ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、前国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

論文の国際共著率と注目度(国大協報告書草案34)

2015年02月12日 | 高等教育

  1月28日の国大協調査企画会議での僕のプレゼンの時に、委員のみなさんからいくつかの貴重なご意見をいただきました。その一つが論文数を"人口あたり"で表現することの是非についてでした。それで、"生産年齢人口あたり"でも検討したのですが、大勢は変わりませんでした。

 このほかにもご意見をいただきました。その一つが「国際共著率について報告書で触れていないのはなぜか?」というご質問でした。国際共著率は僕が分析に用いているデータベースInCites™では分析することが不可能である旨を返答したのですが、やはり重要なことがらなので、文科省科学技術・学術政策研究所のデータを借用して、説明を加えておくことにします。

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〇論文の国際共著率と注目度の関係性について

 論文の国際共著率と論文の注目度(≒質)の関係性については、すでに「阪彩香、桑原輝隆:科学研究のベンチマーキング2012―論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況―、文部科学省科学技術政策研究所、調査資料-218」にデータが示されているところであるが、重要な事項であるので、本報告書においても、そのデータにもとづいて、論じることにする。

 図表III-157は、主要国における論文の国際共著率の推移を、上記調査資料のデータにもとづき図で示したものである。ヨーロッパ諸国では、国際共著率が急速に上昇し、多くの国で50%を超えている。米国も国際共著率が上昇しているが、ヨーロッパ諸国ほどではなく、35%を超えたところである。日本も上昇しつつあるものの、米国よりも低く、25%を超えたところである。中国、韓国については、あまり大きな変動はなく、25%前後で推移しており、現在日本と近い共著率となっている。

 

  次に、国際共著率と論文の注目度との関係性を検討するために、2010年の国際共著率とInCites™による相対インパクトimpact relative to world)との相関を調べた。その結果、両者の間には決定係数0.7416の正相関が認められた。つまり、国際共著率の高い国ほど、相対インパクトが高い、すなわち被引用数が多い論文を産生していることが示唆される。ただし、米国は国際共著率の割には、相対インパクトが高い国であり、ポーランドは国際共著率の割には、相対インパクトが低い国となっている。

 


  国際共著率は、論文数のカウントにも影響を及ぼす。つまり、例えば整数カウント法によれば、2国間の共著論文は、実際の論文は1個であるが、それぞれの国の論文として「1」とカウントされるので、世界全体としては「2」個と数えていることになる。2国間の共著論文を、それぞれの国に「1/2」個割りあて、合計が「1」となるようカウントするのが「分数カウント法」である。

 どの国も多かれ少なかれ国際共著論文が存在するので、整数カウント法よりも分数カウント法の方が低い値となるが、国際共著率が高い国ほど、その落差が大きい。

 そこで、このカウント法の違いが、日本の人口あたりおよび生産年齢人口あたり論文数の国際順位に影響を与えるかどうかを確認した。

 まず主要国における人口当り論文数の推移を整数カウント法と分数カウント法で図表III‐159に示した。分数カウント法にすると、国際共著率の高いヨーロッパ諸国の値が相対的に低くなり、一部の国で国際順位が入れ替わる場合が見られる。たとえば、整数カウント法ではドイツは米国よりも多いが、分数カウント法では逆転している。

 しかし、日本の場合は、日本の下位にあるポーランドとの差は若干広がるものの、上位の国を逆転するまでは至らなかった。

 

 生産年齢人口あたり論文数についても、下位のポーランドとの差はさらに拡大するが、それでもなお、上位の国を逆転するまでには至らず、日本の国際順位の大勢は変わらなかった。


 

 

 論文の国際共著率は近年上昇し続けており、特にヨーロッパ諸国では50%を超える国が続出している。これはEUの形成に伴い、EU域内の大学間の交流・連携等が急速に進んだためであると思われる。

 日本も近年国際共著率が年々上昇しているが、現在25%を超えたところであり、中国、韓国と近い値となっている。

 中国・韓国については以前から25%前後の国際共著率があり、現在でも同程度の値が続いている。中国、韓国が当初から国際共著率がある程度高い数値を示していた理由としては、新興国における学術の黎明期においては海外先進国との共同研究という形を取らざるを得ない場合が多かったからではないかと考える。その後、自国の論文産生の爆発的な増加に伴い、国際共著論文も急速に増加し続けているわけであるが、比率をとればほぼ一定ということになっているものと考えられる。

 国際共著率と相対インパクトは有意の正相関を示し、これは、国際共著論文の方が被引用数が多くなる確率が高いことを示している。ヨーロッパ諸国が軒並み相対インパクトを高めて米国を追い抜いたのは、この国際共著率の急速な上昇によるところが大きいと考えられる。

