ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、前国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

ブログで草稿を公開することの効用(国大協報告書草案16)

2014年06月26日 | 高等教育

 前回のブログに対してUnknownさんから鋭いご指摘をいただきました。

「GDPと相関を示すのはプロセスイノベーションで、新規プロダクトイノベーションではないのですね。そして論文や公的研究開発投資と相関するのは新規プロダクトイノベーションなのだから、結局基礎研究はGDPとはあまり関係ないのでは?」

 Unknownさんからのご指摘には2つの重要なポイントが含まれていると思います。1つは、「GDPと新規プロダクト・イノベーションが相関しないのか、するのか?」という点、2つ目は「基礎研究がGDPと関係があるのかないのか?」という点です。二つとも、たいへん重要なポイントだと思います。

 1つ目のポイントについては、さっそくOECDのデータをひっくり返して、再度分析をすることにしました。その結果が今回の国大協草案(16)です。分かったことの一つは、前回のブログのデータで外れ値的な値を示していたイギリスを除くことによって、新規プロダクト・イノベーションの相関係数が改善するということです。また、イギリスを外れ値として除くことに妥当な理由があるかどうかという点についてGDPの推移を調べたところ、イノベーション以外の要因が大きくGDPに影響していることが伺われ、除くことが妥当と判断しました。そして、イノベーション実現割合と生産部門別の付加価値増加率との相関を調べたところ、新規イノベーション実現割合と有意の相関をする生産部門がいくつか存在することがわかりました。本来は、生産部門別のイノベーション実現割合と生産部門別の付加価値増加率を比較するべきなのですが、全体のイノベーション実現割合との相関であっても、ある程度のことは言えるのではないかと考えています。1つ目の問題点についての今回の検討結果をまとめると、「新規イノベーション実現割合はいくつかの生産部門の付加価値増加率と相関し、その結果GDPの増加(経済成長)に寄与していることが示唆される」ということになります。

 Unknownさんの2つ目のご指摘である「基礎研究がGDPと関係があるのかないのか?」という点については、今回は検討できておらず、何ともいえません。仮に、基礎研究と応用研究に分けて論文数をカウントしたデータが入手できれば、今までの僕のデータにほり込めば、何らかの答えが出るかもしれません。学問分野別の論文数のデータは簡単に手に入るので、各学問分野別にGDPとの相関を検討するのは可能です。次に、一度やってみようかなと思います。

 ただ、基礎研究と応用研究を区別した論文数となると、ちょっと難しいかもしれませんね。そのようなデータを入手できるかどうかという問題と、どこまでが基礎研究で、どこからが応用研究なのかという線引きが難しい面もあると思います。ノーベル賞を受賞したiPS細胞の研究にしても、基礎研究なのか応用研究なのか、判断が分かれるかもしれませんしね。要素技術、つまり、様々なイノベーションに応用ができる根幹的技術を開発できれば、経済成長にも大きく貢献できる可能性があるわけですが、これは、果たして基礎研究になるのか応用研究になるのか、僕にはよくわかりません。でも、例えば、天文学で新しい星を見つけたという論文は基礎研究でしょうね。そして、そのような論文がたくさんあっても、その論文数と短期GDPとが直接相関するとはさすがに思えません(ずっと先、たとえば50~100年後のGDPには関係している可能性は否定できませんが・・・)。ただ、基礎研究論文数が多い大学や国では、応用研究に携わる研究従事者も多く、企業への技術移転や共同研究・産学連携がさかんに行われているならば、間接的に基礎研究論文数とGDPが相関することもあり得ます。

 いずれにせよ、Unknownさんからコメントをいただいたおかげで、国大協報告書に追加修正ができたわけなので、たいへん感謝するとともに、これは、草稿をブログ上で公開していることの効用だと思います。他の皆さんからもご意見やご指摘がいただけるとありがたいです。

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3)イノベーション実現率と生産部門別付加価値増加率との相関分析

 次に、イノベーション実現割合と経済成長率の生産部門別の細目(生産部門別付加価値増加率)との相関を検討した。データは上記と同様、OECD.StatExtractsから入手した。GDP(付加価値)は購買力平価換算名目値(US$)を用いた。

 ただし、ニュージーランドについては、2011年、2012年のデータが欠損しており、今回の分析では除外した。また、イギリスについては、前項の図75におけるプロダクト・イノベーション実現割合とGDP増加率の相関の散布図において外れ値的な値となること、および次に示す理由より除外し、オーストラリア、オーストリア、オランダ、スイス、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、日本、ノルウェー、フィンランド、フランス、ベルギーの12か国で分析することにした。

 OECD.StatExtractsにおける各生産部門の内訳は以下のとおりであり、本報告における日本語表記を( )に示した。

・Gross domestic product (output approach)(GDP生産面)

・Agriculture, forestry and fishing(農林水産)

・Industry, including energy(鉱工エネルギー)

・of which: Manufacturing(うち製造)

・Construction(建設)

・Distributive trade, repairs; transport; accommod., food serv(流交通修理宿泊食サービス)

