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講演会「グローバル経済における日本・中国の可能性」に行きました

2012-08-24 19:27:32 | 経営全般

8月23日、東京イイノホールで開催された講演会「グローバル経済における日本・中国の可能性」に行きました。

 内容は、基調講演が経済評論家高橋進氏「今知るべき日中経済の動静」と、パネルディスカッションの2部構成でした。どちらもたいへん勉強になりました。

 以下は、経済評論家高橋氏の講演のレジメです。

1 続く新興国シフト

(1)先進国の低迷は続く 

 先進国では、バブル崩壊を受け民間需要の低迷が続く一方、需要喚起に向けた政策余力は縮小。一部資源国を除けば、政策金利は0~1%に低下。公的債務が累増し、追加の景気過剰は困難な情勢。

(2)新興国は世界景気を下支え

 こうした状況下、新興国が世界経済の牽引役とし期待。もっとも、新興国は世界経済の下支えとなっても、牽引役になるには力不足。

 2000年以降の新興国の高成長は、欧米向け輸出の増加を起点とした投資が主導しており、成長に占める消費比率は大幅に低下。新興国の消費は順調に拡大しているとはいえ、先進国対比規模が小さいのが実情。

 ちなみに、新興国の名目GDPは米国・欧州先進国を凌駕しているものの、消費は欧米より小。世界第2位の経済規模を誇る中国の消費は、依然我が国の6割強の水準。

(3)鍵は新興国の消費拡大

 欧米経済の長期停滞が予想されるなか、中国を筆頭に新興国の消費が拡大し、世界的な不均衡が是正される(中国の過剰貯蓄の解消)までは、世界経済の下振れリスク、世界的な金融市場の混乱がくすぶり続ける見通し。

 

2 スローダウンした中国経済

(1)中国経済の現状

 中国経済は内需主導で拡大しているものの、2011年秋以降、2012年4~6月期の実質

GDP成長率は前年比7.69%と1~3月期の8.1%から一段と低下。

 減速の要因は以下の通り。

①欧州債務危機によるユーロ圏景気の減速を背景とした輸出の伸びの鈍化

②政府のバブル抑制策を受けた国内住宅市場の調整

③企業収益の悪化を受けた民間設備投資の増勢鈍化

 これに対して政府は、景気てこ入れや不動産抑制の緩和に着手し、これにより足元では景気持ち直しの兆し。

 

3 中国経済の展望

(1)展望

 当面は厳しい環境ながら、政府の景気てこ入れを受けて、年後半には持ち直しに転ずると予想。

①輸出:世界経済の先行き不透明感は強く、輸出の増勢を期待することは困難。一方で、輸入は内需拡大策を受けて緩やかな増加傾向を続ける見込み。

②固定資産投資:内陸部のインフラ建設を中心に公共投資の拡大を見込む。民間投資は利下げや企業収益の持ち直しを受けて、低下傾向に歯止めがかかる見込み。    

③個人消費:住宅市場の下落を受けて消費マインドが慎重化し、娯楽関連や自動車、家電販売が伸び悩み。もっとも住宅市場の調整は早晩一巡することや、雇用・所得環境は良好なことから、消費は拡大に転じる公算大。

④物価、不動産価格:消費者物価上昇率は2011年7月をピークに低下傾向成長率鈍化を受

けて一段と純化する見通し。住宅価格は2011年秋口から下落が全国的に広がったものの、足元でその動きは弱まりつつある。地方政府は不動産市場抑制の緩和施策を開始。

 

4 転換期の中国経済

(1)政府の想定より厳しい経済情勢

 政府は「消費・投資・輸出がバランスよく経済成長を支える構造へのシフト」を2011~

2015年の最重要課題に掲げ、消費の拡大を図ってきたものの、景気の減速が政府の想定より急ピッチであることから、消費主導経済への構造調整よりも景気テコ入れを重視せざるを得ない状況。

 当面は、公共投資の拡大、企業の投資プロジェクトの承認加速、一段の金融緩和などで

景気の失速回復を図る構え。

(2)曲がり角の中国経済

 中国経済は、高度成長から中成長への移行期に差しかかるところ。2桁成長から6~7%へ移行の時期については、見方が分かれるところ。

 長鈍化の第1の要因は、農村から都市部への人口移動の収束。国ではこれまで農村の余剰労働力が沿海部の大都市の商工業部門に吸収される過程で高度成長。余剰労働力の吸収が収束し始めることで成長も鈍化。沿海部の賃金上昇の加速は、余剰労働力減少の反映。今は内陸部の大都市に周辺の農村から時の井移動が活発化。

 第2の要因は、人口動態の変化。中国では生産年齢人口に占める割合がピークに達し、2020年以降は人口そのものもピークアウトし、人口ボーナスの効果が失われるだけでなく、今後は人口オーナスの影響も顕在化。