 国際共著論文の方が被引用数が多くなる理由としては、海外の研究者の優れた技術を借りあうことができ、臨床研究ならば論文の質の大きな要素である症例数を増やすことができ、また海外の複数の研究者の目を通すことによってより厳しく研究計画や論文がチェックされることになり、質の高い論文が生まれる確率が高まることが考えられる。もう一つの可能性としては、複数の国の著者からなる論文は、仮に同程度の質の論文であっても、それぞれの国の研究者に引用されやすく、被引用数が多くなりやすい傾向にあることが考えられる。(ただし、可能性であって、実際にそのようなことが起こるのかについては検証されていない。)

 日本の相対インパクトが近年徐々に上昇していることについても、この国際共著率の上昇によって説明できるかもしれない。ただし、米国は国際共著率の割には相対インパクトが高い国であり、また、国際共著率が上昇しているにも関わらず、その相対インパクトは一定である。論文の注目度には国際共著率以外の何らかの別の因子も関与しているものと思われる。

 いずれにせよ、わが国の大学の国際共著率は徐々に上昇し続けているが、今後、なお一層の国際化に努めることが必要不可欠である。

 

 国際共著率は、論文の注目度に与える影響以外に、論文数のカウントにも影響を与える。本報告書が分析に用いているInCites™は整数カウント法である。分数カウント法では2つの国による共著論文の貢献度を各国「1/2」と仮定して、論文数も1/2個とカウントする。分数カウント法の方が整数カウント法よりも少なくカウントされ、国際共著率が高い国ほど、大きな落差を生じることになる。

 科学技術指標2013統計集のデータにもとづいて、人口あたり、および生産年齢人口あたり分数カウント論文数を検討したところ、日本と欧米諸国との差は縮小したものの、日本の国際順位が変わるまでには至らなかった。これは、日本の研究(論文産生)面における国際競争力の低下が、"実質的"であることを意味する。仮に、日本が国際共著率をヨーロッパ諸国並みに高めたとしても、相対インパクトは高まる可能性があるものの、量的な差を縮めることはできない。

 資源の乏しいわが国が海外へものやサービスを売り、海外からものやサービスを買うためには、イノベーションの「質×量」の相対的な力関係で海外諸国を上回っている必要がある。仮に「イノベーション力∝研究力」と仮定すれば、論文(研究力)の「質×量」について他国を上回る必要がある。そのためには、「質」を高める努力と同時に「量」を増やす努力をしなければならないのである。

 

 

 

 

 

 

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では、日本の論文の質(注目度)はどの程度か?(国大協報告書草案33)

2015年02月09日 | 高等教育

 前回のブログ「日本の生産年齢人口あたり論文数は第何位か?」をお読みいただいたみなさんの中で、何人かの方々が、では論文の質(≒注目度)についてはどうなのか?ということをつぶやいておられますので、高注目度論文数についても生産年齢人口あたりで計算したグラフをお示しすることにします。また、研究者数や研究費との関連はどうか?ということもつぶやかれていますので、それについて以前にお示ししたグラフを再度お示ししておきます。新たに僕のブログを読んでいただいたみなさんが、以前の僕のブログまで遡ることはとっても困難ですからね。

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5)日本の生産人口あたり高注目度論文数について

 図表III-151に、学術文献データベースであるInCites™における相対インパクト(impact relative to world)の推移を主要国で示した。相対インパクトは、その国の論文あたり被引用数を、世界における論文あたり被引用数で割った比率である。つまり、この値が「1」である場合は、世界の論文の被引用数の平均ということであり、1以上の場合は世界の平均以上に引用がなされているということであり、1以下の場合は世界の平均以下の引用しかなされていない、ということを意味する。なお、InCites™、すなわちWeb of Scienceというデータベースに収載されている学術誌は、管理者がある基準でもって取捨選択をした学術誌であるとされ、世界平均とはいっても、ある程度質が担保された学術誌に掲載された論文の被引用数ということになる。もちろん、和文で書かれた論文のほとんどは、この対象になっていない。

 なお、論文の「質」=「被引用数(注目度)」とは必ずしも言えないが、同業の研究者が引用に値するという評価を与えた論文ということであることから、ある面の「質」を反映している指標であると考える。本報告書では論文の「質」≒「注目度」として論じる。

 図表III-151を見ると、1990年頃までは、米国が常に被引用数トップであったが、2000年頃からヨーロッパ諸国の被引用数が相対的に上昇し、米国は相対インパクト1.4という高い値を維持しているものの、他国に追い抜かれ、現在12位となっている。

