音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

ナサリー・クライム (ジェネシス/1971年)

2010-08-30 | ロック (プログレッシヴ)

この作品は発売当初は「怪奇骨董音楽箱」(現在でもサブタイトルの様であるが)という邦題がついていたが、これは1曲目の「ミュージカル・ボックス」を勝手に和訳したのだろうか分からないが、いずれにしても、当時新しいプログレバンドとして何とか話題にしたかったという意図が伺える。

何といっても、このアルバムと次作品の「フォックストロット」がジェネシスの音楽的最高潮期である。そしてその殆どが、ピーターガブリエルの絶対的存在が大きい。ジェネシスは最近のジャンル分けでは、「クラシックロック」等と言われる事がある。こういうジャンル名称で、他にどんなバンドが該当するのかは分からないが、ひとつ言える事は、このネーミングのクラシックとは「古典」という意味ではなく、クラシックミュージックを指している、つまり、土壌がクラシックにあるロックバンドであるという意味であろう。但し、一番プログレッシブな音を出していたのはこの時代だから、そう考えると販売サイドがプログレを名指さないのなら、やはりプログレ四天王で、このジェネシスは入らないのであろう。確かに、1980年代のポップ路線で、思いっきり商業音楽化して売れたバンドだから、実はメーカーとしては、ガブリエルの時代の事は余りオモテに出したくないというのが当時はみえみえだった。背に腹は変えられなく、今更五大プログレバンドの冠なんて必要なく、あくまでもフィルコリンズを前面に、できるものならピーター在籍の事実なんて消し去りたいなんて思ってやしないかと、とても不安である。だが、この作品を聴くとやはりジェネシスはガブリエルということが良く分かるし、フィル時代からのジェネシス・ファンにおいても、ピーターのヴォーカルをフィルと間違える(確かに似ている??)人も多く、それだけフィルも影響されていたのだと思う。前作「侵入」で、可なりこのバンドの方向性は定まっていたものの、フロイドやクリムゾンの比べると決定的な音の確立はされていなく、そういう意味ではこのアルバムは見事にジェネシスの存在を確立させた。特に、「怪奇~」であるミュージカル・ボックスの旋律は、それまでのフログレにはない冒険ヒストリー的な優しい音が満載で、もし、この時代に冒険ファンタジーが全盛になっていたら、映画音楽は間違いなくジェネシスが担当しただろうと思えるサウンドである。またバンド構成的に言うと、新加入のスティーヴ・ハケットの存在は大きく、前任アンソニーの12弦ギターも継承しつつ、独特のギターサウンドを持ち込んだ。それは、トニー・バンクスのメロトロン音に双璧を為すエレキ音で、このようなキーボードとギターの並立は、イエスやフロイドとはまた違った全く新しい形であった。例えて言えば、イエスがオケ音を軸に壮大な音を追求していくのと違い、また、フロイドが、楽器を曲の構成に合わせて適所に用いるのとも違い、彼らは見事なアンサンブルを奏でている、そういう意味では音だけでなく、バンド構成の体質自体もクラシック音楽に軸足をおいているのがよくわかる。

とにかく、全5曲、どれもがとても完成度が高く、ある意味においてはプログレ四天王よりはポップであり分かりやすい音楽なのかもしれないが、大衆的であるかというと、やはりこの時代のジェネシスはイエス同様、どうもインテリを前面に出していると思われがちで残念ながら一般受けは難しく、そういう意味ではものすごく損をしていた時代だったのかもしれない。


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