1月30日(月)晴
寒かったが、昨夜は雪は降らなかった。朝方4時に目覚めて、習慣となっているラジオのスイッチを入れた。もちろん家内や娘たちも眠っているので、イヤーホンを耳にねじ込んでだが・・・。
毎月末の月曜の朝4時には、NHKのラジオ深夜番組で「隠居大学」があるのだった。天野祐吉というコラムニストがゲストを迎えて軽妙かつユーモアのある話で盛り上がるのだ。今朝はゲストが荻野アンナ氏。小説家であるらしいが、趣味多彩。
著 書
『蟹と彼と私』『古武術で毎日がラクラク!』『ラブレーで元気になる』『トントン拍子』『けなげ』『ホラ吹きアンリの冒険』『まっかなウソのつき方』『空飛ぶ豚』『半死半生』『空の本』『百万長者と結婚する教』『アンナの工場観光』『名探偵マリリン』『生ムギ・生ゴメ・生アクビ』『桃物語』『週刊オギノ』『背負い水』他多数。
彼女は1956年生まれというから、私よりも4歳年下の55歳である。話を聞いているとなかなか、愉快な女性であることがわかった。なにやら古典落語もやっているとか・・・。短編小説を題材にした、創作落語の話をしていた。中でも父親が船乗りで母親が絵描きだったとかで、同じ墓に入れるときは夫とお骨を離して入れてくれということと、娘が死んだらその二人の間にお骨を入れることが遺言であるらしい。
さて、隠居話といえば今朝がた、藤沢周平の「三谷清左衛門残日録」を読了した。400ページを少し超えている程度だから、先日の井上ひさしの5巻の長さに比べればあっという間だ。
この藤沢の残日録は隠居となった清左衛門の日々の記録で、一話ずつが短編であるために読みやすかった。そして隠居となってもまだ、完全に前職と切れないまま事件に巻き込まれていく様が、リアルで面白い成り行きを構成していた。
友人である代官佐伯との深い心の絆は何ともまたうらやましい関係でもある。連れ合いに先立たれ、今は息子の嫁の身の回りの世話にならなければならない身の上を、感謝しつつもなんとも心の中では寂しさとわずらわしさもあることがうかがえる。妻であればストレートな物言いが許されもするのだろうが、嫁ともなればやはり気遣いをしなければならないこともまたうなづける。
年を取ったという証拠の一つは、過去に記憶が遡っていくということが、物語の根底に流れてもいる。青春時代の仲間関係のことなどが、記憶としては新しく夢の中で再現するのだから仕方がない。まるでリスが秋口にエサをあちこちに隠して、冬になってどこに隠したのかも忘れた状態にも似ている。ふと気づくのはその木の実が、大地から芽を出してからなのだろう。
誰にでもあるはずの些細な事象が、心の中で本人の負担になっていることがあることも、共感できるのだった。その記憶の不確かさを、隠居になってから確かめるという筋立ては、今の自分にもないわけではないのだから・・・。