・Information and communication(情報通信)

・Financial and insurance activities(金融保険)

・Real estate activities(不動産)

・Prof., scientific, techn.; admin., support serv. Activities(専門技術経営支援サービス)

・Public admin.; compulsory s.s.; education; human health(行政社会保障教育健康)

・Other service activities(その他)

 なお、OECDのInnovation in Firmsでは、農林水産業は調査対象に含まれていないことに留意する必要がある。また、本来は、各生産部門別にイノベーション実現割合と付加価値増加率を突き合わせて分析するべきであるが、今回は、農林水産業を除く企業全体のイノベーション実現率と、生産部門ごとの付加価値増加率の相関を検討しており、結果の解釈には注意が必要である。

 

 

 図77に一人当たりGDPの推移を示す。

 2009年にリーマンショックによると考えられる落ち込みが多くの国で見られる。日本の一人当たりGDPは12か国の中では最下位である。

 図78に2005年を基点とする一人当たりGDPの推移を示した。

 先ほどのデータと同様に多くの国で2009年に落ち込みが見られる。ただし、イギリスだけは、2009年の急激な下降以後、2012年までGDPが低迷したままであり、他の諸国のような回復が観察されない。

 図79に金融部門の付加価値の推移を示したが、イギリスは2009年をピークに急激な低下を示しており、他の諸国とは大きく異なる動きを示している。

 リーマンショックがイギリス経済に与えた影響の大きさの程が伺われ、前項のプロダクト・イノベーション実現割合とGDP増加率の散布図で外れ値をとる要因になっていると考えられる。

 図80に、2005年の各国における各生産部門別の一人当たり付加価値のプロフィールを示した。

 日本は鉱工業(エネルギーを含む)や製造業では、上位に位置している。専門技術経営支援サービス部門では、日本は欠損値となっている。「その他」の部門では、日本の値が突出して大きく、おそらく、「専門技術経営支援サービス」の値が、「その他」の部門に振り替えられているものと推測する。

 日本の大きな特徴は、行政社会保障教育健康部門の付加価値が、OECD諸国に比較して極端に低いことである。日本の一人当たりGDPが先進国の中で低い理由は、この部門の付加価値の低いことが大きな要因の一つであると考えられる。

 図81は2012年のプロフィールであるが、鉱工業(エネルギーを含む)や製造業における日本の優位性は失われている。日本の行政社会保障教育健康部門の付加価値は2005年に比較すると多少大きくなっているが、他諸国との差はさらに大きくなっている。

 

 表31~34に、イノベーション実現割合と生産部門別付加価値増加率との相関分析の結果を示した。同時に、政府から公的(政府)機関と大学への研究開発資金(2003年)、および論文数(2002-2004平均値)との相関も示した。各相関係数の0.58が危険率5%、0.50が危険率10%の水準となっている。

 

 今回の12か国を対象とする分析では、プロダクト・イノベーション実現率と経年後のGDP増加率との間には、前項表30(対象国14)と同様に、統計学的に有意の正相関が認められた。ただ、イギリスを除外したことで、相関係数は高くなった。

 一方、プロセス・イノベーションとGDPの相関係数は低くなり、統計学的には有意性が失われた。

 新規プロダクト・イノベーションとGDPとの相関係数は、プロセス・イノベーションとGDPの相関係数よりも高くなったものの、統計学的に有意となるまでには至らなかった。

 このような、少数の対象国の入れ替わりで、相関係数の統計学的な有意性が変わることは、本研究のような、数の限られた国家を対象とする社会科学的分析の困難さを示すものと思われる。

 

 プロダクト・イノベーション実現割合と付加価値増加率が良く相関(危険率5%以下)をする生産部門は、鉱工業(エネルギーを含む)、製造業、流通交通修理宿泊食サービス業、情報通信業、その他の部門であった。農林水産業、不動産業とも相関(危険率10%以下)すると考えられる。

 プロセス・イノベーション実現割合は、製造業、流通交通修理宿泊食サービス業との相関係数が比較的高い(統計学的には有意でない)。

 新規プロダクト・イノベーション実現割合は、農林水産業(危険率5%以下)、流通交通修理宿泊食サービス業(危険率10%以下)、情報通信業(危険率10%以下)、行政社会保障教育健康(統計学的には有意差なし)、その他の部門(危険率5%以下)との相関係数が比較的高い。なお、先にも述べたように、イノベーション実現割合の調査では農林水産業が含まれていない。

 

 政府から大学への研究開発資金および論文数は、GDP増加率と有意の正相関をするが、相関係数は期間が短い方が高く、イノベーション実現割合が数年経過した後のGDP増加率との相関係数が高いことと、やや異なる挙動を示した。

 

 政府から大学への研究開発資金と論文数が比較的良く相関する付加価値増加率の生産部門は、農林水産業、流通交通修理宿泊食サービス業、行政社会保障教育健康、その他の部門であり、新規プロダクト・イノベーション実現割合と相関する生産部門と共通しているものが多い。

 