 日本の相対インパクトは以前は0.8程度であり、世界平均よりも被引用数が少なかった。そして、1990年代に多くのヨーロッパ諸国が被引用数を増やした流れについていけず、他国との差が開いた。日本の相対インパクトが徐々に上がり始めるのは2004年頃からであり、現在ようやく世界平均の1に達したところである。

 日本は中国、台湾、韓国よりも相対インパクトが高い値であるが、これらの新興国はいずれも急速に相対インパクトを高めており、日本に近づきつつある。

 日本の相対インパクトの順位は、今回調べた範囲では第26位である。

 次に、科学技術指標2013の資料のデータより、高注目度(Top1%補正)論文数について作図した図表III-152を示す。Top1%補正論文数とは、被引用回数が各年各分野で上位1%に入る論文の抽出後、実数で論文数の1/100になるように補正を加えた論文数である。この指標は論文の「質×量」を反映する指標であると考えられる。


 2000-02年から2010-12年にかけて、日本の増加は海外諸国に比較して少なく、第10位となっている。前節では通常論文数について日本は第5位であることを示したが、この結果は、日本の研究面での国際競争力の低下が論文数だけではなく、論文の注目度(≒質)も伴っていることを示唆している。

 これを人口あたりで表現したグラフが図表III‐153である。

 科学技術指標に示された国の中では日本は第21位であり、ポーランドとほぼ同じ値である。もし、これ以外の国についても調べることができれば、日本の順位はさらに低くなるものと考えられる。

 生産年齢人口あたりで表したグラフが図表III-154であるが、日本の値は多少高くなっているものの、順位は変わらない。


 

 

 日本の研究(論文産生)面での国際競争力は、量にとどまらず、注目度(≒質)においても低下している。

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 さて、ここで、以前にお示しした、OECDの公開データにもとづいた研究者数(研究時間を考慮にいれたFTE研究者数)や公的研究資金についての一連の分析結果を再掲しておきます。これは1月28日の国立大学協会でプレゼンをした時のスライドの一部です。

 


以前のブ

 このような国際的なデータ分析から、日本が研究(論文産生)面の量および質について国際競争力を喪失した主な要因は次のようなことであると考えています。

1)大学への公的研究資金が先進国中最低で、増加していない。
2)大学のFTE研究従事者数が先進国中最低で、増加していない。
3)論文数に反映され難い政府研究機関への公的研究資金の注入比率が高い。
4)大学研究費の中で施設・設備費比率が高い。
5)博士取得者数が先進国中最低で、増加していない。

 これらのことが、法人化後の国立大学についてのデータの分析でもっても裏付けられるのかどうか、が次節のテーマです。

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 8. 国立大学群間で論文数の差異を生じた要因の分析

  以上の国際的な分析および国立大学における論文生産性の分析を踏まえて、法人化後の国立大学群間での研究力(論文産生力)における差異を生じた要因について、各大学の財務指標等、利用可能な範囲の指標を用いて可及的に検討した。

 まず、論文数と各種指標の横断面(クロスセクション)分析により、相関係数を検討した。
  
 図表III-155は、2010年の財務指標・学生数等の指標と2012年の論文数との相関を検討したものである。タイムラグを考慮して各種指標と論文数との間で2年の期間を開けているが、2010年の論文数を用いても同様の結果が得られる。




 相関を検討したすべての指標について、有意の正相関が認められた。規模が大きい大学ほど論文数が多く、したがって規模を反映するすべての指標が論文数と相関すると考えられる。ただし、当然のことではあるが、相関係数には強弱がみられる。

 まず、研究者数を反映する指標については、相関係数の高いものから、推定理系FTE教員数、推定理系教員数、常勤教員数、教員人件費の順である。

 学生については、博士課程学生数、修士課程学生数、学士課程学生数の順である。

 研究費関係では、科研費採択件数、研究経費、科研費配分額、受託研究費(国及び地方公共団体以外)、が並び、ついで運営費交付金、寄付金が位置している。


 次に常勤教員あたりの論文数と、常勤教員あたりの各種指標についての相関を検討した。

 
 
 科研費採択件数、受託研究費(国および地方公共団体以外)、研究経費、科研費配分額等の研究費関係の科目が並ぶ。

 また、理系FTE係数、理系係数が有意の正相関を示し、データベースの論文数に反映される論文数は、教員の中でも"理系"教員かどうかに左右されること、また、FTE、つまり研究時間に左右されることを示唆している。

 学生については、博士課程学生数と有意の正相関が認められたが、学士学生数との間には有意の負の相関が認められた。これは、学士学生数が多い大学は教育の負担が大きく、その結果研究時間が短くなってFTE教員数(研究時間でフルタイム換算した教員数)が小さくなり、教員あたり論文数と負の相関をすると考えられる。授業料は、学士、修士、博士数のすべてを反映する指標であるが、相対的に学士数が多い大学が多く、学士教育の負担の論文産生に与える負の効果が強く表現されて、学士学生数ほどではないにしろ、負の相関係数を示すと考えられる。

