すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

寝られない…

2019-06-29 21:50:21 | 山歩き
 山小屋でスッと眠りにつける、というのは、心底うらやましい。そして、寝ている人たちがいくらかは憎たらしく妬ましい。そう思いながら一人溜息をついている自分が、情けない。
 一日ハードな運動をして体は疲れているに違いないので、ぐっすり寝られないのは合点がいかないのだが。
 甲武信小屋は20時に消灯で、宿泊客はぼくを含めて13人。12人は消灯時間の前にはすーすー眠っていて(寝付けないでもぞもぞ身動きをしたり、枕もとのヘッドランプを探したり、というのは一人もいなかった)、ぼくは電灯が消える前に睡眠導入剤を飲んだのだが、消えてもぼくひとりが「あーあ、今夜もか…」と思いながら溜息をついていた。何度も時間を見て、12時近くになったところで、薬の量を倍にして、やっと寝着いた。朝は4時ごろに外が明るくなったので目が覚めた。
 睡眠剤については、田中澄江が「花の百名山」の「金峰山」の項で書いている:
「…私は昨夜飲んだ睡眠薬のせいか、息も絶え絶えに一番殿(しんがり)をつとめ、汗を流すほどにようやく薬の気が抜けたらしくて元気になった」
 これを読んで、「ああ、ぼくだけじゃないんだ」と嬉しくなった覚えがある。
 そう、睡眠導入剤の量を増やしてしまうと、翌日体が重いのが寝不足のせいなのか薬の抜けていないせいなのかわからない、ということになる。

 山で寝付けないのは、次の日の行動に響くので辛い。若い頃はこんなじゃなかったと思うのだが、性格が変わって神経質になったのだろうか? それとも、「寝られるのも体力のうち」というから、歳をとって体力が落ちているのだろうか? なお、「寝られなくても目をつむっていればそれなりに体は休まる」と言う人がいるが、「それなり」がどの程度のことか、実証されなければ意味がない。
 もとから環境が変わると寝付けなくなる方で、家族で旅行などの時も、家で使っている枕を持って行ったことがある。あまり効果がないからやめた。
 一昨年、友人と常念小屋に泊まった時は、毎年恒例の常念小屋祭りというのにぶつかって、それはそれで楽しかったのだが、人はいっぱいいて、ほとんど寝られず、燕岳まで縦走する予定を変更してそのまま下山した。八ヶ岳の行者小屋は(ハイシーズンの週末などは知らないが)寝やすい小屋で、個室ではないが自分のスペースが壁で区切られているので、何度も行っているが、寝られなかったという記憶はない。同じく八ヶ岳の白駒荘は真新しい個室でよく寝られたが、2食付きで14000円もした。この春に泊まった雲取山荘は、ぼくともう一人の相部屋だったが、話をしやすい人だったし、こたつを挟んで向こうとこちらで、比較的気にならなかった。それでも、向こうの寝息を聞きながらぼくはやはり12時近くまで溜息をついていた。数年前に行った甲斐駒ヶ岳の仙水小屋でもほとんど寝られず、山頂に向かう友達と別れてぼくは先に北沢峠に下りて待っていた。
 こうしてみると、隣に人が寝ている、もしくは、大部屋に多数が寝ている、というのが駄目なようだ。
 隣に恋人が、というのは、あれは満ち足りて安心しているから寝られるのだろうか。妻が、というのは経験がないが、日本人の多くは、ある程度の期間が過ぎると、夫婦別々に寝るようになるのではないだろうか。それならばそれは、ひとりで寝る方が満ち足りて安心していられるから、ということではないだろうか?
 十代の頃、自分の部屋というのはなかったから、父親の隣に寝ていた。それが嫌で嫌で、二十歳の時に家を飛び出した(トラウマになっているかも)。
 この、山小屋での睡眠問題は何とかしなければならない大問題だ。ニュースでG20を報道しているが、ぼくにとってはこっちが大問題だ。世界の、あるいは日本の、ではなくて、ぼく個人の、ちっぽけな話で恥ずかしいが(ちっぽけな大問題って、変かな)、井上陽水が歌っているではないか:
 ♫テレビでは我が国の将来の問題を
 誰かが深刻な顔をしてしゃべってる
 だけども問題は今日の雨 傘がない

 眠れないという悩みの最も有効な解決法は、眠れないのを恐れないこと、だと解っているのだが、翌日の山歩きを考えると、悩ましい。(「横になっていれば体は休まる」というのも、眠れないことを恐れないために自分に言い聞かせるおまじないだ。おまじないで解決すれば苦労はない。)
 それでも山には行くし、山小屋で泊りもする。7月末に、常念と甲斐駒で撤退した時の友人と、北アルプスの燕岳から常念岳まで縦走する計画でいる。一昨年のリベンジでもある。また迷惑をかけてはいけないと思うと…ああ、悩ましい。

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