すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

八ヶ岳(赤岳)-続き

2021-07-25 17:21:16 | 山歩き

 21日、快晴。空は深い青。横岳と赤岳はまだ陰になっているが、阿弥陀岳はすでに明るく聳えている。3年前にはあれに登った。手がかりのない急な下りが怖かった。下りが怖いと思い始めたのはあの時からだろうか?
 6:15スタート。地蔵尾根を登る。急峻な尾根だが、何度も通っている。八ケ岳は若い頃から一番来ている山域だ。文三郎道を登る人が圧倒的に多いようだが、階段が延々と続くあっちよりは手を使って登るこっちが好きだ。でも、実はここを登るのは10年ぶりくらいだ。
 最初は緩やかな針葉樹林帯。だんだんきつくなる。左手にごろごろ石の重なった溝が急峻に落ちている。あれがいつか行者小屋あたりを襲うことはないのだろうか? 半分ぐらい上がったところで、西に展望が開ける。中央アルプスの向こうに14年に大爆発を起こした御嶽山が堂々と高い。
 森林限界を抜けると、むき出しの急峻な岩場の尾根。階段もあるが、クサリ場が多い。若い頃から、クサリには捉まらずに何とか両手両足で攀じ登るようにしている。その方が絶対楽しい。
 でも、ここって、こんなに厳しかったっけ? 攀じ、というよりは、殆んど四つん這いで這い登る感じだ。昔は鼻歌混じりだったのになあ。鎖に頼ることにしようか? いや、もうちょっと、頑張ってみよう…三百歩数えては息を継ぎ、を繰り返していると、小さなお地蔵さまが置かれていて、稜線の上の赤岳天望荘がすぐそこに見える。やった。足もとは切れ落ちた急斜面の下に、今朝出てきた行者小屋が小さい。
 地蔵の頭で稜線に出る。ここまで一時間半。すごくゆっくり登った気がするが、登山地図のコースタイム通りだ。「なかなかやるじゃん」、と思う。ここを下っていくグループがある。下山には近道で、ぼくも以前は良く下ったのだが、今はちょっと怖い。天望荘の向こうに赤岳が高い。「ここから山頂まではだらだらとジグザグを繰り返す、ゆるやかな登り」と記憶していたのだが、「えっ?こんなに急登だったっけ?」と、ここでも思う。山が急になったわけでは無論ない。ぼくの体力が落ちているからそう感じるだけだ。
 赤岳の左に富士山が遠く夢のように浮かんでいる。ここで、ヘルメットをかぶってお父さんとザイルをつないだ8歳の女の子に会った。昨夜は天望荘に泊まったのだと言う。すごい。感動ものだ。「星を見るのが好きで、山そのものにはあまり興味がないようですよ」とお父さんが笑いながら言う。天望荘は星空観察で人気の山小屋だ。ぼくもここで夜空を見上げたことがあるが、今ではその前に麓で一泊しなければ、東京を朝発ったのでは無理だ。
 多くの人は赤岳を越えてきて、ここから北に横岳の岩場に向かうのだが、ぼくは今日は赤岳だけだ。横岳とその北の硫黄岳は高山植物の豊富なところだが、赤岳はそれに比べると花が少ないように思う。高山植物のいわゆる「お花畑」もないし。「赤岳」の名のもとになった酸化鉄の地質のためだろうか?
 それでも、岩の道をあえぎながら登って行くと、花が気を取り直させてくれる。ミヤマダイコンソウが一番多いかな。イワベンケイ、ミヤマシオガマ、オヤマリンドウ、オヤマノエンドウ、ミヤマツメクサ、など。ぼくはとくに黄色な花が好きだ。
 山頂は絶景だがやや狭いので、文三郎道の方に一段下ったところでゆっくり休むことにする。立場川本谷の深く切れ込む沢を挟んで南南西に、左から権現岳、編笠山、西岳の山稜。その向こうに二重になって、摩利支天のコブの顕著な甲斐駒ヶ岳、右にカールのある仙丈岳、左にさらに高い北岳。みんな青春の山だ。権現からキレットを越えてここに登った時の友はその秋に病を得てすでにいない。
 文三郎を下る最上部の急峻なザレ場で、登ってきた若い三人組の女性に、「すごい体力ですね。感動してしまいます」と言われた。すれ違ってから、ニガ笑いした。いったい幾つに見えたのだろうな? 団塊の世代が山登りするから、ぼくの年齢は例外じゃないはずだ。よほどの年寄りが苦悶の表情で歩いているように見えたのだろうか? 文三郎道は延々と階段が続くから、ここまで登ってきた彼女たちも相当しんどかったのだろうな。またどこかですれ違おう。80になったら、誉めてもらってもいいよ。
 下りは、転倒が怖いから意地を張らずにクサリをつかむ。ヘルメットを持ってくればよかった。赤岳でメットを使うなんて思いもしなかった。
 赤岳鉱泉で美味しいコーヒーを飲み、来た道を下って美濃戸口でタクシーを待ちながらまたコーヒーを飲んだ。ほんとうは、コンロとエスプレッソ・メーカーを荷物に入れて自分でどこでもコーヒーが淹れられるだけの体力は取り戻したいのだが、はたしてその日はあるか?

(註:ぼくは本来怖がりでしかも大げさなので、無茶をしているように思うかもしれませんが、赤岳はごく一般的な山です。)

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