 このような横断面分析から、国立大学間の論文数産生の差を生じている主な要因として

1)研究従事者の頭数の相違(教員数、研究員数、博士学生数等)
2)研究時間の相違(学士学生数は教育負担を反映し負の要因)
3)人件費以外の研究費の相違(科研費採択件数、科研費配分額、受託研究費、研究経費など)

が示唆される。なお、研究従事者の頭数と研究時間を合わせて、"FTE研究従事者数"として、一つの指標で表現できる。

 OECDの公開データにもとづく各国間の論文数と各種指標の分析により、FTE研究従事者数および大学への研究資金(特に公的研究資金)が論文数と強く相関したが、それと同様のことが、国立大学間においても観察されたことになる。


 


 

 



 

 

 


 


 

 

 

 

 

 

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日本の生産年齢人口あたり論文数は世界第何位か?(国大協報告書草案32)

2015年02月07日 | 高等教育

  1月28日の国立大学協会の企画調査会議で報告をした時に、委員の皆さんからいくつかの貴重なコメントをいただきました。そのうちの一つに"人口あたり論文数"という指標では、財務省や国民への説得力に問題があるかもしれない、ということでした。

 今まで人口あたり論文数を基本としてきた理由は、論文数がイノベーション力の指標であるとすれば、高齢者や子供も含めた日本に住む人々全員を支えるのに必要なイノベーション力(≒論文数)を評価するべきである、という考えからでした。

 しかし、世界でも有数の超高齢化社会となり、人口が減少局面に入った日本において、"人口あたり"の指標は、必ずしも適切でない面もあるかもしれません。そこで、生産年齢人口(15-64歳人口)あたりの論文数でも確認してみることにしました。

 つまり、生産年齢人口の範囲に属する日本人が、自分たちの豊かさを維持するために必要なイノベーション力(≒論文数)を評価しようということになります。

 しかし、生産年齢人口の範囲に属する日本人は、増え続ける高齢者を支えるためには、外国の生産年齢人口に属する人々よりも、量・質ともに、より多くのイノベーションを生み出さなければならないと考えられます。日本にとって必要なイノベーション力は、おそらく、"人口あたり"と"生産年齢人口あたり"の中間にあるのではないかと考えます。

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4)日本の生産年齢人口あたり論文数の主要国との比較

  先の分析では、日本の論文数の海外比較においては、人口あたり論文数を基本的な指標として分析を進めてきたが、日本が超高齢化社会である点も考慮することがあることから、生産年齢人口当りの論文数についても国際比較を行った。

 まず、2013年の論文数を図表III-142に示したが、日本は米国、中国、イギリス、ドイツに次いで第5位に位置している。

 図表III-143には主要国における人口の推移、図表III-144には主要国における生産年齢人口の推移を示した。日本の生産年齢人口の急速な減少が伺われる。

  

 

 

 まず、"人口あたり"でもって2013年の論文数の国際比較を行った(図表III-145)。日本は、調べた範囲では世界31位に位置している。まず、ヨーロッパの小国やシンガポール等が高く、次いで米国、ドイツ、フランス、台湾、韓国等、規模的に日本の前後にある海外諸国が第2グループを形成し、日本は東欧諸国のグループに位置している。

 

 

 図表III-146が”生産年齢人口あたり"の論文数(2013)であるが、日本の順位は人口あたりの31位に比較して28位に順位が上がっている。しかし、第2グループとは依然として大きな差があり、東欧諸国と同じ第3グループに属している。

 

 

 図表III-148および149は、主要国における人口あたり論文数の推移をしめしたものである。なお、論文数は3年移動平均値であり、図には中央年を示している。日本は2000年頃までは、第2グループに属していたが、その後、急速に第2グループについていけなくなり、差が大きく開いていったことがわかる。現在東欧諸国を中心とした第3グループに属しているが、このままのカーブが持続すれば、早晩東欧諸国にも差をつけられ、第4グループに転落すると想定される。

 次に”生産年齢人口あたり"論文数の推移を図表III-149および150に示した。論文数は同様に3年移動平均値であり、図には中央年を示している。”生産年齢人口あたり"で表現すると日本の論文数の推移は、やや上昇傾向を示すのであるが、海外諸国の増加に比較して緩慢であり、"人口あたり"で表現した場合と同様に、2000年以降他国との差が開き、東欧諸国の第3グループに入っている。現在は第3グループの中ではトップであるが、生産年齢人口あたりで表現しても、現在の論文数のカーブが続くとすれば、東欧諸国に追い抜かれるのは時間の問題である。