 政府から公的(政府)機関への研究開発資金と各生産部門の付加価値増加率との相関については正の相関をする部門はなかった。比較的強い負の相関をした部門は流通交通修理宿泊食サービス業であった(危険率5%以下)。

 

<含意>

 今回のイノベーション実現率と生産部門別の付加価値増加率の分析では、イギリスがリーマンショックに起因すると思われる外れ値をとることから除外して分析をしたが、イギリスを含めた場合でも、プロセス・イノベーションと新規プロダクト・イノベーションの相関係数の有意性は変化するものの、概ね同様の傾向は読み取れる。

 少数の国を入れ替えることで有意性が変化する現象は、数が限られ、また、複雑な因子が影響を及ぼす国家間の分析の困難さと限界を示すものと思われるが、他の分析等も合わせて考えると、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、新規プロダクト・イノベーションの3つ共に、GDP増加率(経済成長)にプラスの影響を与える因子として考えることができると思われる。

 各生産部門別の国民一人当たりGDPのプロフィールでは、2005年の時点では日本は鉱工業、製造業で高い順位にあったが、2012年ではこの分野で成長していない日本をいくつかの国が追い抜き、その優位性が失われた。

 日本の大きな特徴の一つは、行政社会保障教育健康部門の付加価値が低いことであり、2012年にかけて、多少増加しているものの、他諸国との差は広がり、日本の一人当たりGDPの国際順位低下の要因の一つになっていると思われる。これは、日本政府が小さな政府を目指してそれを実現し、公務員の数の最も少ない先進国となり、教育費の公財政支出をOECD諸国の平均の2分の1という水準にとどめ、高齢化率の高い国家としては社会保障費・医療費の伸びを最小限に抑えてきた賜物かもしれない。しかしながら、果たして、その結果国民が豊かになったのかどうか、疑問を感じさせるプロフィールでもある。


 今回は、農林水産業を除く企業全体のイノベーション実現割合と、生産部門ごとの付加価値増加率の相関を検討しており、結果の解釈には注意が必要である。しかし、およその傾向を推測することができるのではないかと考えている。

 3つのイノベーション実現割合と各生産部門別の付加価値増加率とは、それぞれ微妙に相関の程度が異なっている。イノベーションは、どの生産部門においても、付加価値を増加させる重要な因子であると考えられるが、イノベーション実現割合の低かった生産部門や、イノベーション実現割合以外の要因が相対的に大きく付加価値に影響する生産部門においては、企業全体のイノベーション実現割合との相関係数は低くなるものと考えられる。

 金融保険部門はイノベーション実現割合との相関が低い。これらの産業では、イノベーションよりも、それ以外の要因の方が付加価値増加率に大きく影響するものと容易に想像され、この結果は一般的な認識に合致する結果であると思われる。また、建設業や不動産業も、どちらかといえば相対的にイノベーション以外の要因に左右されやすい業種であると想像される。

 鉱工業(エネルギーを含む)においては、プロダクト・イノベーション実現割合との相関は認められたが、新規イノベーション実現割合との相関は認められなかった。一般的には、これらの部門の付加価値においても新規プロダクト・イノベーションは重要な因子であると思われるが、鉱業などの新規プロダクト・イノベーションの困難な業種が含まれていることが一因ではないかと想像される。鉱業などを除いた「製造業」では、プロダクト・イノベーション実現割合との相関はより高くなり、プロセス・イノベーションや新規プロダクト・イノベーション実現率との相関も、統計学的に有意ではないが高くなる傾向にある。「製造業」で新規イノベーション実現割合の寄与が小さかったことが、これらの分析対象国の調査期間において、そもそも「製造業」の新規イノベーション実現割合が小さかったことによるのか、あるいは、実現割合が高かったにも関わらず付加価値増に結びつきにくかったのか、今回の分析では不明である。

 新規プロダクト・イノベーションと相関の高い生産部門は、概ね、政府から大学への研究開発資金および論文数との相関も高く、これは、前項において、政府から大学への研究開発資金および論文数と新規プロダクト・イノベーション実現割合との間に相関が認められた結果と整合的な結果である。

 新規イノベーション実現割合と比較的相関が強い生産部門としては、農林水産業、交通流通修理食サービス業、情報通信業、行政社会保障教育健康部門(有意ではない)、その他の部門であるが、これらの部門では、最近の成長著しい業種が含まれており、新規プロダクト・イノベーションの付加価値増加への寄与が大きいのではないかと推察される。また、大学の産学官民連携や大学発ベンチャーの産業分野を考えると、重工業というよりもバイオ、ICTなどの比較的軽い産業部門の比重が高いことも、これと整合的であるかもしれない。

 このうち、農林水産業については、今回用いたイノベーション実現割合の調査対象となっていない部門であるが、新規プロダクト・イノベーション実現割合と良く相関した。一つの考え方としては、農林水産業以外の産業における新規プロダクト・イノベーション実現割合の高い国では、農林水産業においても新規プロダクト・イノベーション実現割合が高いという可能性である。そして、それに介在しているのが大学であると考えれば、一つの説明となるのではないだろうか。

