今年は大正百年のメモリアルイヤーである。その大正生まれの作家、永井路子の描く「岩倉具視」が文庫化された。永井路子といえば、北条政子や細川ガラシャなど、室町時代や戦国時代の女性を好んで取り上げる作家である。私も学生時代には、永井氏の小説を何冊も読んだものである。本作は、永井氏が近代の、しかも男性を取り上げた作品を書いたということで発刊された当時から話題を呼んだ(本作の上梓は平成二十年)。
本作は単なる伝記小説というより、岩倉具視を題材にした評伝といった方が正確であろう。
副題に「言葉の皮を剥ぎながら」とある。「尊王攘夷」とか「佐幕」という言葉の表面的な意味合いと、実態との乖離を次々と暴いてゆく。「攘夷」の時代は、文久三年(1863)の薩英戦争と長州藩の四国連合艦隊との戦争をもって終焉したと指摘する。
岩倉具視といえば、孝明天皇毒殺の黒幕と言われているが、永井氏は明確に否定する。永井氏の言い分は、本書を一読いただくとして、素直に支持したい。
永井氏は岩倉具視をヒーローとして描くのではなく、生身の人間として扱う。岩倉の生涯を晴れやかな成功物語として描くのであれば、右大臣まで昇りつめた明治維新以降を無視するわけにはいかない。しかし、伝記としては王政復古で終わって、それ以降は「余白に…」と題して点描するにとどめている。岩倉具視をテーマにする構想を長年あたためてきたという作家にしては、意外なほどドライである。
岩倉具視が輝いていたのは王政復古までで、維新後は大久保や木戸に操られただけだと切り捨てる。有名な明治四年(1871)の岩倉遣外使節団についても「無意味愚挙と言わざるを得ない」と辛辣である(そこまで言わなくても…と思いますが)。
明治六年(1873)十月二十二日、西郷隆盛を使節として朝鮮に派遣することを決定した廟議に反対する意見を上奏しようという右大臣岩倉具視のところに、西郷隆盛、江藤新平、板垣退助、副島種臣といった遣韓使節派の参議が押し掛けた。岩倉は「わしのこの両眼の黒いうちは、おぬしたちが勝手なことをしたいと思うてもそうはさせんぞ」というヤクザの親分のような台詞を吐いて、四人の参議を退けた。これも大久保の書いたシナリオとおりに演じただけといってしまえば身も蓋もないが、岩倉の凄みを感じるシーンである。本書では明治六年政変のことが触れられていないが、個人的には、岩倉具視というとこの場面を抜きには語れない。
本作は単なる伝記小説というより、岩倉具視を題材にした評伝といった方が正確であろう。
副題に「言葉の皮を剥ぎながら」とある。「尊王攘夷」とか「佐幕」という言葉の表面的な意味合いと、実態との乖離を次々と暴いてゆく。「攘夷」の時代は、文久三年(1863)の薩英戦争と長州藩の四国連合艦隊との戦争をもって終焉したと指摘する。
岩倉具視といえば、孝明天皇毒殺の黒幕と言われているが、永井氏は明確に否定する。永井氏の言い分は、本書を一読いただくとして、素直に支持したい。
永井氏は岩倉具視をヒーローとして描くのではなく、生身の人間として扱う。岩倉の生涯を晴れやかな成功物語として描くのであれば、右大臣まで昇りつめた明治維新以降を無視するわけにはいかない。しかし、伝記としては王政復古で終わって、それ以降は「余白に…」と題して点描するにとどめている。岩倉具視をテーマにする構想を長年あたためてきたという作家にしては、意外なほどドライである。
岩倉具視が輝いていたのは王政復古までで、維新後は大久保や木戸に操られただけだと切り捨てる。有名な明治四年(1871)の岩倉遣外使節団についても「無意味愚挙と言わざるを得ない」と辛辣である(そこまで言わなくても…と思いますが)。
明治六年(1873)十月二十二日、西郷隆盛を使節として朝鮮に派遣することを決定した廟議に反対する意見を上奏しようという右大臣岩倉具視のところに、西郷隆盛、江藤新平、板垣退助、副島種臣といった遣韓使節派の参議が押し掛けた。岩倉は「わしのこの両眼の黒いうちは、おぬしたちが勝手なことをしたいと思うてもそうはさせんぞ」というヤクザの親分のような台詞を吐いて、四人の参議を退けた。これも大久保の書いたシナリオとおりに演じただけといってしまえば身も蓋もないが、岩倉の凄みを感じるシーンである。本書では明治六年政変のことが触れられていないが、個人的には、岩倉具視というとこの場面を抜きには語れない。
明治維新という新しい時代を切り開いた大功労者であるにもかかわらず、いまいち人気が無い。
あの写真で見ると,ふてぶてしげに見える面構えも、おそらく影響してるんでしょう。
また、あれくらいの迫力がないと、時代を作ることは出来ないんでしょうね。
なぜか、あの読売新聞社のナベツネを思い出しました。
いつもコメント有り難うございます。
日本では、権力の座について、しかも畳の上で死んだ人物は大衆の人気がありませんから、岩倉の不人気も仕方ありません。
是非「岩倉具視」を読んでみてください。