ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

台湾に学ぶ(その3):台湾の大学は臨床医学論文数で日本を圧倒

2012年05月11日 | 高等教育

 GWでブログを長く休んでしましたが、やっと再開です。長く休んでしまうと、ついつい元のペースに戻るのにちょっと時間がかかってしまいますね。

 さて、前回は、国立台湾大学がウェブ上で公開しているデータをご紹介しました。そのデータから、論文数に影響する因子を重回帰で分析してみましたね。その結果は、常勤教員数、博士課程学生数、研究の契約件数などがプラス因子であり、授業科目数(教育の負担)がマイナス因子という、あたりまえといえば、あたりまえの結果でした。

 国立台湾大学の学部別の論文数については、いくつかの学部の中でも、工学系学部と医学系の論文数の伸びが著しかったですね。工学系の論文数の増は、最近の台湾のコンピュータ企業の躍進とも関係していると感じられます。

 私の専門は臨床医学なので、臨床医学について、さらに詳しく調べてみることにしました。

 それで、トムソンロイター社InCitesを用いて分析しました。このデータベースは使いやすいようにセット化されたデータベースで、大学ごとに国際的な論文数の比較をすることが、素人にも簡単にできます。

 台湾の医学部を有する12の大学の臨床医学の論文数の変化を調べてみました。そして、その中で、中央および地方から適当に選んだ5つの大学(3つの国立大学と2つの私立大学)と、日本の医学部を有する国立大学の中で、中央および地方から適当に選らんだ6大学の論文数を示したのが下の図です。大学の選択は、豊田が独断で選んだものです。台湾の大学を暖色系の色で、日本の大学を寒色系の色でプロットしてあります。

 台湾の大学は国立大学も私立大学も、また、中央の大学も地方の大学も臨床医学論文数の急速な伸びを示しています。一方日本の大学では、中央の大学では停滞し、地方の大学では減少し、どんどんと台湾の大学に追い抜かれていますね。

 台湾の上位大学は、どんどんと日本の旧帝大を追い抜き、東京大学に迫っています。実は、今回のデータは5年間の論文数の平均をプロットしたものなので、国立台湾大学の臨床医学論文数は、このグラフでは東京大学より低くプロットされていますが、単年で計算するとすでに東大を追い抜いているのです。

 ここで示した日本の2つの地方国立大学では、論文数は減りかけていますが、今までのブログで何度も説明したように、これは彼らが頑張っていないからではなく、予算削減などの様々な負荷が、余力の小さい大学のFTE教員数(研究者×研究時間)に大きくダメージを与えたためと考えられます。台湾では下位の大学においても論文数が増えており、日本の地方国立大学との差は急速に開いていますね。

 たとえば、National Yang-Ming University (国立陽明大学)では、2000年頃には日本の中堅のY国立大学と同じくらいの論文数でしたが、約10年間の間に実に2倍以上の論文数となっています。

 典型的な地方国立大学であるX大学では、2000年頃はNational Cheng-Kung University(国立成功大学)と同じ程度の論文数でしたが、約10年間で1.5倍引き離されました。幸いX大学では論文数の低下率がY大学ほどひどくなかったので、1.5倍にとどまっていますが、大同小異です。

 いったい、なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか?

 政府支出研究費の増えている台湾と、停滞~減少している日本との差であると言えばそれまでなのですが、それにしても、日本と、論文数が増えている台湾などの諸外国との比較を、もう少し詳しく調べてみる必要があるように感じます。3月に国立台湾大学と国立成功大学を訪問する機会に恵まれましたので、次回のブログでその報告をさせていただきたいと思っています。

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