 専門技術経営支援サービス部門と各イノベーション実現割合との間には相関が認められないが、大学への研究開発資金や論文数との相関係数がやや高いことは(統計学的に有意ではない)、大学の役割を考える上で興味深い。


 政府から公的(政府)機関への研究開発資金と各生産部門の付加価値増加率と正の相関をする部門はなかった。強い負の相関をする部門としては流通交通修理宿泊食サービス業がある。この部門と、政府から大学への研究資金や論文数との正の相関は強く、限られた政府予算の中で、大学への研究開発資金と公的(政府)機関への研究開発資金がシーソーゲームのような相反的関係にあるとするならば、大学の機能と強く相関する部門ほど、公的(政府)機関への研究開発資金とより強く負の相関をすることも理解できるかもしれない。

 

 大学の機能を反映する指標(政府から大学への研究開発資金、論文数)は、概ね新規プロダクト・イノベーション実現割合と付加価値増加率が相関する生産部門と相関するが、微妙な違いもあるように思われる。その一つは、大学の機能を反映する指標の方が、やや早い時期のGDP増加率(付加価値増加率)と相関しやすいことである。今回のデータだけでは断定はできないが、これは、GDP上昇⇒大学への投資増加⇒大学の機能向上⇒イノベーション実現割合向上⇒付加価値増、という時間的な関係性を反映しているのかもしれない。


 以上、各生産部門によって、イノベーション実現割合と付加価値増加率との相関の程度には差があり、また、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、新規プロダクト・イノベーションの寄与の程度にも差があることが示唆された。つまり、大学の機能が経済成長(付加価値増)に寄与するとしても、その寄与の大きい生産部門と、大きくない生産部門が存在していると考えられる。

 

 今回の分析結果を踏まえて、前項で示したパス仮説に付記・修正をするとすれば、

 GDP増 ⇒ 政府から大学への研究開発投資増 ⇒ 大学の研究開発機能向上(FTE研究従事者数、論文数) ⇒ 生産部門(特に中小規模企業)の新規プロダクト・イノベーション実現割合向上 ⇒ 中長期付加価値増加率向上(特に新規プロダクト・イノベーション寄与の大きい生産部門) ⇒ GDP増

 という好循環のスパイラル図が描ける。

 また、「行政社会保障教育健康」部門のGDPがOECD諸国に比して突出して低いことを合わせて考えれば、現在政府が進めようとしているライフ・イノベーションの推進や規制緩和政策に加えて、高等教育部門への研究開発投資を、その総額を削減して「選択と集中」的配分をするのではなく、研究開発投資総額それ自体を増やす必要性が示唆される。

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 さて、今から鈴鹿医療科学大学のすぐ隣にある鈴鹿高専の「イノベーション交流プラザ」のオープニングセレモニーに顔を出してきます。高専も頑張ってるよ。

コメント

論文数とイノベーションの驚くべき、しかし納得のいく関係!!(国大協報告書草案15)

2014年06月14日 | 高等教育

 前回、プチブレイクした論文数のブログをアップしてから早や2週間が経ってしまいました。この間、パス図(仮説)の未完成の部分、つまり、論文数から⇒が出ているイノベーションとの関係性、そしてイノベーションとGDPとの関係性についての部分をなんとか完成させようと、四苦八苦していました。これは、今までの論文数の分析とはくらべものにならないくらい困難に思われましたが、幸い、文科省科学技術・学術政策研究所の報告書に、OECDのイノベーションについてのデータを分析したDISCUSSION PAPERがあり、そのデータを使わさせていただいたところ、一応の分析ができました。やってみると、僕が想像していたよりも、きれいなデータが得られて、ちょっとした驚きでもありました。そして、まがりなりにもパス図(仮説)を完成することができました。ただ、僕の統計学的分析の知識は初歩的なものであり、読者のみなさんで間違いに気づかれた方があればご指摘いただければ幸いです。

 あさっての月曜日には国立大学協会の総会が開催されるとのことですが、僕のこのブログについても、懇親会の時などにフランクな議論をしていただくとありがたいと思っています。

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(4)イノベーション指標と論文数の関係性についての国際比較

  次に、イノベーションの指標と学術論文数及び研究開発資金の関係性について、国際比較を行った。

 イノベーションの指標については、種々提案されており、どの指標が最適であるのか定説は得られていないのではないかと思われる。今回は、文部科学省科学技術・学術政策研究所の報告資料をもとに、企業のイノベーション実現割合と、論文数、研究開発資金との相関を分析した。

