音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

危機 (イエス 1972年)

2009-08-03 | ロック (プログレッシヴ)


危機(Close to the edge)は、イエスのアルバムの中でも、そしてプログレッシブロックのアルバムとしても最高である。以前にも書いたが私がこのイエスに出会い、そして可也すんなりと受け入れられる要素はやはりピアノを通じてクラシック音楽に精通していたからである。このアルバムに出会ったのは高校時代。勿論、以前に発売していたものであるが、イエスのアルバムとしては「リレイヤー」の次に聴いたアルバムであった。丁度、構成も「リレイヤー」と同じ、全3曲。アナログLPの時代でA面に1曲、B面に2曲という全く同じ構成であった。しかし、針を落とした(いい表現、いい響きだ!)瞬間、緊張感が漂う何かの効果音がクレッシェンドしてくる。アルパムタイトル曲の「危機」のはじまりである。そしていきなり入ってくるギターとベース音。よく聴くとギターのメロディの倍速でキーボードが同じフレーズを繰り返し、最後はベースもユニゾンで加わるって長いイントロが落ち着く。そして、まるで精度の高い楽器音のように入ってくるのがジョン・アンダーソンのヴォーカルである。イエスはこのジョン・アンダーソンとベースのクリス・スクワイアがオリジナルメンバーであるが、そのクリス・スクワイアのベースラインはロックというジャンルでは独特であるが、考えてみれば、彼の得意なラインはヴィオラとチェロの中間のようだ。そのリズム・セクションを支えあうのがビル・ブラッフォードで、彼のドラムテクニックは当時追随できるものは殆どいなかった。例えば、ちょっと見はカールパーマーなんかの方がド派手なのだが、イエスは特にステージにおいてはすべてがド派手且つ幻想的だから、ドラムだけが目立つのではない。また、この時代に彼のようなドラムプレーをするアーティストはロックにはいなかった。このアルバムでも彼の基本がジャズドラムにあることはきっきり分かるが、しかし、イエスという個性の集まりの中では見事に融合していて何の違和感も感じない。そして、ふたりのメロディプレーヤーがギターのスティーヴ・ハウとキーボードのリック・ウェイクマン。勿論、ふたりともベースにはクラシックがあるが、スティーヴはこのバンドの中にあっては珍しく「アコースティック好き」である。イエスがこれだけテクニシャン揃いで楽器も音も当時最先端を行っていたのに、スティーヴだけが執拗にアコースティックに拘っている点には逆にこのバンドが絶対にフロイドと同じ方向にはいかないという安心感があり、兎に角、音楽性で勝負をするという強い意識の表れを感じる。そして、リック・ウェイクマンは色々な意味でジョンと並び、このイエスのもうひとつの顔である。このふたりは常に両極端にいた。だが、それがはっきりしたのが、このアルバムだということももしかしたら名作ゆえの悲劇でもある。

B面の「同志」と「シベリアン・カートゥル」は、好みかの分かれる2曲だ。イエスに関してはアップテンポの曲が好きな私にとっては、当然この2曲では「シベリアン・カートゥル」が良いのだが、アップテンポの曲では、なんといっても「ラウンド・アバウト」がピカ一であるから、中々これを越える曲、これに近い完成度の高い曲は少ないが、シベリアン・カートゥルは同曲に勝るとも劣らない完成度の高い曲である。特に、イントロ部分のギターは素晴らしく、いきなりイントロで聴かせるギターの旋律としていえば、これまたロック音楽の領域でこのレベルにある演奏は皆無である。「危機」はこのように高いレベルの演奏技術に支えられていて、ひとつ間違うとそればかりがクローズアップされてしまうが、それば違う。たまたまロックという領域にはめ込まれてしまってはいるが、このバンドは、高品質という意味合いで言えば「クラシック」という音楽分類に入る内容である。それは、他のプログレパンドにも言えることであるが、特にイエスには、演奏技術に伴うかそれ以上のインテリジェンスがある。だから、イエスは何をやってもその時代・時代において、常に一番高いところに存在しているように感じられるのである。

このアルバムを最後にブラッフォードが脱退、更に次のスタジオ盤で前述したジョンとリックが最悪の関係になりリックがバンドから去る。1枚前の「こわれもの」も良いが、欲を言えば、私はこの同じメンバーでもう一枚、全部で3曲のアルバムを作って欲しかった。そして、それが適っていたら一体どんな音楽でどんなアルバムになっていただろうと想像することはとても困難なことで、実際イメージすらも浮かばない。そんな素晴らしいバンドの黄金時代の金字塔である。


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1 コメント

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久々に・・・ (Tiffa)
2009-08-06 00:41:54
イエスですね。
私もturtooneにイエスを強く推奨された一人ですから、ここに書かれていることはとても良く分かります。
シベリアン・カートゥルと同志では、私は同志が好きという違いくらいですね。

最近クラシックが多いですが(勿論、私もクラシックファンですよ。弦楽器出身ですし・・・)昔ながらのロックやジャズ評も書いてくださいね。
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