、久しぶりにこの劇団の芝居を見ることができました。
          
 今回の芝居の主人公は女性絵本作家。絵本が売れてはいるものの、自分が書きたい作品を書いていないという不満を持っている、という設定です。ある日、この絵本作家が不思議な空間(ベイクドマンション)にまぎれこんで、そこで自分の幼い頃の姿や自分の創作したキャラクターに出会って……という展開になります。
 このような「創作する人物が作品の中に登場して創作について考える(悩む)」という物語は、私が専門とする日本の近現代文学の中にも多く見られます。古くは明治初期の政治小説や坪内逍遙の作品にもそれに近いものがありますが、特に大正期から昭和初期にかけていわゆる私小説が盛んになると、さらにひんぱんに小説の中に登場してくるようになります。ただ、この問題は専門的になるので、ここでは置いておきましょう。
 今回シアター・キューブリックのチラシには「癒し系エンターテイメント」とキャッチフレーズがあったように、この劇団の芝居は、今回のようにホラーやミステリーの雰囲気を持っていたとしても、基本的にはほのぼのさせる性格を持っているようです。
 初期の頃は「癒し系」というキャッチフレーズは付いていなかったように記憶しているのですが、その頃の作品も、同じように気持ちをほのぼのさせる雰囲気がありました。テレビドラマの脚本家で言うなら岡田惠和さんの描く世界と共通点があります。
 ただ、岡田惠和さんとシアター・キューブリック(緑川憲仁さん)の脚本の違いは、キューブリックの方に必ずと言ってよいほど、「現実」「日常」とは異なる世界が登場すること、またホラーとか時代劇とかの味付けを加えていることなどでしょうか。今回も「ベイクド・マンション」という非現実的な世界に主人公が迷い込みます。
          
 以前に見た芝居でも、たとえば「フェイス・ザ・ラビリンス」は天上界の話、「おとうさんのいちばん長いクリスマス」はおとうさんがクリスマスごっこの世界に入り込む話、といった具合で、「現実とは異なる世界に入り込むことで何か大切なことに気づく」という基本線をこの劇団の芝居は持っているように感じます。「癒し系」というキャッチフレーズを付けるのであれば、おそらく「おとうさんのいちばん長いクリスマス」が一番ファンタジー的要素が強くて、「癒し系」度が強かったように思います。
 私は、テレビドラマと言えば野島伸司のような毒の強い作品にも興味をひかれますが、一方で岡田惠和のような「出てくる人がみんないい人」のほのぼのした作品も好きです。ただ、岡田惠和作品がいっときほど視聴者に受け入れられておらず、『銭ゲバ』とか『夜光の階段』のような「のしあがる」人物を描いた過去の作品(マンガや小説)がテレビドラマ化されているところを見ると、今はほのぼのとした作品の受け入れられにくい時期なのかもしれません。
 とは言え、こうした世界を支持してくれる観客・視聴者も必ずいるわけで、その意味ではシアター・キューブリックにもこうした作品を上演し続けてほしいと思っています。



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