1)イノベーション実現割合と論文数および研究開発資金の相関

 文部科学省科学技術・学術政策研究所のDISCUSSION PAPER NO.68 「国際比較を通じた我が国のイノベーションの現状」(文献8)では、OECDから刊行されたInnovation in Firms (2009)、および「第2回全国イノベーション調査」(科学技術・学術政策研究所)の調査結果から、企業における各種イノベーション実現割合といくつかの要因についての相関分析がなされている。この報告書の分析対象国は、イギリス、オーストラリア、オーストリア、オランダ、スイス、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、日本、ニュージーランド、ノルウェー、フィンランド、フランス、ベルギー、ルクセンブルグの15か国であるが、今回の論文数および研究開発資金との相関分析においては、ルクセンブルグは人口が約53万人と少なく参考にしにくい国であること、一人当たりGDPおよびGDP当り論文数のデータが外れ値をとり、そのデータを含めると集団の正規性が認めらなくなるので除外し、14か国で分析を行なった。

 イノベーション実現割合の調査期間は多くの国が2002-2004年の3年間であるが、スイスでは2003-2005年、オーストラリア、ニュージーランドでは2004-2005年となっている。日本の調査期間は2006-2008年である。また、各国のデータには、統計処理の各国間の違いがありうることも念頭におく必要がある。

 「第2回全国イノベーション調査」におけるイノベーションの定義は「革新的な製品・サービスまたは業務の改善を目的としたプロセスの開発に必要とされる設計、研究開発、市場調査などの取り組み」とされ、「プロダクト・イノベーション」および「プロセス・イノベーション」を基本的な成果としている。

 プロダクト・イノベーションは「新製品または新サービスの市場への投入」と定義され、プロセス・イノベーションは「新プロセスの導入または既存プロセスの改良」と定義されている。ただし、プロダクト・イノベーションは、当該企業にとって新しい製品やサービスの投入を意味するものであり、必ずしも市場にとって新規性を示す指標ではない。「市場にとって新しいプロダクト・イノベーションの実現割合」が画期性を表す指標として、また、「実現したプロダクト・イノベーションが売上高に占める割合」が、経済的インパクトを表す指標として分析されている。

 表25に文献8「国際比較を通じた我が国のイノベーションの現状」(文部科学省科学技術・学術政策研究所DISCUSSION PAPER NO.68 )のデータの中から、今回の分析に使用したデータを示した。

 日本は、企業のプロセス・イノベーションの実現割合では下から5番目、プロダクト・イノベーションでは下から2番目であり、特に市場にとって新規性のあるプロダクト・イノベーションの実現割合は最下位となっている。

 表26に同文献におけるイノベーション実現割合に影響を及ぼす要因の重回帰分析の結果のまとめを簡略化して示した。原著ではロジットモデル及びトービットモデルにより分析がなされ、有意水準は10%、5%、1%で示されているが、5%または1%の危険率で正相関した要因を〇で示した。なお、△は負の相関を示す。

 

 文献8のイノベーション実現割合等のデータに、本報告書で今まで検討してきたGDP当りの論文数およびGDP当りの研究開発資金のデータを加えて、単純な相関を検討した(表29)。

 

 論文数は2002-2004年の平均値、研究開発資金は2003年値を用いた。また、Top10%補正論文数およびTop1%補正論文数との相関を検討するために、文部科学省科学技術・学術政策研究所の阪らの報告書(文献2)のデータを用いたが、2000-2002平均値のデータであるため、それに合わせて2000-2002年の通常論文数でも検討した。観測数は欠損値の関係でイギリス、オーストリア、オランダ、デンマーク、日本、ノルウェー、フィンランド、フランス、ベルギーの9か国であり、この条件では相関係数が0.67以上あれば、危険率0.05以下で統計学的に有意である。

 この条件では、イノベーション実現割合、プロダクト・イノベーション実現割合、プロセス・イノベーション実現割合と危険率0.05 以下で有意の正相関を示す要因は、各イノベーション実現割合相互の相関を除いてはなかったが、新規プロダクト・イノベーション実現割合とは、2002-2004平均論文数および2000-2002平均論文数が、プロダクト・イノベーションが売上高に占める割合とは、研究開発活動実施割合および2000-2002平均論文数が有意の正相関を示した。また、イノベーション活動で高等教育機関と協力した割合と2002-2004平均論文数の間には有意の正相関が認められた。

 観測数を14か国に増やした場合の2002-2004年平均論文数と新規プロダクト・イノベーション実現割合の散布図を図72に示す。

 なお、観測数が14か国の場合、2002-2004年平均論文数(対GDP)とプロダクト・イノベーション間の相関の確率値はP=0.05125であり、論文数は新規プロダクト・イノベーション実現割合だけではなく、プロダクト・イノベーション実現割合とも相関があるものと見做してよいと思われる。

 観測数が14か国の場合、公的大学研究開発資金(政府および非営利団体から大学への研究開発資金)と新規プロダクト・イノベーション実現割合との間にも、図73に示すように、統計学的に有意の正相関を認めた。

 

 一方、政府から公的機関への研究開発資金は、イノベーション実現割合、プロダクト・イノベーション実現割合、新規プロダクト・イノベーション実現割合と統計学的に有意の負の相関を示した。政府から公的(政府)機関への研究開発資金(対GDP)と新規プロダクト・イノベーション実現割合との散布図を図74に示す。これは、先の項で図36で示した、政府研究開発資金の公的(政府)機関への資金と大学への資金の比率が、GDP当り論文数と負の相関をするというデータと整合的である。

