すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

北横岳

2018-10-18 14:08:28 | 山歩き
 白駒池周辺は苔むした原生林が美しい。観光客に人気のコースと別れて麦草峠に向かうとすぐ、岩とシャクナゲの別天地、白駒の奥庭。板道に霜が降りていて、昨日の転倒の二の舞はすまいと、足どりが慎重になる。樹林が切れると草原状に展望が開けて、名前も美しい麦草峠だ。「メルヘン街道」と名付けられた道の傍らに赤い屋根の「麦草ヒュッテ」があり、正面に茶臼山。何かほっとするところだ。麦草ヒュッテはいつも通過点だが、いちど泊まってみるのもいいかもしれない。
 ここから茶臼山、縞枯山を越えて雨山峠までは2時間半ばかり、毎度思うのだが、ゴロゴロした石の上を延々と歩かされる、足首をひねりそうな、ひどく急ではないがくたびれる嫌な道だ。途中、二か所の展望台からの絶景に気を取りなおす。
 ここはむしろ、積雪期にアイゼンを効かせて歩いた方がずっと快適だろう。雪山登山の初級コースなのだ。
 雨山峠で、レーズンのぎっしり入った黒パンに、塩分のあまり強くはないブルーチーズをたっぷりのせて齧り、コーヒーを飲む。山でのぼくのお気に入りの行動食だ(ワインがあればもっと良いのだが、酔うと足元が危うくなるので持ち歩かない)。
 岩場の海のような三ツ岳を通るつもりだったが、昨日の雨でまだ滑るかもしれないので、ロープウエイ駅に近い観光スポットの坪庭経由で北横岳に向かう。
 北横岳とはぼくはどうも相性が悪い。北八つにはもう10回ぐらいは来ているのだが、北横岳には、ロープウエイ駅から登り1時間の近距離であるにもかかわらず、若い頃、赤岳から蓼科山まで八ヶ岳のほぼ全山縦走をしたときに一度通過しただけだ。
 その時は、前日泊った夏沢峠の小屋の主人に酒に誘われて(客はぼく一人だったのだ)、「今年はもう小屋を閉めるから一本持って行け」と一升瓶をいただいてザックに入れて、蓼科山を越えて16時間半の道のりを12時間半で歩いたのだ。ぼくの一番強かった時だ。今から考えると夢のようだ。
 それ以降はいつも、天気が悪かったり体調が悪かったりして行っていない。一昨年は友人と二人、縞枯山で降られて断念した。その前年は一人で来たが体がひどくだるくて断念した。今回は大丈夫だ。
 40分ほど登ると三ツ岳からの道と合流し、なだらかになった道をたどって北横岳ヒュッテの前に荷物を置き、そこからは10分ちょっとで山頂だ。
 展望絶景だった。近くの赤岳や硫黄岳や天狗岳はもちろん、北岳に甲斐駒に仙丈ケ岳、木曽駒ケ岳、巨大な御嶽山、乗鞍岳、北アルプスも大キレットを挟んで右に槍ヶ岳、左に北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳。もう仙丈も木曽駒も赤岳も、山頂付近はどれも白い。山の冬が来たのだ。
 展望を楽しんだ後、足取りも軽く下山した。これだけ大展望と好天に恵まれたからには、相性の悪さも今生の行いの悪さの報いも解消だ。
 ロープウエイから見る山腹は、広大な斜面のシラビソの黄葉が陽を受けて輝いていた。

 ・・・帰宅してからいつもの通り漫然とガイドブックを見ていて、愕然とした。北横岳は、なんせ40年前にいちど行ったきりなのですっかり忘れていたのだが、ぼくの登ったのは南峰だったのだ。北峰はそれより8m高く、そこからは浅間や火打など別の山々が見える! 北八つはよく知っているつもりで地図を見なかったし、あまりの展望に気を取られて北に寄ってみなかったので気が付かなかったのだ。
 北横岳はやはり相性が悪い。そして今生の行いの報いも?(10月16日)
コメント
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