考えるための道具箱

Thinking tool box

◎『ミュージック・ブレス・ユー!!』

2009-02-08 00:42:27 | ◎読
たとえ箱のなかがいっぱいだったとしても、ガサガサ動かしてれば、追加で押し込みたいものが「仕事」だとすれば、なんとかあとひとつやふたつ入る隙間はうまれてくる。それ以外の些事だって、これまでならなんとか遊びはうみだせたんだけれど、いまは、よほどの熱意がない限りはちょっと難しいかなあ。しかし、バランスは大事なので、これからはフラグメントでも書き留めておく。というか書き留めておきたいよなあ。



まえに、津村記久子の『婚礼、葬礼、その他』を読んで、そのスラップスティックスの加減と、ふと差し込まれる「自分-他者」のきわめて正しいパースペクティブ、そのことにしじゅう頭を抱えていなければうまれないような見様にいたく感心したことがあった。これはいいなあ、もっと読んでみようとずっと思っていたのだけれど、ようやく『ミュージック・ブレス・ユー!!』を押し込む隙間を見つけることができた。

『とにかく相手の言うことを肯定することは大事だと、アザミは十七年の人生で体得していた。否定されるために発言する人というのはあまりいない。』

『アザミが彼女たちの言うことに一方的に納得させられてしまうのは、実は言語と文化の距離あってのことで、……その距離が立てる戸にもたれかかることは楽だった。同じ言葉を使う女の子ことがわからないのはとても辛かったが、違う言語で書く女の子の考えを理解できないことは仕方がないと思えるのだ。……
もどかしかったが、自分の言いたいことを言葉にできないのには慣れっこだった。そういう時は何も考えずに何も内容ないことを喋りまくればいいのだ。』

『さっきまで泣いていたナツメさんはすっかり消沈し、ただえずいたり、目をこすったり、やたら豪快な音をたてて洟をかんだり、なかなか人間としてのスタンバイ状態にならなかった。アザミはどうしよう、これ食べ終わったらすぐに出よかな、もうそのほうがいいよな、などと考えながら、それ自体は非常にぱりぱりして好みであるパニーニをかじった。』

『「音楽について考えることは、自分の人生について考えることより大事やと思う」』

『再び、アニーのことを思い出した。だいじょうぶなわけはないけれど、それでもだいじょうぶかと訊きたいと思った。文面ではなく、たどたどしくつっかえるであろう自分の声で。そうするためには、いったい何をしたらいいのだろう。
車窓の向こうに世界が見えた。畏れが胸を通りすぎて息をのんだが、やがて頭の中で鳴っている音楽がそれをさらっていった。』

あらすじを書くのはめんどうくさいので割愛するけれど、『ミュージック・ブレス・ユー!!』は、かなりうまい小説だと思う。雑駁が魅力な女性描き方、ドタバタの構成力(とりわけ、アザミがオギウエに食ってかかるところなんか)、機知に富んだワーディングなど、テクニカルな部分はもとより、上の引用でもわかるように、やはり『婚礼、葬礼、その他』同様に、他者との距離感、他者のことがうまく理解できずに浮き足立つ自分、しかしなんとかしたいという願いが、けっこう正しくかけている。正しくというと語弊があるので言い直すと、きわめてぼくに共感できる形で描けている。それだからアザミが魅力的に感じられるんであり、そういった女性の破滅的な言動にあるからくりのようなものがわかって、ああいいなあ、というつぶやきが自然とでてくる。もっとも、それは、柴崎、川上より、より自然で気負わない大阪弁に負うところが多いのかもしれない。

といことで、受賞第一作の『とにかくうちに帰ります』が掲載されている『新潮 3月号』はもとより、受賞作の『ポトスライムの舟』も一挙に落手。前者は冒頭を読む限り、また誰も思いつかないような些細な設定をもってくるよなあ、こいつは、って感じ。もっとも、もうどんだけガサガサしても、箱に隙間はうまれそうもないので、いつ感想をかけるかなんてまったく想像もできない。

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1 コメント

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ミュージック・ブレス・ユー (frau)
2009-02-08 18:42:30
頑張って読みます。
ヒマなんですものね。
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