 

 また、高注目度論文数(Top10%およびTop1%補正論文数)とイノベーション実現割合の相関を検討したが、通常論文数に比較して同等もしくはそれ以下の相関であった(表29)。

 

2)イノベーション実現割合とGDP増加率(経済成長率)との相関

 イノベーション実現割合がどの程度後年のGDP増加率と相関するか、つまり、その後の経済成長率をどの程度予測できるかについて、単純な相関分析によって検討した。

 日本を除いて、調査期間が2002-2004、2003-2005、2004-2005年であるので、2005年以降の各種期間におけるGDP増加率と、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、新規プロダクト・イノベーションの相関を検討した(表30)。

 

 3つのイノベーションの区分の中で、プロセス・イノベーションが後年のGDP増加率と比較的良好な相関を示し、2005-2008年から2010-2011年にかけての期間のGDP増加率と最も良く相関した。1年間という短期間におけるGDP増加率との相関係数は低かった。

 プロダクト・イノベーションについても、2005から2011年にかけての増加率とは統計学的に有意の正相関が認められた。新規プロダクト・イノベーションについては統計学的に有意の相関は認められなかった。

 プロダクト・イノベーション実現割合とGDP増加率(2011/2005)の散布図を図75に示す。この中でイギリスが外れ値的な位置にあるが、2005~2011年の期間はリーマンショックの時期が含まれており、その影響が反映されている可能性がある。

 

<含意>

 今回、学術論文数とイノベーション、そして経済成長率との関係性を調べるために、OECDのInnovation in Firmsおよびその関連文献8)にもとづいて、企業における「イノベーション実現割合」を指標として、ヨーロッパを中心とする限られた国の間であるが、相関分析を試みた。

 イノベーションの指標として何がもっとも適しているのか定説はないと思われるが、今回用いたイノベーション実現割合は、後年のGDP増加率(中長期的経済成長率)と有意の正相関が認められ、イノベーションの指標として分析するには適切な指標の一つではないかと考えられる。

 イノベーション実現割合は、大きくプロダクト・イノベーション実現割合とプロセス・イノベーション実現割合に分けられ、また、プロダクト・イノベーションの中で、市場において新規性のあるプロダクト・イノベーション実現割合(以下新規プロダクト・イノベーション)が別途分析されている。

 今回の、GDP当り論文数との相関の検討では、この新規プロダクト・イノベーションと論文数との間に有意の正相関が認められた。また、プロダクト・イノベーションと論文数との間にも正相関があると見做してよいと思われる。そして、高等教育機関と協力した企業の割合と論文数にも有意の正相関が認められた。

 論文数は大学の研究開発機能を反映していると考えられるが、今回の結果は、大学の研究開発機能が高い国ほど、大学と産学連携を行う企業の割合が高く、その結果、新規プロダクト・イノベーションの実現割合も高いことを裏付けていると考えられる。この際、高注目度論文と特許件数とのサイエンス・リンケージの報告(文献3)もあるので、論文そのものが直接イノベーション実現に結び着く可能性もあると思われるが、大学の研究従事者の多さが、その国の論文数の最大の決定要因であることから、大学に豊富な研究従事者を擁している国ほど、より多くの企業への支援に対応でき、企業のイノベーション実現割合も高くなることが考えられる。

 高注目度論文数とイノベーション実現割合との相関を検討したところ、相関係数は通常論文数に比較して若干低い傾向にあり、その優位性は認められなかった。より多くの中小規模企業にプロダクト・イノベーションを実現してもらおうと考えた場合、大学は少人数の研究開発従事者で少数の高注目度論文の産生を目指すよりも、普通論文数とFTE研究従事者数を増やすことに注力する方が重要であることを示唆していると思われる。

 なお、日本の新規プロダクト・イノベーション実現割合は、今回検討した諸国の中では最下位であるが、日本の特許件数の多さは現在でも世界有数である。特許件数の多さが必ずしもイノベーション実現割合の高さを反映しないことに留意する必要がある。

 

 論文数と新規プロダクト・イノベーション実現割合およびプロダクト・イノベーションの売上高に占める割合との間に、より良好な相関関係が認められたことは、革新的で利益に結び付きやすいイノベーションの実現に大学等の高等教育機関が大きな貢献をしていることを示唆している。一方、プロセス・イノベーションについては、論文数との相関が低く、企業独自の努力で実現されていることが示唆された。新規プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションという二つのイノベーション実現割合と論文数との相関において、これほど明確な違いが観察されたことは、たいへん興味深い結果であるとともに、説得力のある合理的な結果であると思われる。

 文献8の分析では、中小規模企業と大規模企業に分けた場合の各要因の相関分析がなされており、それによれば、中小規模企業では高等教育機関と協力した割合とイノベーション実現割合との間に有意の相関が認められたが、大規模企業では認められなかったとのことである。(なお、文献8には、中小規模および大規模企業に分けた場合の元データが提示されておらず、本報告では分析ができなかった。)

