考えるための道具箱

Thinking tool box

阿部和重の不穏な新作。

2004-11-07 15:45:50 | ◎読
BLOGをはじめてから早3回目(つまり3ヶ月目)になるのだが、恒例の月初の文芸雑誌選びは、有無を言わさず『群像』(※)に決定。
もちろん阿部和重です。『シンセミア』の上梓から約1年。一般読者も広がり批評家の評価も深まった彼の物語には期待が高まる。もちろんこの間、『シンセミア』の後日譚でもあり次の物語のプロローグでもあるような神町サーガの断章を書き綴っていたり、中原昌也との合作で保坂和志を愉しむ短編などを発信したり、興味深い営みを行っていたわけだが、まとまった小説は久しぶりである。

『グランドフィナーレ』。220枚。「ロリコンゆえに仕事も家庭も失った男が故郷で二人の少女に出会う」といった不穏な惹句で紹介される物語は、「可愛らしいピンク色のウサギと青色の子グマが手を繋いで横に並び、眼前に立ちはだかっている。」と不穏にはじまる。ほとんど読み進んでいないので「故郷」が神町かどうかもわからないが、『シンセミア』で炸裂した、ギャップの連続を繰り返すボキャブラリー(下世話でぶっきらぼうな言葉と古めかしく事大な漢語の繰り返し)などは顕在で、読む私たちをいちいち立ち止まらせる。蓮見話法が復活している部分もあり、登場人物の偏執性/変質性の強度があがっているともいえる。

『シンセミア』で完成した多元視点などは、どのように脱構築されているのか。テキストが映画を超えることは可能なのか。私たちの手の届かないところにいってしまう阿部和重に大いに嫉妬しつつ読み進めたい。このBLOGでもできるだけ迅速に内容を紹介できるようにしたいと思う。

なお、『群像12月号』では、劇団主宰の本谷有希子さんという方のまるで阿部和重か中原昌也のタイトルかと思わせる『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』や、最近目立ち始めた文芸評論家田中和生さんのテキスト論『架空の「現在」』などが掲載されている。これらの作者や作品について私自信はまったく知見はなかったが、冒頭部分に触れる限りでは、さらにまた前者が舞台のノベライズであるという点、後者がポストモダンの思想家たちを軸に論を進めている点などからも、面白く読めそうである。

この3ヶ月の文芸誌の勝敗評は「新潮0、文学界1、群像2、すばる0」。群像編集者の底力を認めるとともに、新潮のパワーダウンが気になるところだ。


(※)BLOGエントリー時は、講談社のサイトはまだ更新されていません。

---------------------------------------------
↓本と読書の情報のランキングに参加できます。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