goo blog サービス終了のお知らせ 

星・宙・標石・之波太(しばた)

星、宇宙、標石、之波太(しばた:柴田)をこよなく愛するサイト。

雨にうたえば 髙橋順子

2019-07-03 23:34:39 | その他
朝日新聞7月2日 リレーおぴにおん「雨にうたえば」第5回に詩人 髙橋順子さんが
登場した。



髙橋順子 詩人 1944年生まれ。出版社勤務を経て詩人に。著書に詩集「時の雨」
「お遍路」や、「夫・車谷長吉」「連句のたのしみ」など。
初めて髙橋順子さんの写真を拝見した。

季節で 降り方で 多彩な名

 422に及ぶ日本語の雨の表現を取り上げ、写真家の佐藤秀明さんの作品とともに
配した「雨の名前」という本を出しました。出版してからもう20年近く経つのに、
今でも毎年少しずつ売れ続け、5万部を超えています。
 収録語は「日本国語大辞典」や「日本大百科全書」で調べたほか、歳時記や方言
辞典、気象用語事典などで拾いました。春夏秋冬の季節ごとに、また朝昼夜の時間別に、
あるいは雨の強弱や降り方ごとに微妙に異なる表現が日本語には数多くあって、驚き
ました。また、佐賀や宮崎には細かな雨を猫のやわらかな毛にたとえた「猫毛雨
(ねこんけあめ)」という言い方があるなど、地域独特の雨表現にも数多く出合いました。
 「空梅雨」「走り梅雨」「荒梅雨」など梅雨を表す言葉の中では、木々の若葉をなお
色濃くして降る雨をいう「青梅雨」が好きですね。永井龍男が書いた同名の短編小説が
あります。雨の夜に借金苦で毒をのみ、一家心中する家族を淡々と描いた作品で、私に
薦めたのは夫の車谷(くるまたに)(長吉〈ちょうきつ〉、直木賞作家、2015年に
死去)でした。
 車谷は雨をいやがらず、雨降りの日も必ず散歩に出かけました。また雨の夜には、
家の前の草むらからガマガエルが5匹現れるのを楽しみにしていました。「飾磨丸
(しかままる)」「園女(そのめ)」などと命名し、家にあげて遊ぶのです。一度私が
帰宅したら、玄関の上がり框(かまち)でガマガエルがこっちを向いて座っていたこと
があります。まるで、三つ指をついて出迎えてくれているようでした。雨の楽しい思い出です。
 ある学者がアフリカのサバンナでは緑が50通り、北極圏では雪の色が30通りにも
識別されていて、それは「(そこに住む人々が)自然に命を預けているからだ」と語って
いました。日本語に雨の言葉が多いのもそんな面があるのでしょう。雨を生活の糧とした
農耕民族ですし、時折起こる干ばつや大雨災害は、私たちが「雨に命を預けた」存在で
あることを思い出させます。
 その意味で、お天気キャスターが「明日は雨です」と憂鬱(ゆううつ)そうな表情で
告げるのは、都会の会社員の「雨だと通勤がイヤだ」という卑近な感覚だけを代弁して
いるようで、少し寂しいですね。(聞き手・中島鉄郎)

雨の名前 422に及ぶ日本語の雨の表現が取り上げられています。



2001年6月20日 初版発行
発行所:小学館