 大規模企業では研究開発体制が整っており、独自にイノベーション実現が可能であるが、中小規模企業では研究開発体制の構築が困難であり、大学等の高等教育機関との連携が、イノベーションの実現、特に、新規性があり高収益に結び付きやすいプロダクト・イノベーションの実現のためにクリティカルな要因となっていることが示唆される。

 論文数ばかりではなく、大学への政府及び外部からの研究開発資金、および公的大学研究開発資金(政府と非営利団体から大学への研究開発資金)と、新規プロダクト・イノベーション実現割合との間に有意の正相関が認められたことは、本報告の前項で示した、論文数と両研究開発資金が強い正相関をする分析結果と、整合性のある結果である。

 一方、公的(政府)機関への研究開発資金については、プロダクト・イノベーション実現割合と有意の負の相関が認められたが、これは、本報告の前項で示した、政府支出研究開発資金の公的(政府)機関/大学比率と、論文数とが負の相関を示した結果と、整合性のある結果である。

 限られた科学技術予算の中で、公的(政府)機関への研究開発資金投入を重視する国ほど大学への研究開発資金の投入が少なくなりやすく、その結果大学のFTE研究従事者数が少なくなり、学術論文数も少なくなり、企業の新規イノベーション実現割合も低下するものと考えられる。公的(政府)機関では、防衛、原子力、宇宙などの多額の研究開発費を必要とする事業に選択と集中的な予算配分がなされているが、投入金額の割に企業のプロダクト・イノベーション実現に結び付く件数(つまりイノベーション生産性)が低いものと考えられる。

 

 以上の結果にもとづき、図71のパス図を修正し「論文産生とイノベーション実現に関係する諸要因のパス図(仮説)」として図76に示した。今回の検討で、GDPから出発しGDPに回帰するパス図が一応完成したことになる。

 このパス図は、大学の研究開発活動(論文数)とイノベーション、そして経済成長への流れの主流を、[GDP⇒政府支出研究開発資金(FTE)⇒公的大学研究開発資金(FTE)⇒大学研究従事者数(FTE)⇒通常論文数⇒中小企業プロダクト・イノベーション実現割合⇒中長期経済成長率]と考えるものである。もちろん、この仮説を裏付けるためには、今後の詳細な研究が必要であるし、また、今回分析した国々はヨーロッパ諸国が中心であることにも留意する必要がある。さらに、大学の機能、あるいはミッションとしては、教育機能、研究機能、およびそれに関連した社会貢献機能などがあり、このパス図は大学の機能、あるいはミッションの一部を示しているにすぎない。

 前項でも述べたが、日本政府はこの10年間、大学への研究開発資金(FTE)を絞りつつ、大学のFTE研究従事者数を削減し、その結果学術論文数が停滞~減少し、人口当りあるいはGDP当りの論文数で先進国中最下位となり、研究面での日本の国際競争力を大きく減じてきた。大学への基盤的交付金から競争的資金への移行、評価制度の導入、選択と集中(重点化)政策がなされてきたが、それらの政策によってはFTE大学研究従事者数の減少による日本の研究機能の低下をカバーできるどころか、むしろ悪化を促進した可能性がある。また、産学連携の重要性が叫ばれ、この10年間で産学連携の仕組みづくりが整備され、それなりに企業との共同研究数や大学発ベンチャー数も増えたが、いかんせん大学のFTE研究従事者数が削減される状況下では限界があり、産学連携によるイノベーション実現の面でも海外諸国に大きく水を開けられたと考えられる。

 今回の分析では、大学への公的研究開発資金投入が、どれだけの経済成長に結び付くかという費用対効果(または投資効果)を正確に示すまでは至っていないが、この10年間に世界各国が大学という機関に公的研究開発資金を投入してイノベーション実現と経済成長を図っている姿をデータ的に明らかにすることにより、大学を介して経済成長に貢献するためには、政府や大学が何に注力するべきかという骨子(主流)を示唆することができたと考える。(なお、今回の各相関分析の回帰直線をたどって計算すると、きわめて単純な計算では、GDP当りの大学への公的研究開発資金が0.1%多い国は、後年のGDP増加率が年率にして0.125~0.15%多いという計算にはなる。つまり、日本と同規模の国をイメージすると、日本よりも公的大学研究開発資金が5000億円多い国は、後年のGDP増加率が年6250~7500億円分多い国となっている。)

 

 その骨子(主流)とは、大学のFTE研究従事者数増⇒通常論文数増⇒中小企業のプロダクト・イノベーション実現割合向上⇒中長期経済成長率向上、である。これは、取り立てて目新しいことではなく、今までにも各大学が取り組んできた地域との産学連携について、FTE研究従事者数を増やすことによって、特に中小企業との共同研究件数をいっそう増やそうとすることに他ならない。