 

 

 

 

 <含意>

 各種指標を国際比較するためには、何らかの標準化が必要であり、従来人口あたりやGDPあたりの指標で比較することがなされてきた。GDPについても、国民の経済的豊かさを示す指標としては一般的には国民一人あたりGDPが用いられている。

 しかし、人口減少社会に突入している日本の国際比較においては、"人口あたり"という標準化が、必ずしも最適であるとは言い切れない。そこで、今回は"生産年齢人口あたり"論文数で国際比較を行った。

 生産年齢人口あたりで表現すると、人口あたりで表現するよりも、多少は論文数の順位が上がるのであるが、大勢には影響しないことがわかった。

 このことは、日本の生産年齢人口の減少速度よりも、論文数の国際競争力喪失の速度の方がはるかに大きいことを意味する。 

 今回比較をした日本以外の海外諸国の2000年から2013年にかけての人口増加率は平均8.6%、日本は0.3%で、その差分は8.3%、生産年齢人口増加率については海外諸国8.2%に対して日本は8.5%で、その差分は16.7%、、論文数については海外諸国125.3%に対して日本6.5%で、その差分は118.8%となっている。つまり、日本は生産年齢人口の減少以上に、研究(論文産生能力)についての国際競争力を低下させているのである。

 なお、ドイツも実は人口が減少している国家である。2000年から2013年にかけて、ドイツの生産年齢人口は4.2%と減少している。しかし、ドイツはこの間に論文数を48.3%増加させているのである。このことからも、日本の研究力(論文産生能力)についての国際競争力低下を生産年齢人口の減少に起因させることはできないし、また、生産年齢人口が減少するから、研究力もそれ相応に低下してもかまわない、ということにはらないのではないかと思われる。

 2060年には日本の人口は約8千万人、つまり3分の2程度に減少し、現在のドイツと同程度の人口になると推計されている。しかし、現時点においてすら、1億2千万人の人口の日本よりもドイツの方が論文産生数が多く、仮に日本が現在の研究力を維持して、人口が8千万人に減って人口あたり論文数の数値が相対的に高くなったとしても、なお、現時点のドイツに及ばないのである。

 ただし、日本の政策決定者は、日本の18歳人口減少に伴って大学、特に国立大学を削減する政策をとると思われ、その一環として国立大学への運営費交付金等の交付金を従来は年1%削減し、あるいは今後はそれ以上削減する政策を継続する可能性がある。そうすると、教育面での規模の縮小と同時に、現在までの状況においては研究力の低下も進行することになり、現在の研究力を維持することは不可能と考えられる。現在も上昇を続けている海外諸国の研究力(≒イノベーション力)は、あるところでプラトーに達すると考えられるものの、今後しばらくは上昇すると思われ、日本との差がさらに大きくなると想定される。イノベーション力の海外諸国との相対的な力関係で、モノやサービスを海外から買うことができ、あるいは売ることができると考えられるので、日本政府が現在の研究力(≒イノベーション力)を縮小する政策をとり続ける限り、日本の困難な状況はますます悪化することが想定される。

 

 

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わが国の大学間傾斜はどのくらい急峻か?(国大協報告書草案31)

2015年02月05日 | 高等教育

 今日は、我が国の国立大学間における選択と集中度(傾斜度や占有率など)についてです。これらは以前からすでに指摘されていることで、目新しいデータではないのですが、政策決定者(一部の方々かもしれませんが)の皆さんが推し進めようとしている大学の重点化(選択と集中)政策を考える上で、常に念頭に置いておかねばならないデータであると思いますので、繰り返しになる部分も一部にあると思いますが、改めてお示しをしておきます。

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3)各種研究関連指標の国立大学間傾斜と占有率の分析

 次に、財務諸表上の研究関連科目、科研費、学生数および論文数等の国立大学間傾斜(占有率)について検討した。

 図表III-134~III-139まで、70国立大学における各指標2007年度の値(論文数については2006-2008年の平均値)を、大きい値の順に左からプロットしたものである。なお、旧7帝大については橙色でプロットしてある。

 図表に示した順に、運営費交付金収益、授業料収益、研究経費、学士課程学生数、修士課程学生数、博士課程学生数、科研費採択件数、科研費配分額(直接経費)、研究経費、論文数の10指標である。


 また、図表III-140には、上記指標の70国立大学に占める旧7帝大占有率を2004年、2007年、2010年について、概ね占有率の順に示したものである。

 図表III-141は、主要国(米国、イギリス、ドイツ、日本)について、それぞれの国の大学の論文数(2010年値)を多い順にプロットしたものである。なお、日本のデータは国立大学だけではなく、公立大学、私立大学も含む。

