すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

「蜜蜂と遠雷」

2017-07-07 22:23:53 | 読書の楽しみ
 「ピエタ」は、たまたま手にした。
 友人にヘルマン・ヘッセの「シッダールタ」の新訳を送ろうと思って新宿の紀伊国屋の草思社文庫の棚に行ったら、並びにポプラ社文庫の棚があって、「ポプラ社文庫なんてあるんだ」と思ってチェックして、この題名にひかれて手にしたらヴィヴァルディの名前があった
 「ピエタ」は、本来、十字架から降ろされたイエスの死体を抱いて嘆き悲しむマリアを題材にした美術作品の名だが、ヴィヴァルディが務めていた音楽院のある孤児養育院の名前でもあることはかすかに覚えていた。(ポプラ社は児童文学として著名な出版社なのでこの作品ももともとジュブナイルとして読みやすく書かれているのかもしれない。)
 音楽を題材にした小説は、あまり多くは知らないが、見つけたら読むことにしている。この春に直木賞と本屋大賞をダブル受賞してベストセラーになった「蜜蜂と遠雷」も、話題になる前、去年の11月にたまたま書店の店頭で見つけて、お金のない僕は原則として単行本は買わないのだが、これはすぐ買って読んで、すぐに再読した。
 非常に魅力的で、読み始めた者をとらえて離さない、一気に読ませてしまう作品です。音楽はド素人のぼくにもわかりやすいし、主要登場人物4人のうちの、特に大天才ではない方の二人の、挫折や迷いや、それを一歩ずつ乗り越えてゆく心の描写には深く共感できる。何よりも、「よくもこれだけの量の音楽をこれだけ深く聴きこんだものだ」、と思う。

 二つだけ、ちょっと引っかかることがある。
 ひとつめは、「家にピアノを持たない、移動生活をしている少年にこれだけのピアノが弾けるものかどうか」ということ。大天才だとしても、世の中には一度聞いただけで全曲を弾きこなしてしまうような天才が実際にいるのだということは承知していても、それでも、そのような天才だとて、毎日毎日血の出るような練習を重ねて初めて、その才能を表現として開花させることができるのではないだろうか。
 毎日(血は出ないが)練習をしてなかなか進歩しない、その上練習すること自体になかなか困難(体力とか時間とか)を感じているぼくは、そのような平凡な疑問を持ってしまう。
 ふたつ目は、マサルが三次予選で弾くリストのピアノソナタ。この曲のところだけ、ほかでは全くそういうことはないのに、作者は長い長い古風な(時代遅れの)物語をつづってみせる。残念ながらぼくにはその物語が曲と重ならなかった。聴きなおしてみたが、その物語は無い方がいい、と思った。
 それでも、そろそろ三度目を読みたい。
コメント
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