 明確な根拠にもとづかずにすこぶる感覚的になされる「選択と集中」政策や「重点化」政策は、この主流の妨げになる場合が多いと考えられる。限られた国家予算の中で、経済効果がはっきりしない大規模研究事業に集中投資しがちな国は、それだけ企業のイノベーション実現率は低下する。これは、公的(政府)機関への研究開発資金投入が多い国ほど、論文数やプロダクト・イノベーション実現率が低いという今回のデータによって裏付けられ、日本は、その典型的な国家となりつつある。

  また、この10年間、日本では大学への基盤的な交付金を削減してFTE研究従事者数を減らし、それを、競争的資金と銘打って上位大学に「選択と集中」あるいは「重点化」して再配分する政策が続けられているが、これは、日本全体としてはFTE研究従事者数の削減を図りつつ、日本の国内でFTE研究従事者数を移動させているだけであり、企業のイノベーション実現率の向上につながらないことは容易に想像できる。また、選択と集中(重点化)はある時点を超えると効果の逓減が起こり生産性が低下するが、そのまま生産性の低いセクターに資源を集中すればするほど、国全体としての生産性は低下する。

 海外諸国のデータからも、日本全体の大学のFTE研究従事者数を増やさない限り論文数は増えないし、中小企業のプロダクト・イノベーション実現率も向上しないと考えられる。また、前項でも述べたように、競争的資金を増やすことは、その申請と審査に時間と労力がとられてさらに研究時間が減少し、FTE研究従事者数が減少する方向に働く。

 評価制度についても、費用対効果のはっきりしない評価制度をクレームがつかないようにより完璧にしようとすればするほど、評価にかかる労力と時間、評価される側の負担が増え、これもFTE研究従事者数が減少する方向に働く。

 もし、仮に、数多くの大学の機能の中で、今回示した骨子(本流)だけを評価すると仮定した場合、FTE研究従事者数、通常論文数、中小企業との共同研究数(イノベーション実現支援数)の3つの指標をモニターするだけで事足りるのではないかと思われる。そして、これを増やそうと努力する大学に、地方大学、大規模大学に関わらず、公的研究開発資金(FTE)を、後述のような国としての目標達成に必要なだけ投入することにしてはどうか。そうすれば、評価や競争的資金に伴う申請と審査に要する膨大な労力を削減でき、その分FTE研究従事者数をさらに増やすことができる。

 ただし、何度も説明を加えるが、FTE研究従事者数とは、研究時間を考慮に入れてフルタイム換算した研究従事者の数である。つまり、例えば現在の大学研究者の研究開発に従事する時間が50%であると仮定すると、教育など他の業務をさせずに100%研究開発に専念させることができれば、FTE研究従事者数を2倍に増やしたことになるし、研究開発人件費(FTE)も2倍に増やしたことになることに留意されたい。

 国としての目標の規模感としては、今回検討した海外諸国の現時点でのデータにおける平均を目指すのであれば、日本の企業のイノベーション実現割合を約2倍にする必要がある。そのためには、大学のFTE研究従事者数を約2倍に増やす必要あり、そのためには、大学への公的研究開発資金(FTE)も約2倍に増やす必要がある。この際、大規模大学にだけ重点化して増やすのではなく、中小企業のイノベーション実現率向上に貢献するためには、地方大学のFTE研究従事者数や公的研究開発資金(FTE)も2倍に増やす必要がある。

 もっとも、日本がFTE研究従事者数を2倍に増やすことができた暁には、海外諸国はさらに増加させている可能性があり、2倍程度の規模感では追いつけない可能性もある。

 過去10年間、日本とは対象的に、すべての先進国・新興国において大学への投資が増やされ、大学のFTE研究従事者数が増やされ、学術論文数が増え、産学連携が推進され、企業のプロダクト・イノベーション実現割合が高まり、それぞれの国なりに経済成長基礎力ともいうべき力をつける努力がなされてきた。日本は、今からでも、このことを海外諸国に学ぶべきであると思われる。

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 いかがだったでしょうか?今回の報告がもとになり、多少なりともデータにもとづいて、今後の日本の大学のグランドデザインや、思い切った改革案を議論していただくきっかけになったら幸いです。

 僕が三重大学長の時に、「地域イノベーション学研究科」という大学院を立ち上げたのですが、これは、地域の中小企業や自治体の課題を研究テーマとする大学院であり、まさに、今回の分析結果から得られたパス図の骨子(主流)に100%沿うものであったと思います。

 また、三重県には「みえメディカルバレープロジェクト」という産学官民連携ネットワークがあり、10年以上にわたって根気よく産学官民連携の取り組みを継続しているのですが、その経済効果は、平成14年~23年の間に全国レベルで3814億円(三重県内1063億円)、雇用数16971人(三重県5454人)とはじき出されています。

 せっかくこのような経済効果がデータとしてはじき出されているにもかかわらず、政府が大学のFTE研究従事者数を減らし、すこぶる感覚的に上位大学への選択と集中(重点化)政策を推し進め、特に地方大学の研究開発機能を低下させて、地域企業のイノベーション実現率にマイナスとなる政策をとり続けているとは、ほんとうに情けない話です。

 

 

 

 

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