<含意>

 図表III-134から139に示した各種指標のカーブの傾斜から、わが国の国立大学においては、すでにかなりの重点化(選択と集中)がなされていることが伺われる。

 ただし、項目によってその傾斜には違いがある。

 傾斜が緩いのは、学士課程学生数および授業料収益という大学教育についての最も基本的な指標である。

 それが修士課程学生数、博士課程学生数という大学院教育の指標になると、傾斜がしだいに急峻となる。

 教員人件費は授業料収益よりも急峻となっている。このことは、授業料収益が概ね教育の負担を反映するとするならば、上位大学は中小規模大学に比較して、教員が研究活動により多くの時間をかけることができることを意味している。先の節でも引用した、文部科学省科学技術・学術政策研究所の神田由美子らによるDISCUSSIN PAPER No80 「減少する大学教員の研究時間」において、教員が研究活動にかける時間は、国立7大学平均が47.6%、その他の国立大学平均が38.3%(2008年)となっているデータとも整合している。

 運営費交付金の傾斜は、教員人件費よりも若干急峻となっているが、次の研究関係の指標の急峻さよりは緩い。これは、運営費交付金のかなりの部分が教職員人件費と対応していること、また、運営費交付金は教育と研究の両面をカバーする交付金であることの反映でもあると考える。

 この傾斜が、研究関係の指標になると格段に急峻となる。

 科研費獲得件数、研究経費、受託研究等収益(国及び地方公共団体以外)、科研費配分額(直接経費)、受託研究等収益(国及び地方公共団体)となるにしたがって、急峻さが増していく。

 なお、論文数の大学間傾斜は、科研費獲得件数や研究経費の傾斜に近いものとなっている。

 これらの指標について、旧7帝大の70大学における占有率を2004年、2007年、2010年と示したものが図表III-140である。

 受託研究費(国及び地方公共団体)の旧7帝大占有率は2007年にやや低下したものの約70%を占め、この研究資金は、ほとんど上位大学のためにあるものと考えざるをえない。

 2004、2007、2010年の推移としては、受託研究等収益(国及び地方公共団体以外)、つまり民間からの研究資金の旧7帝大占有率が上昇していることが気づかれる。これは、法人化後の上位大学の民間企業等からの研究資金獲得努力の賜物であるが、一方では、民間企業等による大学への研究投資の選択と集中度が、国と同様に(または、いっそう)厳しいものであることを示していると思われる。

 論文数の占有率は、科研費獲得件数と研究経費の占有率の間であり、科研費配分額、受託研究等収益の占有率よりも低い。このことは、前節で示した研究資金あたりの論文生産性が上位大学で低いことと整合するデータである。

 総じて、上位大学は教育の負担がより小さく、研究に関わる人材がより多く、研究費をより多く獲得している環境で研究活動を行い、中小規模大学は教育の負担がより大きく、研究に関わる人材がより少なく、研究費がより少ない環境で研究活動を行っている現実が、このデータから伺われる。

 このわが国の大学(国立大学)の重点化度(選択と集中度)が、果たして妥当な程度かどうか、現時点ではデータとして示すことは困難であるが、論文数という指標で見ると、少なくとも日本が範とする主要先進国の大学間傾斜に比較すると、急峻である(図表III-141)。ただし、ハーバード大学という1大学だけは別格である。

 特に、日本は旧7帝大に続く大学の層が薄すぎて、これでは、世界の大学ランキングでとても戦えないと感じる。現在、日本の大学の世界ランキング向上ということもあって、大学の国際化について政策誘導がなされているところであるが、国際化は大いに進めるべきであるとしても、中堅大学の規模を大きくしないことには、国際化だけでは総力戦では戦えないと思われる。日本が目標とするべき人口8千万のドイツに追いつくためには、グラフ上からは旧7帝大に匹敵する研究力をもった大学を合計で30個くらいは作らないと太刀打ちできないと感じさせられる。そのためには、これまでの分析結果からは、まず、それに見合うようなFTE研究者数を確保することが必要であるということになる。

 現在、国立大学においては、運営費交付金を継続的に削減し、その中でも基盤的な運営費交付金、つまり教職員人件費に対応する運営費交付金の削減を中心として、競争的な資金に移行させるような政策がとられており、この傾向は今後ますます強められる可能性がある。しかし、大学のFTE研究者数を減らしつつ、現在でも世界で突出して急峻なわが国の大学間傾斜を、いっそう急峻にさせることは、特に論文生産性の高い中小規模大学の研究力をますます低下させ、国際競争力が高まるどころか、むしろ、わが国全体の研究国際競争力をいっそう弱体化させる恐れがあるのである。

