鶴見 Ⅱ

（總持寺つづき）

 

　この日は、朝から三時間かけて總持寺の墓地を歩いた。久しぶりに万歩計は三万歩近くを計測した。總持寺も広い境内を持つ寺院であるが、墓地だけでもかなり広い。私の目当ては内海忠勝の墓である。いくら歩いても内海忠勝の墓を発見することができず、諦めて撤退することになった。

　内海忠勝は長州藩出身。御楯隊や遊撃隊に入って藩内抗争に活躍した。維新後、岩倉使節団に随行し、帰朝後は大阪府権参事、同参事、同大書記官、ついで長崎、三重、兵庫、長野、神奈川、大阪、京都の各府県令、知事を歴任した。第一次桂太郎内閣で内務大臣に就任。明治三十八年（１９０５）、年六十三で没。

 

石原裕次郎の墓

 

　總持寺墓地には石原裕次郎の墓があることで知られる。所々に「裕ちゃんの墓」への標識が出ているので、迷わず行き着くことができる。ほかの著名人の墓にも何等か標示があると助かるのだが。

　石原裕次郎が亡くなったのは昭和六十二年（１９８７）のことなので、今から三十年以上も前のことになる。私の世代にとっては、数多いテレビ俳優の一人に過ぎないが、もう少し上の世代にとってみると青春時代を代表するスター的な存在となる。私が墓を訪れた時も、真新しい花が飾られ、線香の煙が絶えることはなかった。

 

積功院殿偉業総成大居士

（浅野総一郎の墓）

 

　浅野総一郎は、越中氷見生まれの実業家。明治四年（１８７１）、二十三歳の時に上京。明治六年（１８７３）、横浜ガス局より、石炭からガスを製造したあとに廃棄されていたコークスを安価で買い取り、それをセメント製造の燃料として、官営深川セメント製造所に納めて利益を得た。明治十七年（１８８４）、官営深川セメント製造所の払い下げを受け、これが浅野セメントの基礎となった。明治二十九年（１８９６）に欧米視察。帰国後、東京から横浜にかけて日本初の臨海工業地帯の建設を計画した。大正二年（１９１３）から約十五年をかけて、横浜鶴見から川崎にかけての埋め立てを完成させた。昭和五年（１９３０）、八十二歳にて死去。

 

従一位大勲位伯爵清浦奎吾墓

 

　第二十三代内閣総理大臣清浦奎吾の墓である。清浦奎吾は大正十三年（１９２４）に七十五歳のとき組閣したが、直後の選挙で大敗し、わずか五か月で総辞職した。熊本県初の総理大臣で、出身地である山鹿市鹿本町には記念館がある。

 

益田孝之墓

 

　益田孝は弘化四年（１８４７）の佐渡の生まれ。父は佐渡奉行属吏益田鷹之助。安政五年（１８５８）、上京。英語を学び、文久三年（１８６３）、池田長発の渡欧に父とともに随行した。維新後は横浜で貿易商となったが、大蔵大輔井上馨の知遇を得て、大蔵省に出仕。造幣権頭に栄進したが、明治六年（１８７３）五月、井上、渋沢栄一らと辞官した。再び貿易会社を興したが、明治八年（１８７５）、三野村利左衛門を知り、三井物産に合流した。工部卿伊藤博文から三池炭鉱を譲られ、これをもとに三井鉱山を興し、さらに三井合名会社を組織して三井財閥の基礎を固めた。また公共事業に尽力して功があった。一面、茶人として、また美術愛好家として、その方面でも名を成した。昭和十三年（１９３８）、年九十二で没。

 

千秋院殿粛心楓關大居士（渡辺千秋の墓）

 

　渡辺千秋は、天保十四年（１８４３）の生まれ。高島藩士。雅号は楓關。幼くして父母を失い、専ら祖母に育てられた。学を藩学長善館に学び、高島藩に仕えた。維新後、伊那県庶務調方に出仕を命じられ、以降累進して鹿児島県知事、佐賀県知事、北海道庁長官、内務次官、京都府知事、宮内次官等を経て、宮内大臣に至るまで要職を巡り、明治三十三年（１９００）には特旨をもって華族に列せられた。大正三年（１９１４）、病を得て公職を辞し、芝高輪南町の本邸に老後を楽しみ、情趣動けば和歌を詠じ、盆栽・謡曲に親しんだ。大正十年（１９２１）、年七十九歳で没した。