音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

展覧会の絵 (エマーソン、レイク&パーマー/1971年)

2010-08-29 | ロック (プログレッシヴ)


エマーソン、レイク&パーマーも名盤が大変多いバンド(というか、一般的にフロイドなら「狂気」、イエスなら「危機」というように1枚に絞れない? 私はいずれも違うが・・・)であるが、個人的にはこのアルバムが私に取っては彼らのベスト・ワンである。勿論、題材がムソルグスキーということが大きい。そう、チャイコでもストラヴィンスキーでもダメであって、ムソルグスキーを選んだこと、また、もし五人組なら、多分リムスキー=コルサルフの「シェエラザード」なんかの方が物語性もあって、ロック音楽としてのライヴ演奏も可能だとは思うのだが、なんといっても、ムソルグスキーという人を一挙に有名にしてしまった作品である。クラシック・ファンとしてもとても嬉しい作品である。

私的に言えば、ムソルグスキーは勿論知っていたが、「展覧会の絵」に関しては、EL&Pがライヴ盤の方が先に聴いている。だから余計に面白い音楽鑑賞になったことも事実である。ロック音楽がクラシックを引用したり、リカヴァーすることはとても多い。ロックミュージャンとはいえ、殆どのキーボード・プレイヤーはクラシックピアノから音楽に入っているからである。だが、ショパンやシューマン、ドビュッシー、最近ではハチャトリアンなんかは弾いても、ムソルグスキーを弾くことは殆どない。だから、EL&Pが題材にしたというのは、意外であるという以上に、何と音楽というものに基本的に真摯な人たちなんだろうと感銘した。ロックのミュージシャンというのは、どうしてもアンダーグラウンドにみられたり、また、酒、薬、女というようなイメージが強いのであるが、そういうライフスタイルではなく、いつも音楽と共にあり、そして音楽のさらなる探求を忘れないという日常が、こういう名作に繋がったとしか思えないのである。このアルバムの良いところは、ムソルグスキーの原曲と、EL&Pのオリジナリティがみごとに結合して、新しい楽曲(だけでなく、ブログレに定義される領域の拡大も)を成立させているところである。しかも、それがきちんと彼らのスタイルとなっているところ、キースのアドリブあり、グレックのギターバラードあり、カールのパーカッションも活かされているから、「展覧会の絵」という原曲があるなんて教えられなければ、新曲をいきなりライヴ盤で出して、凄い奴らだと思ってしまうに違いないが、その辺りに関しては発売に関する話も中々いわくつきの作品であったようだ。物の記録によると、既にコンサートでこの曲の演奏を試みていたが、セカンドアルバムは「タルカス」が先になったために、多くの海賊盤(この時分は随分やたらと色々なアーティストのライヴが出回っていたものだ)が非公式であるにも関わらず、やはり演奏テクも凄いので話題が話題を呼んだ。そもそもは、「タルカス」前にこのライヴの発売計画はあったものの遅れてしまい、仕方なく、1971年11月に発売された。ライヴでも話題になっていたものだから、勿論、売れ行きも上々でどちらかというとクラシックではイマイチだったこの曲を、EL&Pの人気でとどまるところを知らない様相で有名にした。また、同時に、アンコール曲として「ナット・ロッカー」を収録したりというのも当たった。そもそもはチャイコの「くるみわり人形」の行進曲であるが、この誰もが一度は聴いたことのある有名なメロディから、彼らの高い音楽性とテクニックを存分に発揮・理解してもらうにはこの曲は最適だった筈だ。尤も、この頃のEL&Pのライブでは、殆どこの曲の演奏はあったようで、後々初期のライヴとして、それ以外の曲を収録した「展覧会の絵」が発表になったが、確かに初期の彼らの演奏を存分に聴けるという点では興味は高いが、私は何も無駄もなくきちんと完結し、主張している最初の「展覧会の絵」の方がずっと好きである。思うに、クラシックは現代音楽へと継承されている中で、楽典としての新しい試みと、一方では演奏家の技術による演奏を通しての新たなる発見・進歩という二つの観点から成長を続けているが、一方で、ロック音楽の位置づけで何だろうと思う。ビートルズは100年後も残っているだろうかと考えると、モーツァルトは残るけど、ビートルズは自信がない。同様に、例えば、「恐怖の頭脳改革」なんかは忘れられてしまうと思うし、EL&Pの名前も同様だと思うが、「展覧会の絵」はムソルグスキー作品も、EL&Pも後世まで語り継がれるであろう。

但し、現代音楽とも違う、こんなセンスの高い曲を良く作ったと思う彼らの意欲には脱帽してしまう。もっとも、ムソルグスキーが作ったのはピアノ曲で、これを管弦楽曲として作り直し演奏会でより大勢に発表したのはかのラヴェルである。EL&Pはラヴェルの意思を継いで、現代に生きる「展覧会の絵」を作ったのであろう。


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1 コメント

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名盤ですね。 (kiyomi)
2010-09-01 19:36:09
これは名盤ですね。
私もこのアルバムは大好きです。
ご指摘の様にムソルグスキーがこういう形で再現されるとは、当時も驚きました。

グレッグのバラードが当時、「ROPE」の宣伝のパックにも使われていましたね。

懐かしいアルバムです。
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