 中成長への移行期に、無理な成長維持政策を取ると、景気を過熱させ、バブルを引き起こす恐れ。現在の中国の不動産バブルもそうした文脈で、軟着陸を可能にする政策が必要。

 

 

5 中国経済の課題

(1)中進国の罠、中進国固有の課題

 先進国化する前に成長が鈍化する恐れ。労働と資本の投下は活発化して活発化している

が、イノベーションが伴わない成長はいずれ行き詰まるとの指摘も

 アジアの中進国に共通する課題-急速な少子高齢化の進行への対処(農村部の社会保障)、

高すぎる進学率など。

(2)高度成長に伴う歪み、成長制約要因の克服が課題

  外需主導から内需(消費)主導成長への移行。

  所得格差、地域格差の是正。

資源多消費型から省エネ、環境保全成長へ移行(原発依存、風力発電の利用拡大など)。

 労働集約型から技術集約型産業構造への移行。

(3)民主主義制度への円滑な移行

 共産党一党独裁の弊害、汚職、非効率・無駄を生む既得権の打破が大きな課題に

 ネット社会は、情報統制はさらに難しく、内政上のリスクを高める要因に

(4)覇権主義への批判

 世界の中国の需要へ依存の高まりは、中国の覇権主義・排他主義の高まり、消費の囲い

込み、国内世論のコントロールの難しさなどと相まって、国際的に様々な軋轢を生む要因

に。

 

6 日中経済関係の展望

(1)強まる中国経済の影響

 新興国経済が、内需に牽引されて高めの成長を続ける見通し。中国だけでなく、インド

ネシア、ベトナムなど、アジア地域の他の新興国も高度成長が期待可能。新興国経済がわ

が国経済を牽引する姿が一段と鮮明になり、アジア向け輸出依存度がさらに上昇する見込

み。

 中国経済の規模の拡大に伴い、日本経済は中国経済の変動から大きな影響を受けてきた

が、今後ますます影響は拡大。日本の政策立案にあたっても、これまで以上に中国の動

向を注視する必要。

 当面で中長期的にみると、中国の高成長は、日本の産業構造に大きな調整圧力をもたら

すと同時に、デフレ圧力をもたらしている可能性。

(2)まず日本自身の問題として

 製造業を中心に、製造拠点の海外シフトが加速するなか、国内の設備投資、雇用の増勢

加速期待薄。

 足許では、韓国や台湾などへ拠点シフトが生じており、産業空洞化がわが国の潜在成長

力を押し下げる恐れ。

 一方、日本では受け皿となるサービス業が十分に育っておらず、かつ、低い生産性の下、

景気の牽引役を担えず。

 今後の日本の成長戦略の基本的考え方は、六重苦と言われるような製造業の国際競争力

を阻害している要因を取り除くとともに、開国を進め、非製造業の生産性を高め、アジア

の活力を取り込む戦略。

 環境、エネルギー、医療、介護、食(農業)、保育、教育、観光などが特に有望分野。こ

うした分野を含め、ITを活用していかにして製品・サービスをシステム化し、生産性を向

上させていくかが課題。

(3)これからの分業形態

 中国から安直な輸入品の増加は日本の産業に調整圧力をもたらすものの、他方で、日本

はより品質の高い製品を供給すべく産業構造の高度化を進めることで、空洞化を回避。

 今後、日本が直面する当面の課題である、高齢化、電力・エネルギー問題、環境などへ

への対応を進め、新産業分野を創出することで、中国の課題解決にも貢献し、商機も生ま

れる。

 そのためには、日本のビジネスモデルの改革が必要。プロダクトアウト型の発送を脱し、

プラスαの付加価値(デザイン、マーケティング、プランディングなど)、あるいはシステ

ムアプローチによって、日本の弱点をカバーすべき。

(4)人民元問題

 中国経済の生産性向上、規模の拡大にもかかわらず、人民元がドルリンクを続けるとで

で、ドル安の進行ともに円高・人民元安をもたらし、日本にデフレ圧力をもたらす。

 日本の円高の経験を熟知している中国は、人民元の上昇には極めて慎重な姿勢。他方で、

海外からは経済の実力に見合う為替レートを設定、あるいは変動相場制への移行を求める

圧力が高まると予想される。

 しかし、中国国内で賃金上昇が継続することでインフレ率が加速すれば、為替レートを

固定しても、実質レートはやがて大幅に上昇。また、割安な為替レートを維持することは、

実質的には輸出企業に補助金を払う一方で、家計部門の実質購買力の改善を妨げることに。

したがって、中期的には、資本取引自由化、人民元改革が不可避に。