前回のブログに対しては、彦朗さんからさっそくコメントをいただきました。たいへんありがとうございます。
「エビデンスエビデンスとおっしゃいますが、論文数が日本国民の厚生、たとえばGDPなりなんなりに貢献しているというエビデンスがいまだ提示されていないように思います。」
彦朗さんからのこのコメントは、まさに、ポイントをついたもので、前回お話ししたライターさんからの原稿への書き込みとまったく同じですね。この財政難の折、やはり論文数がGDPなりなんなりに貢献しているというエビデンスを示さないことには、国民の皆さんから、研究投資へのご理解を得るのは難しいと思います。
それで「科学立国の危機ー失速する日本の研究力」の第1章は、「学術論文数は経済成長の原動力」というタイトルにし、論文数とGDPあるいは労働生産性との相関分析の説明に当てています。この章では、先行研究で論文数などのイノベーション指標とGDPとの関係性を因子分析で分析した論文と、時系列分析で因果関係を分析した論文を参考にして、OECDの公開データを用いて、論文数とGDPの関係性を、時系列に配慮した相関分析と、因子分析および共分散構造分析の結果をお示ししています。もちろん、今回の分析が妥当なものかどうかということについては、他の研究者による検証が必要ですが、論文数(≒大学の研究教育力)がGDPの成長に貢献することを示唆するエビデンスと、それに基づく正循環仮説を、一応自分なりに提示させていただきました。(他の専門家により否定される可能性は否定できませんが・・・)
また、本書では、日本の研究者も英国の研究者と同様に、自分たちのやっている研究が中長期的に、そして直接間接的にGDPにどの程度貢献しているか示す必要があると記しました。英国の学会からは、数学の研究がGDPに貢献するという報告がなされています。これによると数学研究が2010年の英国(UK)の付加価値(GDP)に与えた影響は、2080億ポンド(1ポンド147円として計算して約30兆6000億円)になり、英国全体の付加価値の16%にあたるという計算です。(Deloitte, “Measuring the Economic Benefits of Mathematical Science Research in the UK.,” Final Report, November 2012.(http://www.maths.dundee.ac.uk/info/EPSRC-Mathematics.pdf)
そして、僕は公的研究投資を増やす際の目標は、GDP増の結果もたらされる税収増によって投資額を回収することである、と書きました。
前回のブログで、本書ではかなり思い切った主張をさくさんした旨を書きましたが、このようなGDPとの関係性についての主張がその一つです。ぜひとも英国の学術界を見習うべきであると思います。
気になる点と致しましては、
・『論文数(≒大学の研究教育力)』といってよいのか?
論文が多くても学生を労働力として使い捨てにしているような場合は教育力が高いとはいえないですよね。
・GDPとの相関
GDPが上がれば論文数が増える、という経路なら容易に想像ができますが、それならまず増やすべきはGDPということになります。
・OECDのデータ
日本のここ数十年のデータを解析しなければ意味が無いと思われます。そのデータで論文を増やせばGDPが上がる相関があるなら、論文を増やすべきといえますし、相関がないなら、まずなぜないのかを考えずに盲目的に増やしてもダメということになります。