 

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上位大学と中小規模大学とでどちらが論文生産性が高いか?(国大協報告書草案30)

2015年02月03日 | 高等教育

 1月28日の国立大学協会・調査企画会議での報告が終わり一息ついています。スライド100枚を超える資料で説明しましたが、おおむね良好なご評価をいただき、今後、各大学に配布するダイジェスト版の報告書の作成を急ぐことになりました。また、委員の皆様からは、いくつか貴重なご意見を頂戴しましたので、そのご意見を踏まえた報告書にするつもりです。

 ブログの読者の皆さんには、まず前回の続きをご報告しないといけませんね。前回は、研究者数と論文生産性の関係性を分析した結果でしたね。日本では教員の研究時間の測定が経常的に行われておらず、教員数にしても、また、研究費にしても評価することが困難であり、そして国際比較が困難であるという問題がありました。それを、可及的に妥当と思われる仮定のもとに理系のFTE研究者数(フルタイムの研究者に換算した場合の研究者数)を推定すると、大規模大学も中小規模大学も、FTE研究者数あたりでは、ほぼ同程度の論文生産性を示すという結論でした。今回は、大学への公的研究費あたりの論文生産性についての分析です。

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2)研究費あたりの論文生産性の検討

 次に、国立大学への(公的)研究資金あたりの論文生産性について、各国立大学が公表している財務諸表等のデータにもとづいて検討した。

 まず、研究者数の推定と同様に、研究に関わる人件費をどのように推定するかという問題がある。ここでは、前節の研究者数と同様の考え方で推定することとした。つまり、“理系FTE係数”を教員人件費(非常勤教員も含む)に掛けて、データベースに反映されうる研究活動を可及的に反映しうる概略の教員人件費とした。

 まず、図表III-128に教員人件費と論文数の散布図を示した。常勤教員数と論文数の散布図と同様に、正の相関が認められるものの、必ずしも良好な相関は言えない。

 教員人件費に前節の“理系FTE係数”を掛けた値、つまり“推定理系FTE教員人件費”と論文数の相関を検討すると、図表III-129に示すように、直線に近い散布図となる。

 さらに“推定理系FTE教員人件費”に、研究経費、受託研究等収益(国公)、および科研費配分額(直接経費)という概略公的な研究資金を反映していると想定される金額に0.8を掛けた値を加えて論文数との相関をとると、図表III-130のように、やや上に凸の曲線が得られる。0.8の係数を掛けた理由は、各研究費のうち学術論文データベースに反映されうる理系の研究費の割合を約8割と仮定したものである。

 これに、主として民間からの研究資金を反映する受託研究等収益(国公以外)に0.8を掛けて加えた推定理系研究費の総和と論文数の相関を見た図が図表III-131であるが、同様に上に凸の曲線となる。

 

 次に、国立大学間の科研費についての論文生産性について検討した。

 図表III-132は70国立大学において、科研費配分額(直接経費)と科研費あたりの論文数の関係性を示した散布図である。文系中心大学を除いては、科研費配分額の少ない大学ほど、科研費あたりの論文生産性が高いことがわかる。

 ただし、この論文数には科研費に関連しない論文数も含まれている。そこで、文部科学省科学技術・学術政策研究所による「科学研究費助成事業データベース(KAKEN)と論文データベース(Web of Science)の連結によるデータ分析」のデータにもとづいて、40国立大学について、科研費配分額と科研費に関連する論文数(WoS-KAKEN論文数)の生産性について検討した。

 

 図表III-133に示すように、科研費に関連する論文数に限った場合でも、科研費配分額の少ない大学ほど、論文生産性が高いことが示唆される。


<含意>

 前節において、70国立大学における教員数と論文数との関係性を検討したところ、“推定理系FTE研究者数”と論文数との間には、直線的な強い正相関の関係が得られ、少なくとも理系の研究者については、大規模大学においても中小規模大学においても、論文生産性はほぼ同等であることが示唆された。

 この節では、各大学における研究資金と論文数の関係性を検討し、研究資金あたりの論文生産性の分析を試みた。

 各大学の研究資金と論文数の関係性を分析するに際しても“教員数”の場合と同様に、わが国においてはいくつかの困難がある。

 その一つは、大学教員の研究時間の測定が経常的に行われておらず、FTE研究者数(フルタイムに換算した場合の研究者数)のデータが十分に得られないことによる。

 そのために、国立大学へ交付されている運営費交付金のどれだけが研究費部分であり、どれだけが教育費部分であるのか、よくわからないし、運営費交付金の全体が、ある時は研究費として算定され、ある時は高等教育費として算定されることがあり、国際比較も困難となっている。現在、一つの予算の括りとして突出している運営費交付金は継続的な削減の対象となっているが、そのどれだけが研究費の削減になり、どれだけが教育費の削減になっているのか判然としない。

