ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

鈴木寛副大臣からの宿題の続きの続き

2010年05月25日 | 日記
さて、財務・経営センターの存在意義を、可能なことについては数字で表すという鈴木寛副大臣からの宿題の続きの続きです。

今日は、経営相談・助言・情報提供といった経営支援機能について考えてみましょう。仕分けでは、各大学からのローテーション人事で、経営相談に応じられるプロがいないということが指摘されました。研修会や勉強会などを開催してきましたが、それは外部の人材を頼んで講師をやってもらっており、センターの職員が指導しているわけではないと。

このご指摘については認めざるを得ず、仕分けの現場でも私は反論しませんでした。ただし、有能な講師を外部から集められるのは、ネットワーク力というべきものであり、これもパワーの一つなんですけどね。

しかし、私が新理事長になって、理事長の考えで人事ができるのであれば、このようなことは容易に解決できることです。財務・経営センターに、大学と附属病院の経営や分析に長けた現場経験のある有能な人材と、民間から経営や金融の指導能力のある人材を集めれば、すばらしい経営支援チームができると思います。ここだけしか利用できない、大学病院の経営情報の入った貴重なデータベースも活用できますしね。

また、経営相談を行うにも、データを収集して、それを分析・研究する機能はどうしても必要です。ですから、仕分けでなされたように、相談業務だけを切り離して、その不必要性を論じるのは不適切であり、そもそも分析・研究と経営相談は一体のものとして論じる必要があります。

さらに、そのような分析結果や経営のノウハウを情報提供するという機能も必要不可欠ですね。各大学や附属病院が貴重な経営に関する情報を共有するということは、経営を改善するために非常に大切です。仕分けでは、情報提供事業だけが切り分けられて、その不必要性が論じられましたが、ずいぶんと乱暴な議論だと思います。

それでは、有能な経営支援チームによる経営支援により、どの程度の効果が期待されるのでしょうか?数値でお示ししようとすれば、前回と同じように大胆な仮説が入ります。

たとえば、財務・経営センターの紀要(大学財務経営研究、第2号99-108頁、2005年)に掲載された、私の論文の成果を例にとりましょう。これは平成9年~10年の2年間、私が産婦人科の教授であった頃、三重大学附属病院において“かいぜん”活動を展開し、約年110億円の医業収入の病院で、限界利益(医業収入から変動費を引いた残り)の約6億円増、うち医療材料費の節減を2億円生み出したというものです。

もし仮に“かいぜん”活動の効果を、医療材料費の2年間2億円の節減分と見なして、全大学病院で実行できたと仮定すれば、単純計算で2億円×42=84億円の経費節減に結びつく可能性があります。財務・経営センターの相談事業以外のすべての事業も含めた総経費は年4億5千万円でしたので、十分に元が取れる金額です。

ただし、これには、“すべての大学病院で実行出来たら”という仮定が入っていますし、また、12年前の取り組みなので、現時点でも有効かどうかわからない面があります。つまり、法人化後各大学病院は経営改善に取り組んでいますので、これと類似の努力をすでにやっている病院もあり、また、経費の節減効果はあるところで限界に近づきます。

したがって、今回お示しした数字は、単なる一つの参考であり、一人歩きすることは絶対に避けたいと思います。

実は、このような数字を出して私が最も危惧することは、たとえば財務省が単純な発想によって、大学病院への予算を84億円余分に削減すると言い出すことです。これは十分にあり得ることであると思っています。

現場の経営努力によって生み出したお金についても国が没収するというシステムでは、現場は経営改善する意欲を失ってしまいますね。これではいつまでたっても、仕分け人の方々がおっしゃっていた自立的な経営は不可能です。現行の国立大学の法人化の制度では、大きな制約はあるものの、経営努力が認められた部分については現場で使えるシステムになっています。

また、平成16年に約1兆円という借金を承継して夕張状態で法人化を強いられ、さらに附属病院交付金が毎年削減され、6年後には約400億円の削減(6年間の累積では約1200億円の削減)となった国立大学病院は、医学論文数が減少するなど、本来の教育・研究・高度医療・地域医療の支援機能が損なわれ、また、医療従事者の給与や長時間労働など解決するべき問題を多々抱えています。現場が経営努力で生み出した金額は、没収するのではなく、このような傷の手当に使われるべきであると考えます。

その結果として、大学病院の健全な経営の自立化に貢献できれば、絶対につぶすことのできない“地域医療の最後の砦”である大学病院に対する将来の余分の公費の投入を押さえることができると考えます。

この続きは次のブログで書きます。
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