フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 10月から12月にかけてのクールのテレビドラマが出揃ってきました。まだこれからの作品もありますが、先週のこのブログで取り上げなかった作品について、簡単な感想を書いてみましょう。数字はビデオリサーチ社による関東地区のこれまでの視聴率です。

 昭和元禄落語心中   (NHK、金曜22時) 4.6%
 
 雲田はるこの漫画を原作としたテレビドラマ化作品。累計200万部が販売された原作とはいえ、昭和初期の落語家の世界といえば、朝ドラ(連続テレビ小説)でもないと、なかなか連続ドラマにはなりにくい題材。常々言っているように、NHKには「民放では放送しないようなドラマ」しかし「世間の風潮には左右されない良作」を制作してほしいもの。実際、この作品はなかなかいいです。特に興味深いのはキャスティング。岡田将生、山崎育三郎ともに現代的な雰囲気の俳優で、昭和の落語家というイメージはありませんが、それを起用したとことに強い意欲を感じます。

 ハラスメントゲーム   (テレビ東京系、月曜22時) 5.2%
 
 テレビ東京系では、毎日22時を「働く人応援」の時間帯と位置づけているとのこと。これはドラマやドキュメンタリーなどのジャンルを問わないものです。テレビ離れが懸念されるこの業界において、新しく貴重な試みだと思います。唐沢寿明がコンプライアンス室長を演じるというので、絵に描いたようなヒーローかと思いきや、7年間も左遷されていた社員で、セクハラ発言連発の困った親父でもあり、なかなか面白いキャラクターに設定されています。ストーリーはそれほど緻密とはいえませんが、「働く人」たちがハラスメントに関する勉強をしながらドラマを楽しみのにちょうどよい加減で、それほど期待していなかったわりには面白い作品になっていました。

 大恋愛~僕を忘れる君と  (TBS系、金曜22時) 10.4%
 
 こちらもまたキャスティングが見どころ。若年性アルツハイマー病を患う若い女性医師に戸田恵梨香というのもやや意外ですが、それ以上に、彼女を支える元小説家男性にムロツヨシをキャスティングしたのには驚きました。しかし、これまで2回見たところ、この起用はけっして意外なものではありません。新人賞をとった後に挫折した元小説家という設定もムロに合わせたもののようですし、今後病気の妻を支える展開から目が離せません。「5年後に大河ドラマの主役をする」と公言しているムロの今後の大バケに期待したいものです。

 忘却のサチコ  (テレビ東京系、金曜深夜時) 2.0%

 テレビ東京系深夜枠得意のグルメもの。いわゆる「深夜の飯テロ」番組の一つです。少し考えただけでも、『孤独のグルメ』『ワカコ酒』『めしばな刑事タチバナ』『昼のセント酒』『侠飯(おとこめし)』などなど…。共通するのは、グルメ番組ではあってもけっして高級志向にはならず、とことん庶民的で気取らないこと。この『忘却のサチコ』は『孤独のグルメ』などに比べればストーリー要素が強く、ドラマ性があります。それでもこの路線特有の気取らなさがあり、朝ドラ女優でもある高畑充希が、大きな口を開けて思いっ切り食べるところが気持ちいい! 有名女優が小さな口で蕎麦をほんの一口つまんで「ああ、美味しい」なんて言ってるグルメ番組が馬鹿らしく思えてきます。この視聴率ではもったいない! 皆さん、もっと見た方がいいと思います。それに、高畑充希のコスプレもなかなか楽しいですしね。

 下町ロケット2   (TBS系、日曜21時) 13.9%

 『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』『花咲舞が黙ってない』『下町ロケット』『陸王』と続く、池井戸潤原作のテレビドラマシリーズは、今やすっかりTBS日曜夜の定番ドラマとなりました。このシリーズについては、過去に私のブログ、ネット記事、講演などで何度も書いてきました。ですのでもう繰り返しませんが、近頃特に感じるのは、中高年男性、しかも日頃はテレビドラマをあまり見ない視聴者からの支持が多いこと。メディアにはそれぞれのジャンルに特有の約束事があり、それになじむことが求められます。しかし、日曜劇場で放送される池井戸潤ドラマの場合は、そのようなハードルが低く、日頃企業で働く人びとがそれに近い感覚でドラマに入れるように作られています。『半沢直樹』のような大ヒットはもはや難しいと思いますが、固定客をつかんだ安定作品として今後も一定の支持を得ることでしょう。

 今日から俺は!!  (日本テレビ系、日曜22時半) 9.8%

 いくら人気漫画が原作とはいえ、この作品をテレビドラマ化するんですかねえ…というのが第一印象でした。だって、「ツッパリ」生徒たちっていうのは、1980年代前半の学校の話です。しかし、『勇者ヨシヒコ』や『アオイホノオ』などで知られる福田雄一の脚本と演出で、その独特な世界がここでも発揮されていると思いました。ただ、私自身は、福田雄一の過去の作品、『33分探偵』などの方が好きでした。近年は福田色を出そうと極端になりすぎているように感じました。ただ、この作品をいまひとつ楽しめないのは、80年代前半に私は大学院生兼高校の非常勤講師で、「ツッパリ」生徒に苦労していたので、どうもこの手の世界にいい思い出がないためなのかもしれません。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。



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