劇団シアター・キューブリックの演劇公演『葡萄酒色のミストラル』を、東京中野のザ・ポケットで見てきました。
シアター・キューブリックの芝居は、以前に何度か見たことがあります。旗揚げ公演は見ていませんが、その後、『フェイス・ザ・ラビリンス』 『おしゃまんべ』 『おとうさんのいちばん長いクリスマス』などを見ています。脚本・演出の緑川憲仁自身がホームページで「癒し系エンターテイメント演劇」と語っているように、ほのぼのとしたファンタジー風の作品が特徴です。
その後はあまり見に行っていませんが、2002年初演のこの『葡萄酒色のミストラル』は宮沢賢治を題材にした作品ということで、前から見てみたいと思っていました。何度か再演されていますが、今回都合がついたので、ようやく見ることができました。
作品前半は戦後の東京の家庭が舞台。その家の飼い犬が主人公となる話です。しかし、作品のちょうど中間頃からこの犬と宮沢賢治とのつながりがわかってから、作品は急激に雰囲気を変えていきます。キューブリックの持ち味の「癒し系」とか「ほのぼの」というよりは、哀切な物語が展開されます。
宮沢賢治を題材としているということで見にいったので、前半の1時間は私にはやや退屈でした。その部分はコント仕立ての場面を含めて構成されているので、この部分を楽しみに見ているお客さんもいるようですから、退屈だという私は見方はやや一方的かもしれません。
文学研究者の私としてはもっと賢治の作品との直接的な重ね合わせの要素というものが強く見られるかと思っていたのですが、その部分は思ったよりも少ないという印象でした。
とはいえ、脚本家の意図を推測するなら、賢治の作品を直接的に用いるよりも、むしろ芝居の構成や登場人物たちの言動をとおして、賢治の世界を表現しようとしたのかもしれません。あるいは、そういうことこそがインターテクスチュアリティーなのですから、それはそれで意味のある舞台の作り方だということは感じました。
前半に、「どうして人間と犬がこんなに仲良くなれるのか」という話が伏線となり、そこから後半で賢治との結びつきが語られるという展開には感嘆させられました。この部分は書きませんが、この作品の根幹となる発想としておおいに評価した部分でした。
実は今、2冊の本の仕上げなどで目の回るような忙しさなのですが、その中で時間を割いて見に行ってよかった作品でした。
※最初と最後の音楽の音量が大きすぎて、出て行こうかと思うくらいでした。
あの小さい劇場でなぜあれほど音量があげるのか、よくわかりませんでした。