これも父の書棚から拝借してきた本である。綱淵氏の特徴である一字の題を付された十の小編が収録されている。「恋」「狼」「霊」「怪」「約」「瞑」「兆」の七編は、神秘的・超合理的現象をテーマとした小説で、個人的にはあまり興味はない。「脱」「獄」「魄」の三篇は、幕末の会津を題材としたものであるが、特に末尾の「魄」は、死体の近くに血縁者を感じると、鼻血を出したり歯茎から血を流して自分の存在を知らせるといった超合理的現象を描いて、やはり前の七編と同質の不気味な味わいの小説である。
「脱」は、元白虎隊士山川健次郎(のちの東京大学、京都大学、九州大学総長)が、国許を脱して長州藩出身の奥平謙輔のもとに走り、アメリカへ渡航するまでを描いた作品である。
「獄」は、広沢安任とともに投獄された武川信臣が、拷問を受けた末に斬首されるまでを描く。武川信臣は、会津藩の名門内藤家の出で、長子は内藤介右衛門、次子は梶原平馬というともに戊辰戦争時に家老を務めていた。信臣は第三子であったが、彰義隊に走り新政府軍に徹底抗戦を貫いた。
いずれも会津藩の悲劇を描いて、静かな感銘を呼ぶ作品となっている。
「脱」は、元白虎隊士山川健次郎(のちの東京大学、京都大学、九州大学総長)が、国許を脱して長州藩出身の奥平謙輔のもとに走り、アメリカへ渡航するまでを描いた作品である。
「獄」は、広沢安任とともに投獄された武川信臣が、拷問を受けた末に斬首されるまでを描く。武川信臣は、会津藩の名門内藤家の出で、長子は内藤介右衛門、次子は梶原平馬というともに戊辰戦争時に家老を務めていた。信臣は第三子であったが、彰義隊に走り新政府軍に徹底抗戦を貫いた。
いずれも会津藩の悲劇を描いて、静かな感銘を呼ぶ作品となっている。