 本節の検討においては、このような制約条件のもとで可及的に学術論文データベースに反映されうる教員人件費を推定するために、前節の教員数と論文数の関係性の分析で用いた“理系FTE係数”を教員人件費に適用することとした。

  研究に関わる教員人件費の財源(資金)については、国立大学においては常勤教員の多くが運営費交付金と対応している“承継教員”であることから、一部は外部資金で賄われているものの、概ね運営費交付金の研究費部分、つまり“公的研究資金”と位置付けてよいと考える。

 教員人件費と論文数の関係性は、図表III-128に示すように、教員数と論文数の関係性と同様に複雑であるが、“理系FTE係数”を教員人件費に掛けて求めた“推定理系FTE教員人件費”は、図表III-129に示すように論文数との間で、直線に近い正相関が認められた。ただし、直線性は完全ではない。この理由としては“教員人件費”にはポスドク等の研究員の人件費は含まれないこと、また、博士課程学生は論文産生の役割の一部を果たすと考えられるが、人件費上は反映されないことなどが考えられる。

 この“推定理系FTE教員人件費”に、受託研究等収益(国及び地方公共団体)、科研費配分額(直接経費)、研究経費という、研究に関連する収益・費用科目の金額を加えていくと、図表III-130に示すように論文数との関係性は上に凸のカーブとなる。ただし、日本においてはデータベースの論文数に反映されるのは理系の論文が大半であるので、研究費の約8割が理系であると仮定し、各研究費の項目に0.8の係数を掛けることにした。なお、0.8の係数を掛けなくても上に凸のカーブが得られる。

  なお、受託研究費にはポスドク等研究員の人件費が一部含まれている。また、研究経費を加えずに、受託研究費(国及び地方公共団体)と科研費配分額(直接経費)を加えるだけで、つまり、純然たる公的研究資金に限った場合でも上に凸のカーブが得られる。

 “研究経費”については費用科目であるが、運営費交付金のどれだけが教員人件費以外の研究資金であるのか判然としないので、それをある程度反映しうる金額として加えた。ただし、“研究経費”の財源については、概ね運営費交付金と推定するが、運営費交付金以外にも寄付金から賄われている部分もあると考えられるし、また、“研究経費”には減価償却費も含まれていることから、財源として施設・設備費補助金等も含まれている可能性がある。なお、受託研究等収益という収益科目は、受託研究費という費用科目と対応しており、また、科研費配分額も財務諸表とは別に処理されるので、これらの研究資金が“研究経費”に反映されることはない。“

 概略の公的と考えられる研究資金に民間等からの研究資金である受託研究等収益(国及び地方公共団体以外)を加えて、論文数との関係性を示した図が図表III-131である。これらの研究関連科目以外に“受託事業等収益”や“補助金”という科目があり、ある程度論文数に反映される可能性があるが、詳細が不明なので、今回の分析では研究資金に加えなかった。

 以上の大学研究資金と論文数の関係性の分析から得られる結論としては、カーブが上に凸になることから、研究資金の多い大学ほど論文生産性が低いということである。これは、公的研究資金に限った場合でも成立する。

 図表III-132は70国立大学と科研費配分額(直接経費)と論文生産性について示した散布図であるが、文系中心大学を除いては、配分額が少ない大学ほど論文生産性が高いことがわかる。ただし、この論文数は科研費と関連のない論文数も含まれているが、科研費に関連する論文数に限った場合でも、科研費配分額の少ない大学ほど、論文生産性が高いことがわかった。

 前節で得られたことと合わせると、少なくとも理系のフルタイム換算をした研究者については、

1.研究者あたりの論文生産性は大規模大学においても中小規模大学においてもほぼ同等である。

2.(公的)研究資金あたりの論文生産性については大規模大学よりも中小規模大学の方が高い。

ということになる。

  大規模大学において研究費当りの論文生産性が低いことは、より単価の高い研究をしているということを示しており、当然と言えば当然であるとも言える。ノーベル賞を受賞したスーパーカミオカンデによるニュートリノの研究にしても、その巨額の研究費に比例した論文数の産生を求めることは不可能である。

  しかし、もし仮に、中小規模大学の大学あたり論文数や(FTEを考慮しない)教員あたりの論文数が少ないことを評価指標として研究機能を低く評価し、中小規模大学の研究資金を削減して大規模大学に再配分するような重点化(選択と集中)政策がなされたならば、日本全体としての論文産生能力(研究力)が低下する恐れがあることを示している。

 

 

 

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